馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

minimally invasive removal のコツは手探り

2021-03-31 | 整形外科

中足骨を亀裂骨折していた子馬

ブロードLCPをminimally invasive で入れて固定した。

1ヶ月ほど前に、中央部のscrewは立位で抜去している。

今日はLocking screw とLCPを抜くのでさすがに全身麻酔。

プレートを抜くのも簡単ではない。

しかし、たいていminimally invasive に抜ける。

つまり、穿刺切開でプレートスクリューを抜いておいて、プレートの片方の端の傷だけ少し広めにして、

プレートはそこから引っこ抜く。

プレートスクリューを抜くのはドリルドライヴァの先で手探りで抜くのだ。

プレート孔にはまっているのだから位置は分かりやすい。

screwは抜いてしまわないで、皮膚から突き出した状態で残しておくと隣のscrewを見つける目印になる。

                  -

この1歳馬はプレート固定しなければ、ボッキリ折れて予後不良になっていただろう。

危なかった。

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役職定年の年度を終わり、所長を退任しました。

臨床獣医師としては36年、馬の二次診療には35年従事してきた。

二次診療施設のトップになってからは18年。

長かったな、と思うし、ちょっとホッとしている。

自身の実力と経験という本質だけを問われるポジションに戻れる。

折しもときは四月。

馬の臨床が好きだったのだと十分思い返せる時季だ;笑

 


