馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

分娩3日間の不調

2021-02-28 | 急性腹症

朝、月に1度の所内ゼミナール。

研修に来ているG先生に、組織、日常、症例などを紹介してもらった。

もうひとつは馬の去勢の疼痛抑制について。

所内ゼミなので獣医師5名全員出勤し、研修の先生を含めて獣医師6名が参加。

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EEで喉頭蓋が萎縮変形してしまっている馬。持続的DDSPにもなっている。

あとはできる方法はTieforward しかない。

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電話で、「分娩3日目の繁殖雌馬が疝痛で、心拍も速く、口粘膜の色調もよろしくない」との依頼。

こちらは午後1時に去勢、午後2時から関節鏡手術の予定が入っている。

それで午後2時半に来て下さい、と言った。

それなら関節鏡手術の後半に診断して、開腹手術の適応かどうか判断できるのがちょうど関節鏡手術の終わり頃になる・・・・

「痛いんですけど」との返事。

じゃあ、すぐ来て下さい。

でも管外の牧場で、来るのに2時間はかかる。

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午後1時の去勢予定の馬は来院したら心音がひどくおかしい。

心内雑音なのだろうが、Ⅰ音とⅡ音の間などというものではない。

弁膜症で心機能低下が疑われる。

とてもそのまま鎮静剤投与したり全身麻酔できる状態ではない。

あらためて心エコー検査が必要だが、疝痛馬も来院した。

去勢予定はキャンセルして帰ってもらう。

(鎮静剤は心臓・血管に大きく作用する。

健康な馬だと思っていても、鎮静剤投与する前には必ず心音聴診すべきだ。)

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疝痛馬は子馬と一緒にやってきた。

口の粘膜は赤い。脱水だ。心拍80。

PCV60超。WBC4300/μl。

超音波で小腸の膨満と腹水増量が見えた。

子宮に手を入れた獣医師が子宮穿孔を確認した。

どうする?

手術して間に合うか?

全身麻酔に耐えられるか?

腹膜炎を抑えこめるか?

本当に子宮穿孔だけか?

18歳だが血統が良く、産駒の成績も良いという繁殖雌馬。

代わりに乳母を用意するなら100万近い費用がかかる。

「状態は悪いですけど、やるだけやってみますか?」 飼主さんに説明する。

術前に高張食塩液を投与する。全身麻酔を始める前に循環血液量を確保しておきたい。

鼻から胃液が逆流し始めた。

胃カテーテルを入れたら、10リットルほど胃液が抜けた。

to be continued

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ときどき雪が降る。

日中は融ける。

でもまた凍る。

 

 

 

 

 


寄生虫性動脈栓塞による死亡だった

2021-02-27 | 馬内科学

発熱と不調で来院し、輸送熱(胸膜肺炎)の再発かと思われた上がり馬は4日後に死亡した。

「あの程度の胸膜肺炎で数日の経過で死ぬか・・・」と思ったが・・・

剖検したら腹腔内がひどいことになっていた。

盲腸と大結腸が壊死している。

左の胸腔に胸膜炎はあったがひどくはない。

前腸間膜動脈根部に血栓による完全閉塞があった。

血栓をほぐしたら普通円虫の仔虫が何匹か見つかった。

盲腸動脈、結腸動脈にも血栓があり、そちらでも円虫の仔虫が見つかった。

死因は「寄生虫栓塞による大結腸・盲腸の壊死」だった。

         ー

この病気の多くは消化器症状(主に疝痛)を示す。

この馬はそれがまったくなかったので疑うこともできなかった。

腹部も超音波で診たが、腹水増量もなかった。

診察中に、私は駆虫したか訊いて、不調なのでまだ駆虫していない、という返事だった。

不調でも構わないから駆虫しなさい、と私は言った。

私が寄生虫性動脈瘤の可能性を考えたのは蛋白電気泳動像が寄生虫性動脈瘤パターンだったから。

β領域に異常な増高があり、それも鋭いピークではなくβ1とβ2がつながる。

昔よくみた。

しかし、イベルメクチン普及後はほとんど見なくなった。

知っているのは、私より上の年代の獣医さんだけだろう。

私が指示したとおり駆虫したのかどうか知らない。

いずれにしても手遅れだった。

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またゆきふったです

ゆきふっててもウン〇さんぽいきたいです

 

 

 

 


