馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

1歳馬の骨盤骨折

2021-01-31 | その他外科

10日前に左後のひどい跛行がはじまった明け1歳馬。

骨盤骨折だろう、ということでX線撮影に来た。

歩けるが、跛行は顕著。

すでに左臀部の筋肉は萎縮し始めている。

立位で、後肢を少し開き気味に立たせ、左尻にDRのFPD(フラットパネル・ディテクタ)を当てて、90KVのポータブル撮影装置で撮った。

股関節臼から恥骨へと割れている。

少し斜め(垂直から角度をつけて)撮ってみたが、判別できない。

後肢を屈曲させて股関節を開いて撮影した。

股関節臼の尾側も崩れている。

骨片もある。

「あきらめた方が良いです」

すぐにTV電話して廃用の手続きをした。

股関節臼の正中よりが矢状方向へ割れて、坐骨へ抜けていた。

体表から超音波で正診するのは難しかったかもしれないが、直腸検査と直腸検査プローブでなら異常がわかったかと思う。

ただし、この馬は262kgでまだ直腸検査するには厳しい大きさだった。

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凍った放牧地で転んだのだろう。

地面が凍れば馬でも転ぶ。

砂を撒くとか、ワラを撒くとか、しかできることはないか・・・・・

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角膜炎の馬を、双眼の検眼鏡で覗き込む。

角膜の損傷、前眼房の異常、虹彩の状態を調べている。

どこかの感染によると思われる跛行の1歳馬をよく触診する。

蹄膿瘍か、屈腱指腱鞘か、球節あるいは蹄関節か・・・・

基本的な「診察」行為に含まれる、とされていて診療点数にはならない。

臨床獣医師の、普段の、不断の、最も経験の要る、最も重要な、おろそかにできないことだ。

 

 

 

 


マスクの表裏

2021-01-30 | How to 馬医者修行

これだけマスクを着ける機会も、時間も増えているのに、いまだに裏表を逆に着けているのを見るので・・・・

着けかた違うんじゃない?というのをTVで観たりもする。

箱に入っているマスクだと、上になるのは外側だ。

これは必ずそうかどうかわからない。

ホコリをかぶった側が顔に当たらないようにするメーカーの配慮だろう。

マスクを立体にするための折り返しが、外側では下を向くのが正しい。

これも、折り返しの中にチリやホコリが溜まらないようにする構造上の配慮だ。

しかし、中央部から上下に折り返しがあるマスクもあるので、その場合はこの限りではない。

これはマスクの裏。つまり顔に当たる側。

鼻にマスクを沿わせるためのノーズフィッターは当然ながら上。

ノーズフィッターが表についているマスクと、裏に付いているマスクとがあるみたい。

紐が内側についているか、外側についているかもいろいろのようだ。

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ガーゼや布マスクは、不織布マスクより効果が薄い。

(アベノマスクは巨額の無駄遣いだった。今となっては悲しい笑話。)

マウスガードやフェイスガードも単独ではマスクほど効果はない。

効果?

大きな飛沫を飛ばさない。大きな飛沫を吸い込まない、鼻・口の周りに付けない、鼻・口周りを触らない、ことだ。

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マスクを常時着けていられない人もいる。

無差別に強要するのはやめましょう。

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天気大荒れ、夜明け前から雪の予報だったが朝は降っていなかった。

午前中に歯の診療をしている間に降り出した。

骨盤骨折を診断して廃用にするころには大量に積もり出した。

午後、私が血液検査している間に除雪作業を始めたけど降り止まない。

関節鏡手術の間も降り積もった。

以前の雪が融けたのが凍った上に積もった部分があり、降った雪も湿り気があり、除雪してもツルツル。

スクールバスが坂を上がれなくなり、ダンプで引張った。

坂を除雪しようとトラクターに乗ったら、トラクターが坂を上れない。

ブレーキをかけたまま坂を滑り下がる。

人は自然に勝てない。勝とうとしちゃいけない。

注意深く、しのぐだけだ。

 

 

 


オンライン講習会 撮影

2021-01-29 | 講習会

今日は、地元獣医師会の講習会として、オンライン講習会の撮影。

なにせ初めてのことなので要領がわからず、外部の先生を呼ぶのは不安なので、手前味噌で家畜高度医療センターの獣医師が講師を務めることにした。

1人20分の持ち時間で話してもらい、5人で2時間弱の内容になる、はず。

業者が編集作業をしてくれる。

オンラインで、サーヴァーから観られるのは2月15日10時から、2月16日の午後までの予定。

獣医師会を通じてみなさんのところへパスワードとIDが届く。

他にも観たい人は連絡ください。

           ー

きのうの夜は、疝痛の来院で呼ばれた。

去年5月に結腸捻転の手術をして、colopexyもしている馬。

あと2-3週間で分娩予定だが、痛くて、PC55%、とのこと。

超音波で左で肥厚した結腸壁が見えた、とのこと。

それでは開けてみなければなるまい。

しかし、開腹したらすでに腹腔内は消化管内容で汚染されていた。

助かる可能性はない。

           ー

剖検したら胃破裂だった。

結腸はcolopexyにより固定されていて、捻転や変位をしていた形跡はない。

なぜ胃破裂した?