たいへんな、そして長い日曜日

2021-03-29 | 日常

朝、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

午後は、繁殖雌馬の歯の治療の予定が入っているだけだった。

まあ、繁殖シーズンだ。

そう穏やかに済むとは思っていなかった。

子宮穿孔疑いの繁殖雌馬の依頼。

            ー

さらに新生子馬の鼠径ヘルニアの連絡。

疝痛症状があるという。

それじゃあ連れてきてもらうしかない。そして、子宮穿孔・腹膜炎は午後にずらしてもらう。

鼠径ヘルニアの子馬は、たぶん、開腹手術になる。

悪ければ腸管手術になる。

来たら、鼠径部がかなり腫れている。

こりゃダメだ。すぐ手術だ。

こんなに腫れているということは、陰嚢の総鞘膜が破れているのだ。

腹腔と連続している総鞘膜の中へと脱出した腸管を戻すことはできない。

手術するにしても開腹手術もして、腸管を引っ張り込まないととても腸管を鼠径から押し込むなんてできないだろう。

去勢もしなければならない。

そして、反対側も鼠径が広いなら去勢して鼠径輪を閉じてしまった方が良い。

              ー

それが終わって・・・・・

午後1時からは繁殖雌馬の歯の治療の予定が入っていたが、黒毛和種牛の難産も帝王切開して欲しい、との依頼。

仕方がないので、二手に分かれて対応することにする。

私は、牛の帝王切開を担当することにした。

それが一番速いだろう。

ところが、来院した二産目の黒毛和種は興奮していて診療室へ入れられそうにない。

「こんな牛、立位で帝王切開できない」

「寝ちゃっても仕方がないから鎮静剤打とう」

鎮静剤投与したら落ち着いて、帝王切開を始められた。

しかし、すぐ伏臥してしまった。

そのまま帝王切開を続けて子牛を引っ張り出して、子宮を縫い閉じて、腹壁を縫って・・・・

皮下織は開業の若い先生に縫ってもらった。

私は追いかけるように皮膚を閉じた。

            ー

なんとこの牛、開業の先生が鎮静剤の拮抗剤を投与したら立ち上がって興奮して、飼主さんを振り切って逃げ出してしまった。

飼主さんと獣医師3名で追いかけたが、捕まえられない。

逃げ回ったあげく、500mほど離れた砂利置き場へ逃げ込んだ。

そこで飼主さんが捕まえて、土木資材につなぎ、トラックをとって来た。

トラックに引っ張り込もうとしたが、牛は入らない。

私が後ろから追おうとしたら、私めがけて突進してきて、飼主さんが離してしまった。

走る牛のロープを私がつかんだが、とても止められない。

牛は今度は診療所の敷地へ戻った。

            ー

忙しい日で、馬運車は4台停まり、畜主たちも居た。

「牛の方へ行かないで~!! 襲ってくるよ! 飼主以外が行くと牛逃げちゃうから~!!」

また飼主さんが牛を捕まえた。

たまたまトラクタ-が入っていた建物のそばだったので、シャッターを開けてトラクターの後ろへ繋いだ。

もう、牛の鼻環は壊れ、頭絡も切れかけている。

こんな牛が鼻環もなく、頭絡も無くなったら、どうしようもない。

国道まで逃げていったら人身事故になりかねない。

            ー

牛をトラクターで引っ張り、なんとかトラックの後ろまで連れて来た。

しかし、牛はトラックには乗らない。

首に荷揚げ用のロープを掛け、さらにもう一本かけて左右に引っ張って固定した。

そうやっておけば鎮静剤をうちに近づける。

それでやっと牛をトラックに引きずり込めた。

            ー

その間に、歯の治療は終わって、子宮穿孔・腹膜炎の手術が始まっていた。

子宮を閉じ、腹腔内を洗浄し、覚醒室へ運び出した。

新生子馬の胎便停滞疑いが来たので、私は別室で対応。

X線検査で胃も、小腸も、大腸も膨満している。

超音波で消化管がガスで膨満している。

潤滑剤で浣腸するが、浣腸液があまり入っていかない。

内視鏡を入れてみたが、20cmほど先から入っていかない。

・・・・・造影剤を入れて再度X線撮影したら、造影剤も行き止まり。

腸管の形成不全の可能性が高い。しかし、100%の確定診断ではない。

             ー

あちらの覚醒室で大きな音がしたので走って観に行った。

子宮穿孔の馬が覚醒起立しようとして、左の腕節を脱臼してしまっていた。

これでは予後不良だ。

それでも暴れて立とうとするのを抑えて、安楽殺した。

残念だが、それ以外どうしようもない。

             ー

新生子馬もとりあえず牧場へ帰ってもらうことにした。

             ー

夜、寝ついたところを起こされた。

分娩5日目の繁殖雌馬の疝痛だと言う。

PCV57%。

きのうも疝痛、次の日も疝痛しフルニキシンを投与し、さらに再発したのでフルニキシンを再投与し、そして今度は手がつけられないほど痛くなった。

来院したが、痛くて検査もできなかった。

これは、ダメかな、と思いながら開腹したが、なんとかなりそうだ。

結腸を引っ張り出し、骨盤曲を切開して内容をできる限り捨て、捻転を整復し、元へ戻して、colopexyして、閉腹した。

片付けて、入院馬房に輸液を吊り、カルテを書いて・・・・帰って寝る。

             ー

と、フトンに入ったらスマホが鳴った。

今度は難産だという。

両前肢の腕節が屈曲している失位。

それなら、全身麻酔して後肢吊上げすれば整復できる、だろう、と思って始めた。

が、産道がひどく狭く、とても整復できそうにない、という。

帝王切開するつもりもありますか? と尋ねたら、必要なら、との回答。

帝王切開する。

1人で執刀したのでたいへんだった。

1日に牛と馬の帝王切開をするなんて。

             ー

終わって朝5時前。

私は帰って寝た。

いつもはもう起きている時間だが、眠れた。

ところが、さらに具合の悪い新生子馬が来た、とのこと。

鼠径ヘルニアの子馬は調子良さそうだ。

結腸捻転の繁殖も食欲があり、昼から制限給餌を始め、夕方には帰っていった。

帝王切開した馬は、オキシトシンの点滴と羊膜の血管への注水で胎盤を落とし、退院した。

long long hard Sunday

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冬の寒さがなくなり

すっかりあたたかくなった

そして・・・・繁殖シーズン真っ只中だ。

 

 


