馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

またまた、また結腸切除

2024-03-26 | 急性腹症

分娩後の繁殖牝馬の疝痛。

典型的な分娩後の結腸捻転。

結腸を創外へ出して、骨盤曲を切開するが・・・・

粘膜の色は極端には悪くない。

しかし・・・・

結腸基部よりが色調の回復が悪い。

表面、つまり漿膜の色、というより深い部分、筋層が傷んでいる。

結腸切除、亜全摘することにした。

この母馬が生き残っても、どんどん食べて、十分に乳が出るとは思えない。

乳母馬を頼んでもらうことにした。

          ー

なんとその夜、また重症の結腸捻転で結腸切除したそうだ。

今年度は本当に結腸切除する馬が多い。

これらの母馬2頭は2日後、それぞれ退院していった。

          ー

そして今日。

夜中2時にお産が終わり、朝7時から疝痛になった繁殖牝馬。

ひどい疝痛でフルニキシン無効、超音波検査で結腸壁の肥厚が確認できた、との連絡。

午前中の膝OCDはX線検査だけにして手術は別な日にしてもらう。

そのあとの2頭の予定は延期。

そして、来院した疝痛馬は立っているのがやっと。

PCV45%、しかし口粘膜が薄紫で血管が浮いている。

これはただごとじゃない。

開腹したら・・・・・

360+180の捻転。five forty 540° ってやつだ。いやいやスノボの技じゃない。

この馬も結腸切除になった。

切除部位でも粘膜の色は悪い。

今年は本当に結腸切除・吻合しなければいけない症例が多い。

かつてはあきらめていた症例を助けられるかも、というところまできたのだ。

がんばろう。

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薄紫の空が、水色になっていった。

色彩感覚も馬外科医には重要だと思うな。

 


覚醒起立しそうな馬を抑え込む方法

2024-03-26 | 麻酔学

馬を全身麻酔して、その覚醒、起立のphaseは最も事故が起こりやすい。

まだ寝ていてもらいたい馬が、体を起こそうとしたとき、

馬を押えつける必要がある。

そのときの方法。

写真はEquine Anesthesia から。

馬を抑えているお方は、その本の著者でもあるDr.Muir .

でっかい、たくましい人だった。

          ー

この方法を知らないと、頭、首、体を押さえようとしてしまう。

しかし、馬が横臥から伏臥になろうとする力に人は対抗できない。

この方法は、首を押さえるだけでなく、馬が頭を下向かせる力にだけ、人の背筋で抵抗するのだ。

馬は頭を下向かせられないと伏臥になれない。

          ー

武道の技もこの原理を用いたものがある。

相手の指をこちらの手で制御する。

相手の手をこちらの腕で制御する。

相手の片腕をこちらの両腕で制御する。

相手の首をこちらの体幹で制御する。

          ー

ただ、馬が本気で立とうとしたら、この方法で抑え込むのもかなりの筋力と体重が要る。

レスリングだって、柔道だって体重で階級分けされている。

試合も競技もない合気道は・・・・ひたすら修練を積む。

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横山大観の絵だそうだ。

私が通勤路にいつも観るような光景なのだが・・・

私にはとても描けない

 

 

 

 


結腸捻転・変位の開腹部位、そしてcolopexy部位、われわれの方法とKentucky式

2024-03-24 | 急性腹症

この結腸捻転馬は、全身状態も悪くなく、結腸の膨満もひどくないので、

腹腔内で捻転を整復できるかも?ということで、かなり頭よりを開腹した。

胸骨剣状突起から15cmのところから切り始め、

術創の長さは17cm。

臍からの距離が13cm。

結果的には、この術創から捻転した結腸を整復することは私にはできなかった。

Kentuckyの有名馬病院の外科医は、結腸捻転のほとんどを腹腔内で整復している。

頭よりを切開した方が、そうしやすい、としているのだが、

どういう技術なのか、

あるいは腕力と腕の長さなのか、詳しく訊いてみたいものだ。

ただ、多かれ少なかれ膨満し、浮腫性に肥厚した結腸に回復期間を与えるためには、

結腸を腹腔外へ出して骨盤曲を切開し、内容を捨て、結腸根部まで空にしてやることは意味がある、と考えている。

            ー

そして、再発防止策としての結腸固定術 colopexy.

