馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

ポータブル撮影装置で股関節の骨折を診断できた

2019-05-31 | その他外科

転倒してひどい跛行を示して1週間の2歳馬。

まだ寝起きも不自由なので全身麻酔しての大型X線撮影はしたくない。

まず腰角(腸骨結節)をポータブル撮影装置とDRで撮影した。

折れてない。

しかし、左の腰角は右に比べて出っ張り方が少ないように思えるので、腸骨体自体が変位しているのだろう。

立位で、反対側よりの股下から撮影したら

股関節で恥骨と腸骨と坐骨が離れてしまっているのが写った。

使った撮影装置はポータブル、管電圧80kv。

コニカミノルタDR。

患肢を曲げて、股を開くように保持してもらい、股関節の上にフラットパネルを当てて、股の下から撮影した。

悲しい写真ではあるが、撮影できたことは喜ばしい。

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北海道は、異常な暑さも去って、爽やかな好天に戻った。

大阪から来ている実習生に言う。

「こんな青空は大阪にはないだろ?」

大阪の空のことはよう知ってんねん;笑

しかし、大和川はとてもきれいになったそうだ。

でも、泳げるわけでもないし、水を飲めるわけでもないだろう。

北海道はイイゾ、と就職勧誘しておこう;笑

 

 


子馬の脛骨近位成長板損傷の変遷 Richardson教授の評価

2019-05-28 | 整形外科

T-LCP を使って脛骨近位成長板損傷を内固定した。

 

 

いつものように、ペンシルヴァニア大学New Bolton Center のRichardson教授に写真を送って評価してもらった。

                   

 I think your approach and execution were excellent! Very nice job. 

I haven't watched the AO video in a while but I recall I also do not do it quite like they describe. I have used the figure-8 wire but don't like it very much. 

 

My biggest change would be to use a shorter plate.  I have even done neonates with a 3 hole pastern arthrodesis plate but usually use a 5-hole narrow T-plate.

 

 

One other concern with this T-plate is that I have had one foal split the epiphysis with 3 screws in the "T".  Therefore, I only use two screws in that part.

 

I remove these pretty quickly,  often around 3 weeks or so in neonates but pretty much always less than 6 weeks unless they still have a valgus.

 

君のアプローチと実践はとても良い! 非常に良いできだ。

 

私はそのAOのヴィデオをまったく観ていないが、私も彼らが言っているのと同じようにはやらないと思う。

私は8字ワイヤーを使ってきたが、あまり好きではない。

 

私の最も大きな違いは短いプレートを使うことだ。

新生子馬では繋の関節固定用の3穴を使うことさえある。しかし、いつもは5穴のTプレートを使う。

 

このTプレートについてのもうひとつの懸念は、”T”の3本のスクリューで骨端が割れてしまった子馬が居たことだ。

だから、私はこの部分にスクリューを2本だけ入れる。

 

私はプレートとスクリューをかなり早く抜く。新生子馬では、しばしば3週間とか、外反がまだあっても6週間以内には抜くことが多い。

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骨端部に3本のスクリューは多すぎる、というのは興味深い指摘だ。

2本で充分なのかもしれない。

 

長すぎる期間、内固定してはいけない、というのは成長板損傷についてRichardson教授にいつも言われることだ。

成長板が骨癒合してしまうと、成長できなくなることで障害が起こる。

 

AOのヴィデオをRichardson教授が観ていない、というのは面白い。

そんなもんなんだな。

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結腸捻転多発時季なのだが、今のところそれほどのrushにはなっていない。

警報発令の効果があったか?;笑

 

 

 

 

 

 

 


