馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

公営競馬獣医師協会研修2015 2日目

2015-01-31 | How to 馬医者修行

2日目は開腹手術実習。

腹腔内探査、小腸結腸吻合の部位の確認、大結腸切開、などをやっていただく。

その知識や技術が、いずれどこかで疝痛に苦しむ馬を助けることに生かされると信じている。

                    -

午後は開腹手術についての講義。

開腹手術や剖検ができない地域では、そもそも馬の疝痛についての知識や経験が不足しているのが現状だ。

ある学術報告に書いてあったが、

「剖検も手術も行われなかった疝痛は、結局何だったかわからない」

わからないと予防や治療が進んでいくことにはならない。

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去年、「便秘では血清中のビリルビン値が上昇していることがあります」と言ったら、

「どんな疝痛でもビリルビンは上昇します」と言った獣医さんがいた。

そう断言されるとこの私でさえ!(笑)考え込んでしまったが、やっぱりどんな疝痛でもビリルビン値が上昇するということはないことを症例の蓄積で確認した。

つまり、その獣医さんが診ているのはほとんどが「便秘」なのだろう。そして、便秘を診ているのに便秘だと診断できていない症例がかなりあるので、

「どんな疝痛でもビリルビンは上昇しますっ!」ということになったのだろう。

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30年前、生産地でも、疝痛で呼ばれたら、鎮痛剤を投与して(その頃はフルニキシンはなかった)、1-2リットルの(量の足らない)補液をして、最後に下剤をかけて(馬が苦しみ出さない前に)帰ってくる、という決まりきった治療が行われていた。

死んだ馬が運ばれてきて、剖検すると、胃破裂や腸管破裂が多いのに驚いた。

腸閉塞の病変はあるのだが、そこへ下剤をかけるものだから破裂して死ぬのだ。

開腹手術という選択肢がないから、それも覚悟の上で「勝負をかける」のかもしれないが、獣医療行為が死ぬ引き金になっているのは望ましくない。

腸閉塞に下剤をかけるのは良くないんじゃないですか、便秘だと診断しないで下剤をかけるのはやめてください、と言い続けて、生産地では無用な下剤をかけたあとに開腹手術をすることはほとんどなくなっている。

解剖場や手術施設が身近にない地域でも、獣医師が他の人の経験から学ぶことで疝痛への対応を洗練されたものに変えていけると信じている。

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講義のあとは、

直腸検査の実習。

腹腔臓器の超音波診断の実習。

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夜の部があるのもこの研修の特徴;笑。

この夜はハーフリムキャスト巻きを体験してもらった。

なにごとも自分でやってみなきゃわからない。

「エバウールシートって優れものでしょ?」と何年も同じことを言っていても普及しない。

「これ良さそうですね」という感想はいつも聞く。

すぐ取り入れなければ知っていてもさしたる価値はない。

(エバウールシートは)「おいしそう」という感想には驚いたけど;笑。

初めてハーフリムキャストを巻く人でも、正しい方法の説明を受けていれば、きちんと機能するキャストが巻ける。

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今年は私は三夜とも11時までに引きあげた;笑

しかし、夜の研修は午前2時、2時、3時まで続いたらしい・・・・・誰だ?;笑

 

 

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公営競馬獣医師協会研修2015

2015-01-30 | How to 馬医者修行

高齢の

恒例の全国公営競馬獣医師協会の研修第一日目。

去勢を頼まれていたので、短い講義の後、プロポフォールによる全身麻酔とHenderson式去勢を観ていただく。

もちろん数名の人は術者、麻酔医としてやってもらう。

今年は、例年ほどの人数ではなかったので、見やすいし参加し易かっただろうと思う。

講義でも話したのだが、馬の去勢を立位でやるなら手技的には開放式去勢で行うことになる。

陰嚢を大きく切開しておかないと血液が溜まりがちなので、傷は必然的に大きくなる。

総鞘膜も切開するので、出血も多いし、疼痛も大きい。

鼠径輪は開いたまま残されるので、腸管脱出の危険が付きまとう。

腸管脱出したら、近くに開腹手術できる施設があってもその馬を助けるのは簡単ではない。

立位で開放式去勢をするなら、そのリスクについて説明しておくべきだ。

                     -

午後は、

腕節のchip fractureの関節鏡手術の予後に影響する因子についての講義。

日本でもDJD変形性関節症、あるいはOA骨関節炎の概念が馬関係者に普及されるべきだ。

腸管吻合のデモと練習。

骨折内固定のデモと練習。

前頭洞BoneFlapの練習。

ほか、何やったっけ・・・・・

                    ///////

きょうも何頭も解剖した。

生死の狭間、life and death、分けるのは獣医師ではないなと思う。

ただ、手伝えることがあるときには、失敗しないで自分の役割を果たしたい。

 

