馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

育成馬の結腸右背側変位 敷料を食べて便秘から・・・?

2023-05-31 | 急性腹症

夜、2歳馬の疝痛の依頼。

来院したら、疝痛は?枠場で立っていられる。

PCV43%、乳酸値1.3mmol/l 

超音波では右で肝臓のそばに結腸動脈が見える。

結腸壁の肥厚はない。

直腸検査では、膨満した膀胱のむこうに内容の入った結腸を触る。

硬くはない。腸壁の肥厚もない。

結腸の変位があるようだが、程度はひどくない。

痛みが消えるかコントロールできるなら開腹手術しないで治る可能性がある。

入院厩舎で様子を観ることにした。

          ー

1時間半ほどして、日付が替わって・・・・痛みが強くなった。

ずっと前掻きしていたのだが、横になって仰向けにもなるようになった。

結局、真夜中の開腹手術になった。

開腹すると、結腸骨盤曲の位置と方向がおかしい。

骨盤曲を術創から引っぱり出すが、奥の方は素直に出てこない。

右背側結腸が腹腔中央にあり、硬く大きな塊になっている。

骨盤曲切開創から腹側結腸と背側結腸の内容を少しずつ洗い出し、空にしていく。

ほとんど空にした後、盲腸と入れ替わっているのを直して、さらに右背側結腸、胃状膨大部を空にする。

右背側結腸を中心とした便秘の挙げ句に、結腸右背側変位を起こしていたのだ。

洗い出した内容は・・・あの敷料だ。

洗い出すのに時間がかかり結腸捻転の手術より長くなってしまった。

            -

馬はいつも食べていたい動物だ。

食べるものがなくなると敷き料でも食べてしまう。

牧草が敷き料として使われていれば問題はないが、麦ワラだと便秘の原因になりやすい。

消化の良くない植物繊維でできている敷き料も、食べてしまう馬にはよろしくない。

使わないようにするか・・・

いつも乾草が食べられるようにするか・・・

食べてもらいたくない敷き料には、敷いたときにホコリ除けもかねて尿を撒くか・・・

            -

JRAのトレセンは、健康な若い馬の集まりで、毎日騎乗運動し、放牧されず、完全な給餌管理をされているので疝痛は多くないのだろう。

しかし、手術が必要な疝痛の中ではこの結腸右背側変位が多いのだそうだ。

結腸右背側の便秘をすると、その結果として右背側変位になりやすいのかもしれない。

            -

終わって入院厩舎へ移動したのは4時近かった。

もうすっかり夜明けだよ・・・・

           //////////

リンゴの花咲くこの季節。

寒さはなく、暑くもなく、虫もまだ居ない。

馬の疝痛さえなければ、これほど良い季節はないのだけど;笑

 

 

 


昼間に3頭、夜中に2頭

2023-05-27 | 急性腹症

休み明けで出勤したら、前日は日中に開腹手術が3頭あったのだと言う。

入院厩舎へ行っても、どれがどの馬だかわからない;笑

             ー

その日も飛び入りで、分娩3日後の繁殖牝馬の発熱と不調。

PCV59とかなり高く、子宮角穿孔による腹膜炎だった。

開腹手術して、子宮角の裂孔を閉じ、腹腔洗浄。

腹腔ドレインを留置して、腹膜炎治療を続ける。

             ー

夜8時。

3歳馬の疝痛で呼び戻される。

結腸変位のようだ、とのこと。

開腹手術して、ご名答。

結腸左背側変位だった。

腹囲膨満がひどかったが、脾臓にひっかかった結腸を外せた。

・結腸を引っ張って外すのではなく、脾臓を腹腔軸側へ押す

・塩酸フェニレフリンを点滴してもらう

・腹腔内へ生理食塩液を1~2リットル入れて滑りをよくするのと、結腸が浮き上がりやすくする

・それでも外れにくかったら馬を右へ傾ける

結腸の根部で胃にもひっかかっていて、外す操作が危ないようなら、結腸骨盤曲を切開して内容を捨てて、左側結腸だけでも空にしておいてから外す。まあ、これは例外的。

今回の馬は、わりと容易に外せた。

そのまま閉腹。

便秘気味だった。

              ー

夜11時に呼び戻される。

今度は繁殖牝馬の疝痛。結腸捻転のようだ、とのこと。

馬は立っていられないほど痛い。

分娩後1ヶ月。夜飼いのときに疝痛を見つけたのだそうだ。

収牧した後の飼いは完食していたそうだ。

開腹したら結腸の膨満と色調はひどかったが、ガスを抜いて、内容を捨てたらペタンコになって、色調も回復した。

結腸内容は緑色でドロドロ。

青草そのものだ。

colopexyして終了。

2時過ぎには帰って寝たが・・・・・さすがに翌日も、だるくて眠い。

           /////////////

ミヤマオダマキ

種を採ってきて家の周りにばらまいた。

高山植物として痩せ地でも生えるらしく、砂利の中でも育つ。

 

