馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

単位 尺貫法そして細胞数

2011-09-30 | labo work

私の母は和裁をやっていた。

今はどうかしらないが、その頃は和裁は寸尺の世界で、母は竹の定規を大切にしていた。

それでチャンバラをしようとして取り上げられた。

「もう手に入らないのだから」と。

日本は世界標準にあわせて寸尺を使わせないために、寸尺表示のものさしの製造や販売まで禁止したらしい

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USAがいまだにメートル単位に変わろうとしないのは、「軍隊がインチを使っていて、砲弾の弾道の計算までインチ単位で行っているために、変更しようとすると莫大な国家予算が必要になるからだ。」と聞いたことがあるが、本当かどうかしらない。

人工衛星の軌道計算なんてインチでやっているとしたら恐ろしい気もする。

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学術雑誌の表記もいまだに様々で、USAの雑誌には華氏と摂氏を併記しているものもある。

血液検査などの細胞数の表記も、本来SIでいくなら、cells/m?(ミリ立法メートル)で表示するべきなのだろうと思う。

日本では赤血球数が800万とか、白血球が1万とか表現することが多いが、これはミリ立方メートルm?当たりの細胞数を表示していることになり、SIに沿っている。

ミリmは千分の一の意味なので、容積になると10のマイナス9乗?。

どうしてもリットルで表現したければ、m?はμ?ということになり、

cells/μ?なら私たちが日常使っている数字に変化がないので抵抗がないのだが・・・・・

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細胞数をリットル?当たりで表示するように定めている獣医学術誌もある。

論文上の表記とは言え、とんでもない桁数になり、私など英語でどう読むのかさえわからない。

どうしてこうなってしまっているのか、そして、なんとかならないものなのだろうか?

(つづく)

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P9281406_2  快楽とはほど遠い、しかし、だからこそリフレッシュになるのかもしれない。

1時間に1回は休憩を入れて。と思っていたが、泊まりの荷物は担ぎ慣れない身には重く、30分と登り続けられない。

どんどん上っていく高度計が励みになってくれた。

      


単位 体温

2011-09-27 | labo work

 科学上の国際的な取り決めで、ずいぶん前から、測定結果の単位はメートルで表記することになっている。

メートル法などと呼ばれたりするようだが、1960年の国際単位システム International System of Units の採択が国際的な共通認識の始まりのようだ。

 Jiro J. Kaneko先生による家畜臨床生化学の巻末にはSI単位についての付録があり、

1977年5月、世界保健会議WHAは医療領域で使用する単位として、国際単位システムを推奨した。このSIは全世界で普遍的に使用されることを目的とした測定単位系で、世紀にわたる努力の結晶である。

と書かれている。

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SIでは、温度は絶対温度ケルビンが基本単位とされていて、誘導される単位として摂氏℃で表示することになっている。しかし、USAの獣医師は相変わらずインチで仕事をし、体温も華氏°Fを使っている。

さすがに学術雑誌では°Fやインチ表示だけの表記のものは少ないのだが、雑誌によって表記が違うので非常にややこしい。

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温度について言えば、華氏°Fで表示されていると、摂氏に計算しなおさなければならない。

換算式は 

(°F-32)÷1.8=℃

となるが、

実際には

(102.2-32)/1.8=39.0 

なんてことになるので、とても暗算ではできない。

USAと日本の両方で診療したことがある先生達はどうしているんだろう?

なれれば暗算するように覚えこめるのか、華氏でも摂氏でもピンとくるようになるのか・・・・

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ことが臨床上たいへん重要な体温のことなのでおろそかにできない。

「38.3℃?・・・微熱か、あるいはこの馬は平熱が高いのか・・・・」

などとはしばしば考えているので、だいたい何度では困るのだ。

(つづく)

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スポーツ障害

2011-09-24 | 図書室

世間は当然のように3連休なんだろうが、4週6休職場はそうではない。

1次産業周辺業界も週休2日になっていくのだろうか。

まあ、24時間365日対応を標榜している獣医療機関は、日常業務も急患対応もこなしやすいようにこなすしかない。

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1歳馬の去勢。

お母さん譲りの気性で、入れ込むと餌も食べなくなるとのこと。

玉がなくなれば、お母さんより大人しくなるかどうか・・・・

3歳競走馬の腕節の骨折の関節鏡手術。

珍しいことに中間手根骨もかなり傷んでいた。

血液検査業務をこなして、

当歳馬の脛骨の外果骨折のスクリュー抜去。

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夕方、蹄骨骨折や中手骨骨折の経過とリハビリについての相談。