ある結腸捻転

2021-03-26 | 急性腹症

前夜にも疝痛で、朝5時からひどくなった、という繁殖雌馬の疝痛。

術前PCV54%。

8時には開腹手術を始めたが、結腸の損傷がひどくあきらめざるを得なかった。

一度大結腸は創外へ引き出したが、また戻してある。

上が頭側cranial、腹側に腹側結腸、その頭側に背側結腸があるので、一見正常な位置関係に見える。

しかし、盲腸が頭側、胃のそばにある。

盲腸と腹側結腸を結んでいるのは盲腸結腸ヒダ。

直すためには後ろ回りに回さなければならない。180度回して結腸動脈が見えて来る。

さらに180度回して、結腸動脈は体の中心側へ行って見えなくなった。

盲腸も尾側へ出てきた。

これで正常な位置になった。

尾側から盲腸、盲腸結腸ヒダ、腹側結腸、背側結腸、と並んでいる。

(結腸捻転の整復では必ずこの位置関係を確認しないとまだ捻れていることがある)

これで整復完了。

大結腸は盲腸と入れ替わるように、前回り(後ろから見て右腹側結腸が時計回り)に360度捻転していたわけだ。

右腹側結腸を、盲腸結腸ヒダ付着部で切開してみた。

やや発赤しているが壊死するというほどではないかもしれない。

しかし隣り合う背側結腸の粘膜は暗赤黒色。この部位は生存も期待できない。

創外へ出せるギリギリの部位で結腸切除しても吻合部が壊死するだろう。

助けられるとしたら・・・・・前夜の疝痛のときに連れてきてもらうしかなかった。

                  ---

きのうは、

子馬の飛節の細菌性関節炎。2回目の来院。

所内ゼミ。この季節、獣医師全員が集まれて邪魔されないのは奇跡的。

種子骨の解剖、種子骨骨折のいくつかのパターンとその治療法、そして繋靭帯の治療の可能性について勉強。

午後、

ウルサイ2歳馬の去勢。

片側は鼠径部陰睾だった。

当歳馬の後膝の細菌性関節炎。関節洗浄。

8ヶ月のホルスタイン牛の角膜上の出っ張りの診察。

肉質のようだったが・・・・・虹彩脱だったようだ。

切除して眼球結膜をフラップした。

超音波検査で眼内構造も眼底にも異常があることは先に観た。

この眼はもう視力はない。

                 //////////////////

机やキャビネットの中の、いえ机の上のも、膨大な資料を捨てている。

「君の本棚を見せてみたまえ。君という人を当ててみせよう」、と言った人がいるそうだ。

読んできた文献が私を創った。

今、それを捨てる。

・・・・・・・・要らないヤツだけね。

 

 

 

 


疝痛を開腹手術する判断 refer する判断

2021-03-24 | 急性腹症

年間100頭以上の馬の腸管手術をする馬病院は世界的にも多くない。

うちよりはるかに多くの腸管手術をしてきたHagyard-Davidoson-McGeeのSpirito先生に尋ねたことがある。

”疝痛は開腹手術の判断が難しいでしょ?”

”牧場でフルニキシン投与する。痛かったらHagyardへ連れて来られる。来院してまたフルニキシン投与する。

それでも痛かったら手術だ。それは俺の仕事じゃない。俺は手術準備できた所へ入っていって手術するだけだ。2時間で終わる。”