 

 

 

 


疝痛の季節 続々と

2023-05-23 | 急性腹症

朝、書き物をしていたら疝痛馬が来ると言う。

来院したら馬運車の中で立てない。

痛みを軽減してやるためにフルニキシンを投与するが、立てない。

こういう馬はたいていトラックの進行方向を向いて倒れている。それを出口へ向けてやると立つ馬が多い。

引っ張ろうとするが、狭くて、暴れて立てない。

鎮静剤を投与するが、立てない。

鎮痛剤も投与するが、立てない。

仕方がないので、麻酔薬を投与して、トラクターで馬運車から引っ張り出した。

そのままトラクターでぶら下げて診療室へ運び込もうとするが、背中を擦ってしまう。

ブルーシートを並べて敷いて、濡らしておいて、その上を引っ張って診療室へ引きずり込もうとするが男5人で引っ張ってもなかなか動かない。

診療室まで30mほどだが、すこし登りになっている。

もう一度、肢を縛り直してトラクターでぶら下げて診療室の入り口まで運び、そこから倒馬室へ引きずり込む。

そのままクレーンでぶら下げて手術台へ乗せて手術開始。

結腸捻転だった。

               ー

夕方、1月に結腸捻転の手術をしている繁殖牝馬が疝痛で来院。

4月に分娩している。colopexy済み。

直腸検査したら小腸ループを触る。

超音波で、結腸壁の肥厚、そして血管様の異常な物が見える。

いずれにして開腹しないとならない。

開腹したら空腸が腸間膜を軸にグルグル巻きになっていた。

そのままでは整復できず、一部を切開して内容を捨てて軽くし、捻れたロープを解くように整復した。

小腸の4割ほどが壊死してしまった。

競走馬時代にも疝痛で開腹手術を受けている馬。サク癖があり以前から疝痛することがあった。繁殖牝馬として太れてなくて背中がとがっている。

あきらめる。

colopexyは外れてしまっていた。N.M.C.

             ー

その前日は、朝、やはり繁殖牝馬の結腸捻転。

午後、盲腸結腸重積の手術歴がある1歳馬の疝痛。盲腸の1/3ほどを切除してある。N.M.C.

開腹したら空腸が盲腸の残りの部分に癒着していた。

紐状物もある。

空腸どうしの癒着もあり、なんとか剥がせたが、腸間膜に孔が開いたり、漿膜を失ったので、2.5mを切除し、傷んでいない部分で吻合した。

盲腸が腹膜に癒着している部分も剥がし、腹膜が欠損した部分は縫合した。

               ー

前々日にも結腸捻転馬が来院していた。

結腸の損傷はひどく、危ない状態だった。

               ー

この4月から5月は雨が多い。

草の伸びも良いのだろう。

例年にも増して腸管手術が多い。

採食量、給餌量の制限をしないと、それに耐えられない馬もいる。

            /////////////////

シ・モクレン。

 

 

 

 

 