新生子牛の蘇生

2019-05-26 | 牛、ウシ、丑

朝、難産で引っ張り出した子牛がグッタリしているのをなんとかしてくれるか、との依頼。

来院したら、立てない、鳴かない、頭もあげない、が呼吸はしている。

毛布に乗せて運んで、

気管挿管して、

吸引器で羊水?を吸引して、

デマンドバルブを着けて、酸素吸入する。

動脈血ガスでは、酸素は300以上と高くなっていたが、重炭酸がひどく低いので、輸液に重曹を混ぜた。

1時間ほどで、鳴くようになり、伏臥位になり、立てないまま運ばれて帰って行った。

            ー

午前中は、予定の関節鏡手術。

昼は血液検査業務。

午後、内股にRhodococcus equiによる膿瘍ができた子馬。

それから、この1週間診ていた疝痛の繁殖雌馬の探査的開腹手術。

空腸上位、大結腸が癒着し、小結腸が索状物で絞扼されていて、あきらめなければならなかった。

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昨夜も結腸捻転が来て、

入院厩舎には腹膜炎と、結腸捻転の馬が入院している朝。

若馬たちは青草の絨毯の上で朝寝している。

うらやましい・・・・・


5月末、とても良い天気だった。

2019-05-24 | 急性腹症

朝、繁殖雌馬の疝痛の依頼。

しかし、予定の手術をすましてしまうことにする。

それは、5歳競走馬の繋靭帯炎による第4中手骨骨折。

吸入麻酔で手術しようと思っていたが、手術室を空けておくためにレントゲン室で静脈麻酔で手術することにした。

麻酔も術野準備も術中X線撮影も手早くやってくれるので大丈夫。

               -

繁殖雌馬は痛みが治まらず、開腹することになった。

小腸が大結腸に巻きついて絞扼していた、とのこと。

私は、他の患畜の対応でほとんど観ていない。

               -

開腹手術の間に来たのは、急患で1歳馬の後肢の外傷。

ひどく大きな傷ではないが、後肢なので全身麻酔して縫合しなければならない。

もう1頭は、腹膜炎の繁殖雌馬17歳。

今年は死産している。もう種付けはしない。

あきらめて剖検したら葉状条虫によるものだったようだ。

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覚醒室で寝ている開腹手術馬を交替で観ながら短い昼食。

1時からは予定の関節鏡手術。競走馬の腕節骨折。

その最中に、子宮穿孔の繁殖雌馬の診察。

4日前に分娩していて、来院してからの血検でPCV68%。口粘膜はチアノーゼ重度。

この馬ももう種付けする予定はない。

そして、状態が悪すぎる。

剖検したら、腹腔内もひどい状態だった。

               -

3時に子宮穿孔を疑う別な繁殖雌馬の来院。

2日前の分娩。

まだ子宮が大きく、子宮角先端までは触れなかった。

この馬もPCV68%。

この馬はまだ9歳。厳しいが開腹して腹腔洗浄することにした。

開腹したら汚い腹水があふれでた。

この馬は術前の超音波検査でも特異的に腹水が多かった。

左子宮角先端の穿孔だった。

特別大きい穿孔ではないが、タイミングで羊水が大量に腹腔へ入ったのだろう。

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胃液が術中に鼻から出てきたし、血圧は30台。

両方の頚静脈を使って輸液して50台になった。

術後覚醒室で立ち上がったが、また倒れてしまった。

数段に分けて息を吐くおかしな呼吸とうめき。

入院厩舎に準備していた輸液を覚醒室へ持ってきて持続点滴を始め、

カルシウムを反対側の静脈から点滴し、ついでヴィタミンB入りのブドウ糖液を点滴し、重曹も点滴し、

1時間あまりで起立した。

                   -

おわって、夜7時半。

さて今日は何頭来たでしょう?

何頭手術したでしょう?

何頭麻酔したでしょう?

毎年、春の記憶がないのは仕方ない。

だってその日のことさえ思い返せない;笑

 

 


脛骨近位成長板損傷の内固定方法の変遷  骨端に複数のscrewを  

2019-05-22 | 整形外科

さて前置きと中断が長くなったが、子馬の脛骨近位成長板損傷を内固定する方法の変遷についての本編。

かつてはTプレートによる方法が報告され、成書にも記載されていた。

薄い骨端に2本のscrewを入れることができる。

私もTプレートを買い込んで準備していたし、子馬と子牛でやってきた。

このTプレートは横棒部にscrew hole が2つ開いているので、骨端に2本screwを入れることができる。

欠点は、

Tプレートが薄くて強度がないこと。

しかし、この部位に適応する場合は問題にならないと思う。

牽引だけできればよく、Tプレートが曲げられることはなく、支柱性は必要ないからだ。

もう1つの欠点は、Tの横棒部分が大きいことだ。

膝関節の近くに固定するので、Tの横部分が近位側へ飛び出し、膝関節に当たりかねない。

関節包が破れたのであろうと思われるように、術後に関節液が流れ出た症例があった。

さらには、このTプレートはplate hole を用いてコンプレッションをかけることはできない。

compression plate ではないのだ。

そして、このTプレートは安くはない。

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近年、推奨されているのはscrew&wire とLCP を併用する方法。

整復し、それをscrew&wireで牽引固定しておいて、LCPにLHSを入れて固定しようという方法。

この方法でも、骨端に2本screwを入れることができる。

この方法の欠点は、screw&wireは牽引しているだけだということだ。

wireをきつく締めることはできるが、強すぎれば切れてしまう。

wireがscrewヘッドからはずれてしまうことも起こりやすい(上の写真!)。

ワッシャーを使ったほうが良いだろうが、screwも折れることがある。

それと肝心なLCPは、結局1本のLHSで骨端に固定されているだけ。

子馬の軟らかい骨端に、あのネジ山の小さいLHS1本が果たしてどこまで効くか、疑問が残る。

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変位がひどく、固定強度が必要な症例では、LCPを2枚使う方法が推奨されている。

これは固定力がかなりあるだろう。

しかし、子馬のこの部分にLCPを2枚入れると、傷を閉じることがかなり厳しくなる。

術後も腫れるし、よく動く部分なので、傷が開き易い。

私がやった症例も、傷が開いて感染し、手こずることになった。

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最新の方法は、最近開発されたT-LCPを用いる方法。

まさにこの脛骨近位成長板損傷の内固定のために開発された。

このT-LCPには横棒部に3つcombination hole が開いている。

LHSも入れられるし、screw hole を使ってcompression をかけることもできる。

横棒部分は、以前使っていたTプレートより小さい。

関節への干渉も少ないだろう。

ただし、このT-LCP は高い。

日本では市販されていないので、個人輸入しなければならない。

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準備はしておいて、本当に必要な症例で使うことにしたい。

脛骨近位成長板損傷は多い。

毎年、1-2例必ず遭遇する。

変位がひどい症例でも確実に治したい。

この20年の子馬の整形外科の進歩で、その方法が提示されたことはたいへん喜ばしい。

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きのうは午前中子宮穿孔の準急患。

子宮頸管すぐ奥の背中側の穿孔だったので、立位で縫合修復してから、開腹手術して腹腔洗浄。

生理食塩液29リットルで洗浄した。

夕方もなんと子宮穿孔の急患。

右子宮角先端の穿孔だった。

開腹して子宮裂孔を修復し、腹腔洗浄。

生理食塩液36リットル使った。

                ー

タンポポを増やしたくなければ種が飛ぶ前に刈ってしまわなければならないんだろうな・・・

それなりにきれいなんだけどな・・・・

イドンナップ岳。

このあたりからは最も高く見える。

私は大学山岳部時代もたぶん登っていない。