 

 

 

 

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研修翌日

2015-01-29 | 急性腹症

那須の研修から帰った翌朝。

出生11時間の子馬。

早期胎盤剥離で生まれて、体温35℃。

私は今シーズン初めて子馬を見た。

その子馬がこんなだけど・・・・・仕事がら毎年そんなもんかもしれない。

                    -

午前中、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

左右両方でも1時間かからず終わることもあるが、骨片が大きく、母床も削りにくい形状で手間取る。

                    -

昼、繁殖雌馬の疝痛の来院。

朝からの疝痛だが、来院したらまったく疝痛症状なし。

血液もPCV30台、乳酸値も正常。

直腸検査でも超音波でも著変なし。

帰って様子を観てもらうことにした。ところが・・・・

                    -

午後は現役競走馬の腕節のx線撮影。

もう1頭は現役競走馬の喉の内視鏡検査。

その間に、Cornell大学のDucharme教授と、Pennsylvania大学のRichardson教授とメールでやり取り。

便利かつありがたい時代になったものだ。

その他、事務処理多数。

メールでの症例の相談多数。

電話での手術予約複数。

                   -

夕方、昼の繁殖雌馬が疝痛がひどくなったとのことで再来院。

今度はPCV61%、立っていられないほど痛い。

即、開腹手術。

結腸捻転だった。

わずかに変位していたのが、グルっと捻れて絞扼されたのだろう。

危ないところだった。

                  -

その手術中、もう一頭のひどい疝痛の連絡。

これも立っていられないほど痛い。

血液も良くない。

暖かい覚醒室に入院して集中治療中だった新生子馬に場所をゆずってもらって、倒馬して手術開始。

かなりひどい結腸捻転だった。

できる限り素早くガス抜きして減圧しておいて、結腸を引っ張り出し、切開して内容を捨てて、捻れを整復する。

血行障害による結腸の損傷はかなりひどかったが、色調はかなり回復した。

終わって10時半。

やれやれ。

                  /////////

聖地巡礼を終えて、忙しい。

日常に引き戻された。

 

 

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腕節のchip fractureの重症度を決める因子

2015-01-23 | 関節鏡手術

引き続き腕節のchip fractureの重症度は何で決まるか?について考えてみたい。

McIlwraith先生の本には、Case selection, prognosis, and results 症例の選択、予後、そして結果、とされた項の中に、次の一文がある。

Cases should be assessed on an individual basis taking into account causation, predisposing factors, size and location of fragments, pathologic changes in the parent and other carpal bones, and presence of other lesions within the joint.

症例は1例ごとに、骨折を引き起こした原因、骨折を起こしやすくする要因、骨片の大きさと部位、骨折母骨と他の腕節構成骨の病理学的変化、そして関節内の他の病変の存在に基いて評価すべきだ。

account causation 責任ある・原因

とは、たいていははっきりさせるのは難しいが、その馬にとって最高スピードで競走したとか、路面が荒れていてミスステップしたとか、だろうか。

predisposing factors 起こしやすくする要因

とは、腕節が反っているなどの相馬conformationの問題とか、アンダーランヒールなどの蹄の問題や、以前にもその関節を傷めている、あるいは手術歴があるとか、などのその馬個体の問題だけではなく、

あまりに競走・調教が続いているとか、あの競馬場のあのコーナーはよく骨折が起こるところだとか、

数えあげたらきりがないかもしれない。

ただ、再発しないか、手術後に術前に劣らない競走成績をあげられるか、を考える上でも重要なことだ。

size and location of fragments 骨片の大きさと部位

骨片の大きさはたしかに重症度に関係する。小さいよりは大きいほうがひどいのは間違いない。

ただ、骨片の大きさより部位の方が問題かもしれない。

腕節の骨折でも、橈骨外側関節面と橈側手根骨遠位の骨片を大きさで比べることはできない。

私の経験でも橈骨外側関節面の骨折は2-3歳の比較的若い競走馬に多く、橈側手根骨遠位の骨折は3,4歳以上と年齢層が高い競走馬に多い。

橈骨外側関節面はミスステップなどのアクシデントで起こることが多いが、橈側手根骨は調教や競走を繰り返すことで骨や軟骨が傷んだ結果として折れることが多いように思う。

当然、橈側手根骨の骨折の方が予後が懸念される。

そのことは関節の中を関節鏡で観察し、さらには骨や軟骨を処置していても感じることだ。

pathologic changes in the parent and other carpal bones 母骨や他の腕節構成骨の病理学的変化

骨折を単に偶発的事故(たまたま)としかとらえていない関係者もいるかもしれないが、どちらかと言うと偶発的事故というより必然的結果(起こるべくして)としての要因の方が大きいのかもしれない。