子馬の脛骨近位成長板損傷S-H type Ⅱ のT-LCP固定

2023-05-15 | 整形外科

16日齢の子馬が、跛行し、脛骨近位の内側が腫れて、X線撮影で脛骨近位成長板損傷が確認された。

程度は軽く、変位はごくわずかだった。

これなら温存で治まっていくかも、ということで経過を観た。

跛行や負重の状態は悪くなることはなかったようだが、あまり改善もしなかった。

X線撮影で、徐々に変位してきているのが確認され、これ以上ひどくなるとよろしくないだろうと判断した。

発症から18日後に来院したことになる。

若い獣医さんたちのために、この典型的な子馬の成長板損傷の外貌写真を載せておく。

一見、飛節で外反しているように見えるかもしれないが、傷んでいるのは脛骨近位だ。

普通は様子見しない方がイイ。

すぐX線撮影で確認して、できれば当日、あるいは翌日には内固定手術した方が好い。

変位すると整復が困難で、手術もたいへんになる。

子馬は骨折していても寝起きを繰り返す。

痛い肢を上にして起きるだろう。

起立の時にその肢には、外反させる力がかかりやすい。

           ー

左後肢を尾-頭方向で撮った画像。

内側の成長板は剥がれたようになり、骨端外側には透過部位ができた。

”結果的には” 発症すぐに内固定手術してやるべきだった。

でも、そうしていたら、「やらなくても良かったんじゃないか」という思いが残ったかも知れない。

            ー

この内固定では近位骨端のよい位置にしっかりscrewを入れることがキモ。

aiming device を使う。

内から観るとこんな位置になる。

脛骨近位骨端は、尾側に厚さがないことに注意。

それでも、横幅が一番広いのはこの位置なのだ。

           ー

DCPでもできなくはない。しかし、角度安定性がないので牽引力も保持力も強くない。

LCPを使って、骨端にLHSを入れれば、角度が固定されるので、強く牽引でき保持力もある。

T-LCPを使えば、骨端に2本、あるいは3本のscrewを入れられる

           ー

できれば、minimally invasivelly に手術したい。

大きく切開せず、皮下にプレートを刺し込んで固定できないか・・・・

しかし、18日間で変位してしまったので、プレートを使っていくらかでも整復したい。

これ以上変位させないためにも、しっかり牽引したい。

T-LCPを使うことにして、骨端部だけ曲切開してT-LCPの横棒部を当て、縦棒部は皮下へ刺し込むようにやってみた。

こうなってしまうので、骨端部に入れるLHSがT-LCPに垂直に入らない。

minimally invasive をあきらめて、皮膚を切開した。

こういう風に、LCPが脛骨から浮いているようにして、遠位にscrewを入れることで、脛骨の軸をプレートへ引っ張りたいのだ。

中央部のscrew 2本はbicortical にできないので強度は弱い。

その遠位の5.5mm screw は長すぎたので短いものに差し替える。

一番遠位にはLHSを入れた。

まだ外反しているが、成長板の内側を成長抑制しているので、徐々に外反は弱まってくれるかもしれない。

それは、成長板の機能が残っていての話。

成長板を骨癒合させてしまわない、成長板を早期閉鎖させないためには、適切な時期にプレートを外す必要がある。

通常は、発症してすぐ手術し、4-6週間でプレートを抜きたいと考えているが、

この症例は手術が遅くなったので・・・・

           ////////////////

 

映画「孤狼の血」は面白かった。

原作は読んでない。

短編集ならこの季節でも読みやすいかと思って・・・

玉石混交、かな。

人気作家もたいへんなんだろう。

いつも質を高く保っていられるとは限らない。

 

 

 

 

 

 

 

 


結局、夜中の開腹になった腸石症

2023-05-09 | 急性腹症

朝見つけた疝痛馬が来院。

超音波検査で、結腸壁の肥厚なし。

小腸の膨満も見えない。

直腸検査では便秘?

血液検査ではPCV30、乳酸値も高くない。

痛みはひどくはない。

便秘だと考えて電解質液を飲ませていいんじゃないの?

10リットルを経鼻カテーテルで飲ませる。

             ー

数時間、馬はときどき伏臥していたり、前掻きしたりしたが、3回ほど堅めの便を排泄した。

また下剤かける?

夕方、超音波で診たら、胃拡張があった。

下剤も電解質も投与せず。

             ー

夜中、滾転するようになり、胃逆流が10リットル。

昼に投与した電解質液が胃からほとんど流れ出ていないのだ。

私は、夜中1時に起こされた。

症状、経過、診断所見は腑に落ちない。

結腸捻転にしては痛みは強くない。

結腸の変位?どうして胃拡張する?

小腸閉塞?超音波で小腸膨満像は見えなかった。

開腹して、腹側結腸、背側結腸、盲腸のガス抜きをする。

小腸が素直に出てこない。

小結腸に・・・・

これか~

空腸最上部は小結腸と腸間膜でつながっている。

小結腸に引っ張られることで空腸上部が閉塞したので、胃拡張が起きたのだろう。

小結腸の腸紐上を切開し、結石を取り出した。

床に落ちたら割れてしまった。

ひどく硬い結石だとハンマーで叩いても割れないんだけどね。

径8cm。

3月に競馬場から帰ってきた6歳あがり馬。

競馬場で腸内にできた腸石なのだろう。

北海道ではとても珍しい。

小結腸には腸石が詰まっていたせいでできたのであろう筋層の損傷があった。

縫合して補強してもかえって狭窄させ危うくなりそうだ。

大結腸を切開して内容を捨て、術後は慎重に給餌管理してもらえば大丈夫だろう。

大結腸の内容は乾燥していた。

大結腸を完全に空にして横行結腸をよく触ったが腸石はもう無いようだった。

終わってAM4。

やれやれ、慎重に判断しようとして、結局夜中の開腹手術になってしまった。

           ///////////

草取りしない庭に、負けずに生えてくるムスカリ。

ガンバレ!