馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

馬医者の怪我

2006-05-31 | How to 馬医者修行

 馬の獣医師はどのくらい馬に蹴られているか? スイスでの調査が発表されているので、紹介したい。

それによると 「蹴られていない獣医師は25%だけで、62%は1年間に1回未満蹴られたことがあり、10%は年に2-3回蹴られており、3%の人は年に5-10回蹴られている(こりゃひどいな!)。

 獣医師が蹴られるのは馬に痛いことをするときが最も多い。

 自身で馬を持っている獣医師は、持っていない獣医師より蹴られている。これは、馬に接する回数が多いことで、注意が薄れているのだろう。」 ということだ。

 結論として、痛みを伴う手技をするときは馬を鎮静すること、安全に処置できる場所を選ぶこと、そして注意を払うことが忠告されている。

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 私の地域でも獣医さんの大怪我がある。馬に蹴られる、交通事故、その他。

そして、そのほとんどが7月なのだ。偶然とは思えないほど7月なのだ。なぜか?

答えは簡単だ。疲れがたまっていて、気が緩むからだ。

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 登山をしていた大学時代、有名な登山家が言っていた。「山で死ぬのは本望だ。趣味だから。しかし、仕事で怪我したり死んではいけない。プロなんだから。」

 言われた意味はなんとなくわかった。仕事でやる以上、冒険してはいけない。危険を冒してはいけない。

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 そろそろ疲れがたまってくる頃だ。

 若い獣医さんたち、交通事故にも、馬にも気をつけましょう。

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馬歯科技師と獣医師

2006-05-30 | 歯科・口腔外科

 近年、欧米でも馬の歯科が注目されている。

その一つの要因には、以前紹介したような電動、あるいは空気圧を利用した歯鑢の普及がある。手でこすっていたのでは頭数がこなせない。仕事として成り立たない。しかし、パワーツールが利用できるようになったので、次から次へ馬の歯を削るのが仕事として成り立つようになった。

で、馬のDentisit 歯科技師あるいは歯医者と名乗る獣医師以外の人たちが出てきた。獣医師でないので、治療を標榜することはできないが、すべての馬の歯は1年に1~2回手入れしてやる必要があると主張し、それを仕事としている。

あるいは乗馬、競走馬は、ハミ受けが良くなるとして臼歯の前を丸く削る(Bitseat)。

 海外から年に数度呼ばれて来ている者もいるし、国内でも馬歯科技師を名乗っている人も現れてきている。

しかし、金銭を受け取って人の馬に処置を加えることは、今のところ獣医師法、獣医療法違反だ。

欧米でも馬歯科技師の存在を認め、資格を与えるかどうか、国や州によってまだ方向は定まっていない。

鎮静剤投与が必要になったときどうするかとか、削りすぎの問題、抜歯するのを認めるかなど、トラブルもあるようだ。

 馬歯科技師を認めるなら何らかの認定・資格制度と教育制度が必要になる。しかし、馬の数が少なく、まだ需要が安定していない日本では予算を付けることも難しいだろう。

また、馬の歯科処置・治療が必要なものなら、総括的には獣医師が責任を負う必要があるから、獣医学教育の中でも馬の歯科を教える必要がある。これも日本の現状では難しい。 馬の獣医師をめざす獣医科学生など一つまみもおらず、教えられる教官もいない。

 で、現状は違法行為を「野放し」。

 少なくとも馬の獣医師であるわれわれは、馬の歯について正しい知識を持ち、必要なときにはあらゆる処置をできるようにしておかなければいけないだろう。

「獣医さんにはできないから、獣医さんはへただから、獣医さんはやってくれないから」と言われないように。

Equus

 左は、馬の歯科教育用のDVD EQUUS。

http://digitalequus.com/index.html

そのうち皆で見て、勉強しましょう。

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飼料と歯科治療の必要性

2006-05-28 | 歯科・口腔外科

 すべての馬が歯の手入れを必要としているかどうかは疑問がある。少なくとも最近までは、歯の手入れなど一度も受けずに何の問題もなく一生を過ごした馬がほとんどだった。

馬が歯の手入れを必要とするようになる要因に飼料の変化がある。馬は青草、乾草などの粗飼料を食べているときは顎を十分に動かして、臼歯の全面を使って咀嚼する。

そうしなければ十分に噛み砕くことができないからだ。

しかし、エンバク、ふすま、ペレット、ヘイキューブ、配合飼料などを与えられる率が増えると、咀嚼する回数が減る。臼歯の一部分だけを使って咀嚼するようになる。

すると、磨り減らない部分が鋭くとがってくる。これが、口の中を傷つけるようになると、人が鑢(やすり)で削ってやらなければいけなくなる。

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 欧米では歯内病(endodontic disease)が問題になっている。しかし、私はほとんどこの歯内病を診たことがなかった。ただ、最近は育成馬などに歯内病があるようなのだ。

これも、馬に配合飼料を多給するようになったことが原因だと思う。最近の馬用配合飼料は糖蜜などが入って、甘くてショッパイ。嗜好性は良いが、本当に馬の健康に良いのだろうか?