胸骨剣状突起から7cmの部位に行った。

腹側結腸胸骨曲を固定するので、この部位に固定するのが妊娠子宮に圧迫されないために重要、と考えている。

Kentuckyの馬外科医たちは、胸骨剣状突起から5cmの部位から左よりへ開腹し、

創を閉じるときに、結腸紐を縫い込んでいる。

              ー

いずれ私たちもKentucky式の手技をやるようになるのか、

我々のオリジナルの方法を続けていくのか、

これからの課題だ。

理想は、予防できるようになり、結腸捻転・変位がほとんど起こらなくなることだけど、ね。

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うちの庭にあらわれたシカの群れ。

庭木をかじって行きやがった。

やっぱり番犬を雇わないとダメだな。


大動物獣医さんのphysical スキー・スノボのススメ

2024-03-19 | How to 馬医者修行

馬医者は、春は忙しいし、近年は北海道も夏は暑い、そして北国の秋は短い。

physicalを鍛えておきたいと言っても、なかなか。

冬の間にウィンタースポーツしよう。

北国は、スケートのエリアとスキー・スノボのエリアに分かれている。

北海道だと、苫小牧、帯広、釧路など太平洋側はスケートの地域だ。

小樽・札幌、旭川・富良野など雪が多い地域はスキー・スノボ。

まあ、大人は車で移動できるので問題ない。

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耐寒訓練

冬になると家や建物にこもりがち。

スキー・スノボをしていると半日、一日、あるいは数日を屋外で過ごすことになる。

良い耐寒訓練になる。

北国で生活するなら、風が吹くとどれだけ寒いか、雪でホワイトアウトするとどうなるか、

寒さから体、頭、手足を守るのにはどんな防寒具が必要か、体験しておいた方が良い。

特に外で働く大動物獣医師にとっては重要なスキルと知識だ。

運動不足解消

冬は運動不足になりがち。たまの雪かきだと体力の衰えを実感するだけ。

スキー・スノボはかなり激しい運動だ。しかし、無理をする必要はない。

自分のペースで休みながら、楽しく運動不足解消すれば良い。

それでも疲れるので、スキーやスノボのために雪の季節以外も体を動かしておこうか、という気になれる。

一年を通して下半身を中心に筋トレするのと、歩くか走るか有酸素運動しておきたい。

体幹訓練、滑走訓練

スケートも含めて雪や氷の上でやるウィンタースポーツは、滑りながら運動するのが独特。

摩擦係数μが低いことを利用して昔から人は遊んできたのだ。

北国で生活していると、若い人でも一冬に何度か転びそうになる。

そのときのバランス感覚は怪我をしないためにも大事。

スケート・スキー・スノボは体幹を鍛え、滑る感覚を養える。

冬道運転

冬道のドライブも北国で生活する人の重要なスキル。

でも、スキー・スノボに出かけるのでもなければ冬に暗いうちから出かけたり、長距離運転したりしないかもしれない。

滑りたい一心でスキー場に通っていると、冬道を苦にしなくなるよ、きっと。

それは、大動物獣医師にとっては重要なスキル。

地域振興

スキー・スノボ人口はすっかり減ってしまった。

海外客で賑わうNISEKOは別にして、地域の小さなスキー場は次々に閉鎖されている。

その地域の住民の健康維持、娯楽の提供、活性化のためとは言え、人が来ないんじゃあね。

小さくても近くにスキー場があるのはありがたいことだ。

スキー・スノボして、地域の美味しいものを食べて、最寄りの温泉に入ってくるのは好い一日で、

地域活性化に貢献できる。

頭のトレーニング

本能のまま滑るのも良いが、どうやったら上手く滑れるか情報を収集し考えた方が上達は速い。

そして、好きなことを考えるのは楽しい。

1つは、雪の斜面上でのスキー・スノボと人の物理学だ。

摩擦、重力、遠心力。スキー板やスノーボードは真ん中がくびれている。なぜだ?

スキー板はともかく、スノーボードはいろいろな形状にたわんでいる。

キャンバー、フラット、ロッカー、ダブルキャンバー、etc.、どう違う?

もう1つは、体について

足首、膝、股関節、腰の曲げ方伸ばし方。

それをするための筋肉の使い方。

そして、体の守り方。受け身、怪我の予防と管理。

獣医さんの仕事と重なる勉強になるよ。

冬が楽しみになる

北国の冬は寒くて、暗くて辛いという人がいる。

雪かきがイヤで、雪なんて降らなきゃ良いのに、と言う人もいる。

スキー・スノボしてると雪が降るのを楽しみにし、寒くなって欲しいと願うようになる。

世界中のスキーヤー・スノーボーダーが憧れる地域に住んでいるんだもの、楽しまなきゃ。

            ー

いろいろ屁理屈を考えてみました;笑

私は今から来シーズンを楽しみにしています。

 

 

 


Colopexy 6年後のrepair service

2024-03-17 | 急性腹症

分娩した馬が、分娩して48時間以上軽度な疝痛が続いているので来院。

この繁殖牝馬、6年前に結腸捻転で開腹手術を受けている。

colopexyもしていて、その後も受胎、分娩しているが疝痛はなかった、とのこと。

直腸検査すると、盲腸が異常な膨満、腸紐も緊張している。

軟らかい便とガスは抜けてきているが、開腹手術した方が良さそうだ。

          ー

6年前も私が執刀しているので、また私がやることにする。

開腹したら、盲腸がひどく気脹していた。

ガスを抜く。

盲腸尖がcolopexy部近くに癒着していたので、これは切って剥がす。

colopexyは維持されていた。

固定部が伸びてきているし、固定範囲は短くなってきているかもしれない。

骨盤曲側が右へ変位していた。

引っ張り出すと、

骨盤曲近くの腸間膜が広い。

これは結腸捻転や変位の要因になることがある。

6年前はこうではなかったと思うので、腹側結腸が固定されていることで背側結腸の重みで腸間膜が伸びてきたのかもしれない。

どうしようか考えたが、腸間膜を縫い縮めてもうまく行かないことは経験済み。

温存することにした。

他に、脾臓の腹側部も腹壁に癒着していた。これも温存する。

6年間この状態で問題なく生きてこられたのだ。

今回はたまたま分娩(腹腔内が突然空虚になる)を機会に、盲腸のガスを出せなくなってしまったのだろう。

右腹側結腸(盲腸の内容やガスが次に流れていくべき部位)も膨満しているわけではなかった。

          ー

after service は和製英語。

after-sale service とは言うらしい。

今回は強いて言うなら、colopexy のrepair service か maintenance service かな。

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シメ。

スズメやカラ類よりちょっと大きいのを良いことに、エサ台を独占しようとする。

渡りでいなくなるか?

居座るのかな?