それらは競走馬のスポーツ障害で、最良の治療方法や予後判定やリビリ方法や復帰へのメニューやその時期の判断は専門的知識と経験を必要とする。

蹄骨骨折は、今は、最初は蹄をキャストで固定し、その後、連尾蹄鉄で管理して良好な骨癒合をさせることが望ましいとされていて、そのことは成書にも書かれている。

第三中手骨外側関節面からの骨折は、スクリュー固定した方が、保存療法するより早く競走復帰でき、復帰後の競走成績が良いこともデータで示されている。

しかし、そのことをはっきり知っていたり、実際にできる馬医者は限られている。

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Wcup

今、もっとも注目されるアスリートかもしれない。

これは2008年に出された自伝。

別な表紙で売られていたようだが、なんとその上にワールドカップでの表彰シーンの新しい表紙を重ねて本屋で平積みされていた。

チームを引っ張る人間性も持った天才プレイヤーなのだろうと思う。

サッカーしかしてこなかった。と本人が述べているように、サッカーのことだけが書かれているのだが、

いじめや、両親の離婚や、女子サッカー界を取り巻く環境の厳しさを、ひたすらサッカーをすることで乗り越えてきた一人の自伝として読むと

、それは一般の人に通じる普遍性を持つように思えてくる。

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シリアスなのは、膝の障害の話。

半月板を損傷し、しかしチームとしては中心選手の故障を隠さなければならない状況で、

痛み止めをうって強行出場し、

試合の内容も記憶に残らないような集中力で乗り越え、

予選大会後に手術を受け、

懸命にリハビリをこなして本大会に間に合わせる。

一歩間違えば、それで選手生命を絶たれるような決断の連続なのだが、トップ選手の故障というのはそういうものなのだろう。

サッカーもまた、選手生命の長い競技ではない。  

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なでしこジャパンの主力FWの二人、安東選手も丸山選手も膝の手術を受けるようだ。

とくに丸山選手の前十字靭帯損傷は難しい手術で、リハビリも厳しいものになるだろう。

手術の成功と、早い復帰ではなく、残されたサッカー選手生命の充実を願う。


秋分の日

2011-09-23 | 図書室

醜聞の・・・じゃなかった、秋分の日。

終日、ぐずついた天気で雨が降っていた。

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 今日は、1歳馬の「肩」跛行。

点頭運動はしないが、前肢を開いて歩く。

・・・・・「跛行」とは正常ではない歩行運動を言うのだろうが、痛くない跛行の診断もまた難しい。

機能性のものか、機械的な跛行か・・・・

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続いて、2歳競走馬の腕節の骨折の関節鏡手術。

午後は1歳馬の飛節のOCDの関節鏡手術。

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イギリスから論文の修正・校正を求めるメールが届いた。

「休日なのに?」

そうか、秋分の日で休日なのは日本だけか。

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Photo こういう本は今読まないと価値がない。

というか、女子ワールドカップ前に読んでおけば、もっと深く観れたかもしれない。

それにしても、はっきりとヴィジョンをもって、「さあ世界一になろう!」とワールドカップ前に書いていることと、その内容には驚かされ感心させられる。

サッカーの戦術論としても斬新で面白い。

もちろん、女性チームをいかに引っ張っていくかも。

 


lidocaine リドカイン for POI  3

2011-09-22 | 急性腹症

Equine Internal Medicine 3rd.edのDisorders of the Gastrointestinal System

胃腸系の障害の章にある蠕動賦活剤についての記載のうち、「局所麻酔薬」について、

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蠕動促進剤としてのリドカインの静脈内投与はたいへん普及してきてあり、ほとんどの消化管障害後の術後イレウスに対して馬外科医がもっともよく用いる薬剤となっていると報告されている。

リドカインは、一次性求心性ニューロンを抑制することで蠕動促進効果をしめすのかもしれない。

それゆえに、蠕動の遠心性抑制に限定される。

その他の推測される機序としては、抗炎症特性や、NF-kβ発信による可能性や、粘膜修復の改善などがある。

リドカインの静脈内投与は鎮痛効果も示す。

しかし、臨床的に正常な馬を用いたある研究においては、それは体性であり、臓器の抗侵害受容性のものではないと思われた。

リドカインは体外実験において、近位十二指腸の切除された一部分の収縮活動を亢進させた。

最もよく採用されている投与量は、1.3mg/kg bolus投与、典型的には15分以上かけて、続いて0.05mg/kg/minで一定量点滴する。

この投与量は、臨床的に正常な馬で空腸のMMC期間やスパイク活性を変えず、MMCをリセットし、疝痛手術後の術後イレウスのさまざまな指標値に明らかな変化をもたらす。

もう一つの研究では、生理食塩水に比較して、リドカイン点滴の開始後30分以内に、明らかにより多くの術後イレウス馬の胃液逆流が止まった。

リドカインの点滴は可逆的な副作用を引き起こしうる。それは、攣縮、運動失調、痙攣発作である。

つまり、点滴速度は慎重なモニタリングを必要とする。

馬におけるリドカインの長期間の点滴は安全だと思われるが、GX代謝物の蓄積が報告されている。

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う~ん、書いてある内容はEquine Surgeryと同じようなのだが、内科の教科書の方が難しい。

こちらの記載の方が新しいので、最近報告された知見も含まれてはっきりと書かれている。

リドカインの静脈内投与は鎮痛効果も示す。

in vitroでは腸管の平滑筋を収縮させる。

しかし・・術後イレウスに特異的に改善効果を示す理由は、それだけでは説明がつかない。

術後イレウス自体がどうして起こるのかわかっていないのだから仕方がないか・・・・

腸管手術が終わっても、悪夢におびえながら眠るしかないようだ。

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今日は、3歳馬の去勢。

2歳馬の腕節の骨折の関節鏡手術。

1歳馬の大腿骨滑車のOCDの関節鏡手術。