少なくとも馬の歯には良くないだろう。

 人も長い歴史の中では、歯を磨かないと虫歯になるような食生活をするようになった年月の方が短いのだろう。虫歯の原因になる糖分や脂肪分の摂取量は、原始時代の何十倍にもなっているはずだ。

元に戻れないのは、わかっているが・・・・・・

P5290063                             -

今日診た馬の歯。209が折れて短い。磨耗しないので309が伸びてしまっていた。

Swissfloatで309を短くし、他の斜歯も削った。

実は109も折れていて、409も過長歯になっていた。

こういうのは手やすりでは削っていられない。これからこういう馬が増えるかもしれない。

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持続点滴

2006-05-28 | 急性腹症

 朝、診療所へ行ったら開腹手術の最中。子宮穿孔の修復と腹膜炎の腹腔洗浄。

その後、子馬の肢軸異常のスクリューはずし、2歳馬の腰フラのX線撮影をして、その後子馬の外傷縫合、午後から胃の内視鏡検査をして、次に子馬の尺骨骨折のプレート固定、カルテを書いて・・・・後は入院馬の治療。

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20 左は私のところで使っている20リットルの持続点滴システム。

先週のPCV75%のような症例になると大量の輸液が必要になる。

USAでは動物用に5リットルの輸液バックが売っているが、それでも夜中に何回か付け替えなくてはいけない。

私達は20リットルのバックのお陰で6時間は眠れる。

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 ただ、静脈内輸液は、消化管が使えないときの手段だ。

先週の膀胱破裂症例や、今日の子宮穿孔症例では消化管に問題がないので、水も自由に飲ませることができる。

「消化管を使えるときは、消化管を使え」がセオリーなのだ。

 しかしながらこれは結構忘れられている。 

喉嚢炎による神経麻痺で嚥下障害を起こし、飲まず食わずの馬に毎日足りない程度の補液をしていたりする。

鼻カテーテルを入れて、大量に経鼻輸液した方がずっと良い。

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 そんな1日だったので、ダービーも見れなかったが、メイショウサムソン。おめでとう。

日高産馬の大活躍!! いや~めでたい。関係者の皆さん、おめでとう!!

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空腸腸間膜裂孔ヘルニア

2006-05-27 | 急性腹症

 胃のあとは十二指腸、その後は盲腸の右側の背中側を通って、左の腹腔へ入り空腸となっている。この空腸の最も近位部の腸間膜に孔が開いていて、そこへ小腸が入り込むことで腸閉塞を起こすことがある。

Photo_94 剖検馬で手術時と同じように他の臓器を分けている写真が左。

腸間膜の孔は縫えているように見えるが、実際には奥に縫えていない部分がある。しかし、腹腔内のほとんど背中に近い部分なので、この孔を完全に縫い閉じるのは非常に難しい。

完全に縫えないと、また腸管が入り込むことがある。

Photo_95 剖検馬を頭を下にして吊るして撮った写真が左。

盲腸の尾側を通って左腹腔へ入ったところの腸間膜に孔があり、縫った部分(緑矢印)と縫えなかった部分(黒矢印)を示した。

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 考察その1.

いつも小腸閉塞では、盲腸側から小腸を上位へとたどる。そのとき胃の方へと小腸を並べ胃の方で縫おうとする(1枚目の写真のように)が、実際には腹腔へは盲腸の尾側を通ってきているので空腸最上位の腸間膜を露出させるためには、盲腸結腸は右へ、小腸全体は左頭側へ出した方が良いのではないか?

考察その2.

この腸間膜の孔の由来がわからなかったが、今回の症例は分娩13日後で、孔の辺縁は裂けてから1-2週間経っているような様子だった。出血の跡が残っており、しかし辺縁は丸く収縮しつつあり、しかし結合織にはなっていなかった。

2枚目の写真に示したように空腸の中でもっとも子宮に近い部分であり、腸間膜は短い。分娩時に牽引されて腸間膜が裂けるのではないか。

この空腸の腸間膜裂孔へのヘルニアは、仔馬や育成馬では見たことがなく、繁殖牝馬ばかりだ。分娩による腸間膜の損傷だと考えていいだろう。

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 捲土重来。この次は完全に縫合する。手術即全治。を目指したい。

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Photo_96 空は青く、若葉が美しい。

遊びに行きたいな~。

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