十二指腸は膨満していた。

上位空腸炎か? 

           ー

先日は、家畜共済の保険給付に関わる研修会があった。

このように、腸管手術途中で予後不良の判断をしたら、その手術は家畜共済の給付対象にしないのだそうだ。

ひどい話だ。

診療手技を完遂していないから、ということらしい。

しかし、準備して、麻酔して、手術を最後までやる人手も器材もそろえている。

「無駄な行為だ」とでも言うのだろうか??

臨床をやらない、できない、やろうともしなかった、やったことがない”官僚”が決めごとをするからこんなことを言い出す。

臨床に対する理解も、夜中に呼び出されて命を救うために努力する者への敬意もない。

そのくせ死亡廃用事故は減らしてくれ、という。

矛盾している。

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先日は、生パスタのランチを食べてきた。

大丈夫、感染対策はされているし、密にはなりそうになかった。

飲食店は今ほんとうにたいへんだろう。

様子を観ながら、地元のお店を利用したい。

 

 

 

        

           

 


Vet-SAA

2021-01-22 | labo work

2021/1/15から血清アミロイドA(SAA)の測定試薬を変えた。

と言っても、メーカーは同じ栄研化学で、それまでのヒト用試薬から動物用に開発されたVETーSAAにした。

             ー

・馬の測定値はどういうわけか8割くらいの値になる。

・今までも500あまりで頭打ちになっていたのだが、希釈測定することで数千とか万を超える値まで測定するようにした。

・動物用なので牛、イヌ、ネコのSAAも測れるようになった。

             ー

SAAは炎症マーカーとして利用されている。

では、たいへん依頼が多い人気項目になっている。

子馬をはじめ、感染症や炎症疾患が多いからだ。

フィブリノーゲンやαグロブリンより上昇が早く、数値も激しく上昇する。

正常値はほとんど0か一桁。

そのため急性炎症を鋭敏にとらえることができる。

減少も速やかで、治療が効果を上げるとフィブリノーゲンやαグロブリンや白血球より早くに減少する。

そのため、細菌感染を抗生物質が抑えているかどうかの判断にも使える。

ただ、あまり速やかに下がるので、SAAが下がったからと治療を止めると感染が再燃することがある。

             ー

ヒトのSAAはあまり広くは利用されていないのだそうだ。

臨床検査センターへの依頼も多くないとのこと。

ヒトではCRPが炎症マーカーとして普及していて、保険点数の給付の点でもSAAは優遇されていないことも理由らしい。

もっともこれは馬、牛でも同じ。

家畜共済の給付点数の対象にはならないので、保険点数外の負担が発生する。

             ー

サラブレッド生産地の獣医さんはSAAの特性をよく理解している。

馬の感染症・炎症性疾患でSAAを診断や経過判断に使ってきたからだ。

他の地域の獣医さんに馬の診療相談を受け、「SAAは測りましたか?」と訊くことがある。

「何それ?」という回答だと、「臨床検査センターでヒト用として測ってもらってもいいですから」と説明する。

ヒト用は、ヒト・アミロイドAに対する免疫的な方法で測っていたので、馬SAAは交差反応があり測定できていた。

しかし、牛SAAは測定できなかった。

導入初期の頃、牛は測れない、とお知らせしているのに、牛のSAAも依頼されて困った。

今回、牛のSAAも測定できるようになった。

牛も感染症や炎症性疾患が多い。

診断や経過の評価や、治療の効果判定にも使ってみてもらえればと思う。

           ー

数値が激しく上昇するのは、SAAや逸脱酵素(おなじみASTやCPKなど)の特徴で、診断上は都合がよい。

微妙な上昇のしかたに首を傾げることが少ない。

しかし、SAAはあまりに激しく上昇するし、混濁を測定しているので測定範囲が狭い。

希釈測定する方はたいへん。

それでも数千、数万という値まで追ってみたい。

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12月から正月過ぎまで記録的に寒かった。

そのあとは、寒さがゆるみ、しかし雪が繰り返し降った。

除雪しておかないと、凍ってしまって融けなくなる。

馬が歩けなくなると、診療できない。

3月のような暖かさになり、雪が融けた日もあった。

水たまりもなんとかしておかないと凍ればスケートリンクのようになる。

大寒も過ぎた。

日も少しずつ長くなっている。

 

 

    


今年初めての子馬は・・・・

2021-01-19 | 繁殖学・産科学

今朝は除雪しなくても良さそうだった。

午前中、飛節OCDの関節鏡手術。

そこへ子宮穿孔らしい繁殖雌馬の依頼。

例によって右子宮角。

私が思うに、

牛の腹腔の左半分を第一胃が占めているように、馬の腹腔の右側には大きな盲腸や結腸の基部がある。

それで、胎仔は後肢を右へ向けて、背中を腹底から母馬の左へ向けて子宮に入っている。

分娩が始まって産道へ向かうとき、子馬の後肢は右子宮角へはまることが多いのだ。

で、強く蹴りすぎると右子宮角を蹴り破る。

今年初めて観る子馬。

元気が良くて、よかった。

でも、まだ寒いよね~

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