私は必ず反対肢の同じ部位もx線撮影することにしているが、かなりの率で反対肢にも骨折や病変を見つける。

折れ易い馬、折れ易い環境要因、というのがあるのだ。

病理学的変化として母骨は骨梁が密になりすぎて硬いがもろく割れ易くなったり、あるいは血行を失ってスカスカボロボロになったりする。

関節軟骨は傷つくともう健康な硝子軟骨は再生せず、線維性の軟骨としてしか修復されない。

and presence of other lesions within the joint そして関節内の他の病変の存在

そして、関節は骨関節炎、あるいは変形性関節症と呼ばれる変化が進行する。

「骨膜でてる」と表現されることが多いが、それは骨関節炎とか変形性関節症の一現象にすぎない。

                        //////////

大和先生が亡くなったことを聞いた。

間違いなく日本の馬臨床に貢献した人だ。

例えば子馬の肢軸異常の手術は大和先生が日本で初めて取り組んだ。

手術をしに来た海外の馬外科医は「獣医師には手術を見せない」というケチな奴で、

「俺は獣医師じゃない、テクニシャンだ」と言って手術を観たんだ、と言っておられた。

それでも、後で私にはその手術手技についての文献集をくれた。

                          -

いまだに大和先生しか成功したことがない手術や、やろうとしたことがない手術もある。

今よりはるかに環境も整っていなかった時代。

夢を追いながら、周囲を引きずるように前へ進むにはあの強引さと胆力が必要だったのだと思う。

                          -

酔って、McIlwraith先生に、

「俺の関節切開手術はなんの問題もなかった。関節鏡手術など必要ない。」

と絡んだ姿を思い出す。

そんな人は世界中に、後にも先にもいないだろう。

ご冥福をお祈りする。

 

 

 

 

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腕節chip fractureの重症度は骨片の大きさで決まるか?

2015-01-22 | 関節鏡手術

午前、競走馬の腕節chip fracture の関節鏡手術。

午後、2歳育成馬の頭頂部の瘻管の切開切除処置。

                  -

chip fractureの手術をしていると、

「骨片は大きかったですか?」

と聞かれることが多い。

たしかに骨片の大きさは骨折のダメージの大きさと関係する。

ただ、骨折は複数個所であることも多いし、

骨折以外に骨関節症が問題である関節も少なくないし、

骨片はいくつもに割れてしまっていることもしばしばで、

さらには骨折部位の軟骨損傷が大きいこともまれではない。

                  -

これはある日の橈骨からのchip骨折片。

横幅は1.6cmほど。

橈骨遠位、外側関節面の骨片としては標準的な大きさだ。

ただし、この骨折とともに関節面の軟骨が剥がれてしまっていた。

これもまた珍しくはない。

関節面の辺縁から奥行き1cm以上にわたって軟骨が欠損したことになる。

軟骨はx線画像には写らないので、術前も術後も評価の対象にはされていないことが多い。

                   ---

腕節のchip fracture の重症度をきちんと程度分けgrading した症例検討成績は少ない。

Diagnostic and Surgical Arthroscopy in the Horse, 4e
C. Wayne McIlwraith BVSc PhD DSc FRCVS Diplomate ACVS Diplomate ECVS Diplomate ACVSMR,Ian Wright MA VetMB DEO DipECVS MRCVS,Alan J. Nixon BVSc MS Diplomate ACVS
Mosby

McIlwraith先生のArthroscopy in the Horse 4th ed.にも1987年のご自身の報告が引用されているだけだ。

1. 骨片による欠損の辺縁のけば立ちや砕片は最小で、骨折線から5mmを超えない。

2. 関節軟骨の変性は欠損部から5mm以上だが、骨の関節面の30%までにおさまっている。

3. 損傷を受けた腕節骨の関節軟骨の50%以上が失われている。

4. 軟骨下骨の明らかな喪失(ふつうは橈側手根骨の遠位の病巣)

となっている。

実に30年近く前に報告された調査成績だが、McIlwraith先生は骨片の大きさよりも関節軟骨の損傷や、軟骨下骨の変性の方が予後に関係すると考えておられたのだろう。

その後も、腕節骨折の重症度をひろく程度分けして予後と相関していたという学術報告はない。

                      ///////////

この辺りは、まだマイナス10℃くらいまで。

日中は0℃を超えるので雪や氷も融けたりする。

-50℃になるロシアの世界最寒地では雪の上を夏タイヤでも走れるそうだ。

雪も氷も融けないので水分ができないので滑らないとのこと。

                         -

強風の中での立ちションは風下に向かって45度だよ。

でないと自分のオシッコで濡れるヨ

 

 

 

 

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