達観だし、ある面真実だろうが、尊敬できる話しではない。

                  -

フルニキシンを投与しても痛いひどい結腸便秘や盲腸鼓張はあるし、子宮動脈破裂、胃潰瘍、腸炎などもフルニキシン投与を繰り返すことがある。

それらのほとんどは開腹手術の適応ではない。

第一、フルニキシンを投与した様子だけで判断するなら獣医師はいらない。

今は牧場がバナミンペーストを経口投与できる。

                  -

フルニキシンを投与しても痛みが治まらなかったら多くの獣医師が鎮静剤を投与している。

「落ち着きましたね。様子を観ましょう」、と牧場を離れてしまう獣医師が多いが、致命的な疝痛の多くには鎮静剤が”効く”。

結腸捻転のかなりがそうだし、小腸捻転でも鎮静されるし、結腸左背側変位や回盲部重積などはフルニキシンだけで鎮痛されることが多い。

鎮静剤投与して馬落ち着いたら、そのタイミングで、直腸検査、超音波検査、胃カテーテルの挿入をしてみるべきだ。

直腸検査で、膨満した結腸の壁が肥厚していたら疝痛が落ち着いていても馬病院に運ばなければならない。

小腸ループに触るときもそうだ。

結腸左側変位をほとんど確定診断できることもあるだろう。

超音波検査でも、腹水の増量が判断できるだろうし、膨満した小腸や結腸壁の肥厚を確認できるかもしれない。

とくに腹腔容積が小さく、体壁が薄く、直腸検査できない子馬では超音波検査は必須だ。腸炎も多い。

                   -

馬病院へ運ぶ判断のタイミングは距離にもよる。

遠い牧場ほど運ぶのに慎重になりがちだが、遠い牧場ほど早く判断しないと重度の結腸捻転などでは手遅れになる可能性が出てくる。

ひどい痛みではない結腸捻転が経過の途中からひどく痛くなって、開腹してももう手遅れということがある。

一方、腸鼓張でも最初の1-2時間は転がりまわってフルニキシンも効かないことがある。

判断は適確に、早く、速く。

疝痛は3時間を超えると手遅れで予後不良になる症例が出てくる

そういう症例は、初診で判断しなければ間に合わない

                 ---

結腸捻転、手遅れ。

前夜も疝痛だった。

翌朝、来院。

            -

小腸捻転。腹部膨満も壊死の状態もひどい。

前夜も疝痛で、獣医師がフルニキシン投与した。

夜中に牧場がフルニキシンペーストを飲ませた。

翌朝、来院。

            -

子馬の小腸捻転。手遅れ。

朝、疝痛を発見。顔を擦りむいていた。

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岩壁を攀じ登るのは難しいが、

カタツムリには容易。

 

 

 


午後の結腸捻転、朝の結腸捻転 DEEP PURPLE

2021-03-23 | 急性腹症

昼から、繁殖雌馬のひどい疝痛が来ると言う。

先の1歳の臍ヘルニアの手術が終わって覚醒室で寝ている間に来たが、トラックの中で立てない。

たいていトラックの前方を頭にして寝てしまうので、ひっぱって頭を後ろ向きにしてやると立つ。

馬だって馬運車の中で倒れていたくないのかも知れない。

           ー

PCVと乳酸値が高いのだけ確認してすぐ開腹。

結腸捻転で、捻れ方がひどい。

結腸を引っ張り出すのに苦労したが、出してみたら結腸の損傷はひどくはない。

           ー

別な繁殖雌馬の疝痛も頼まれていたが、よそで引き受けてもらえることになった。

そのために「無理」と断っていた外傷を「受け入れ可能」と連絡する。

蹄鉄を履いた2歳馬の飛節の外傷。

結腸捻転の手術の途中に、覚醒室で全身麻酔して処置を始めてもらう。

           ー

翌朝、繁殖雌馬の開腹手術を始める、というので呼ばれる。

ひどく腹部が膨満している。

PCV54%。

前日の夕方も疝痛症状があったらしい。

ひどくなかったが、翌朝5時には劇症になった。

開けたら・・・ひどい。

大結腸の根部まで壊死していて厳しい。

             ー

その手術の最中に、前夜分娩した繁殖雌馬がふるえている、との依頼。

来院したら口粘膜はひどいチアノーゼ。

白血球1500/μl、PCV64%。

腹腔穿刺して腹水中に多量の細菌があるのを確認した。

消化管破裂だ。

盲腸破裂だった。

             ー

前日の結腸捻転馬は昼に退院していった。

入院していた新生仔不適応症候群NMSの子馬も、自力で起立し親から乳を飲めるようになって退院していった。

           ///////////////

馬病院も混み合う時季になった。

医療資源も限りがある。

現場の先生たちも忙しいのだろうが、しっかり判断して的確に依頼してもらわないと適切な処置ができない。