腹腔ドレナージ・胸腔ドレナージ

2021-02-26 | technique

分娩時の膀胱破裂の繁殖雌馬。

膀胱は立位で外科的修復をした。腹腔には半日分の尿が溜まっていたので、ドレインを留置して廃液した。

使ったのは32Frのトロッカーカテーテル。

馬は鎮静剤投与して、枠場があれば枠場に入れるが、枠場がなくても可能。

念のために鼻捻子もしておいたほうが良い。

腹部正中を毛刈して、

消毒する。

馬の正中はわずかに膨らんでいるので指先で触知できる。

最も低い辺りの正中の皮下と筋層に局所浸潤麻酔する。

11番ブレードのメス(なければよく使われる23番でも構わない)で皮膚を穿刺切開する。

滅菌グローブをするか、グローブをした手を消毒して実施する。

トロッカーカテーテルの先を穿刺切開創に押し入れて、回しながらゆっくり押す。

ブスっといきなり何センチも入らないような持ち方をしておいた方が良い。

腹腔へ入ると抵抗が減るのでわかる。

観察していると、内針とカテーテルの間に腹水が染み出て来るかもしれない。

内針を少し引いて、カテーテルは5cmほどさらに刺し込む。

留置するときは糸でカテーテルを皮膚に留めておく。

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胸膜肺炎を起こしてしまった1歳馬。

胸腔にドレインを留置することにした。

太さは18Frを選択した。

うちには10、18、32Frのトロッカーカテーテルを用意している。

腹腔にせよ胸腔にせよ、今は超音波で奥の様子を把握できるのでまず超音波検査しておくと良い。

穿刺、留置テクニックの基本は腹腔と同じ。

胸腔穿刺は、左が第7肋間、右が第6肋間の外胸静脈の直上、ということになっている。

左がひとつ尾側なのは心臓を避けるため。

だから頭側向けて刺してはいけない。心嚢穿刺したいなら別だけど。

横隔膜の位置は腹圧でかなり変わるので注意が必要かもしれない。

胸腔穿刺するのは胸水がある場合なので、胸腔腹側は押し広げられていることが多いように思う。

毛刈、消毒、局所麻酔、穿刺切開、トロッカーカテーテル穿刺。の手順は腹腔穿刺と同じ。

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腹腔・胸腔留置カテーテルで持続的に廃液させるなら、先端には滅菌グローブの指を切ってはめておくと、

廃液はされるが、腹腔や胸腔の陰圧でカテーテルから吸引・逆流が起きるのを防げる。

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二次感染も懸念されるので、ドレナージは必要以上に長く行わないようにする。

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夜明け前、相棒と散歩。

標高40mから標高60mの温泉ホテルまで登る。

今日は好い天気だ!

 

 

 

 


朝の難産

2021-02-25 | 繁殖学・産科学

朝、難産の依頼。

頭と両前肢が出ているが、後肢の少なくとも1本が産道に入ってきている、とのこと。

うるさい馬で馬房に入って難産介助できない、とのこと。

その状態で来院するなら、すぐに全身麻酔して難産介助した方が良い、と判断して第二夜間当番獣医師と研修に来ている獣医師にも連絡した。

すぐ麻酔して後肢を吊上げた。

産道に腕を入れると、胎仔の右後肢が産道に入ってきている。

潤滑剤を入れて、研修の獣医さんに後肢を押し戻してもらう。

骨盤腔の向こうへ押し戻せた、とのこと。

吊上げていた母馬を下ろして、あとは引っ張る。

すぐに牽引娩出させられた。

子馬は、四肢も曲がっていないし、腱拘縮もない。

なぜ後肢が産道に入ってきてしまったのかわからない。

分娩予定日5日前で、分娩徴候もあって、分娩馬房で監視していたのだそうだ。

前夜も馬房の中を歩き回ったり、寝たり起きたりしていたとのこと。

そこまでは何の異常もない当たり前の経過だったのだが・・・・

            ー

この繁殖雌馬は「うるさい」馬で、ふだんは注射するにも立ち上がる。

蹴るし、噛むし、叩くし、実際、人を蹴って怪我させたこともある。

母馬の性格も分娩のリスク要因かもしれない。

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子馬は生まれ始めているが

春まだ遠い。


2日続きの胸膜肺炎

2021-02-23 | 馬内科学

あがり馬が発熱し、胸膜炎のようだ、ということで来院。

超音波で診たら、左の胸腔の隅に炎症性の胸水とフィブリンがあった。

針を刺して抜けるほどではない。

抗生物質で治療するしかないが、胸膜炎は治療が長期化しがちだし、再発することも多い。

治療費は高額になりがちだ。

輸送熱を診たら、胸腔を超音波で検査すべきだ。

発熱や血液検査所見が落ち着いて抗生物質投与を止めても、数日後の再検査をルーチン化してはどうだろうか。

超音波検査しても良いし、血液検査でSAAをみても良い。

頼まれて抗生物質投与するのだけが獣医師の仕事じゃないだろう。

                   -

翌日、1歳馬の胸膜肺炎が来院。

超音波で診たら、左の胸腔には炎症性の胸水とフィブリンがあった。

右の胸腔はかなりの量の胸水が溜まっていた。

左の胸腔は留置針で穿刺して胸水をできるだけ抜く。

が、数十mlしか抜けなかった。

右は・・・

18Frのトロッカーカテーテルを留置した。

5リットルほどオレンジジュース様の胸水が抜けた。

生理食塩液を入れて抜いてして洗浄し、抗生物質を入れた。

この馬も数週間前に治療歴がある。

牧場で流行ったウィルス性の感冒をこの馬だけがこじらせたらしい。

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アウトドア好きの青年が、ひとりで出かけた荒野の岩の隙間で、落石に腕を挟まれ動けなくなってしまう。

誰も通りがかったりしない。

どこからも見えない。

大声を出しても誰にも聞こえない。

水がなくなればやがて脱水で死ぬしかない。

腕を切り離せば脱出できるが、鎮静剤も麻酔薬も、手術道具もなくそんなことができるのか?

実話、実在の人物の経験談だそうだ。

・・・・・・私には無理。

止血の方法や、どこを切るのが切断しやすいか多少の知識はあるが・・・無理。

この青年を尊敬する。

実在の主人公は、今も義手をつけてアウトドア活動を楽しんでいるそうだ。

行き先のメモを必ず残して。