馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

立位でのHalf Limb Cast

2021-09-28 | technique

立位でhalf limb cast を巻いたので紹介しておく。

いろいろなアレンジがあると思うが、参考まで。

この競走馬は浅屈腱炎になり、浅屈腱を休ませるためにキャストすることになった。

PRP療法をしたかったのだが、コアがない浅屈腱損傷なので、病巣内注入するのはあきらめた。

1ヶ月ほど巻いておく予定。

ストッキネット(筒状包帯)を肢に通したところ。

キャストトップと球節周りにはエバウールシート(外科用フェルト)を帯状に巻く。

綿包帯(オルテックス)を全体に巻く。あまり厚くしない。

キャスト材(キャストライト)を巻いていく。

サイズ5を3個、サイズ4を1個か2個使う。

ハーフリムキャストが割れるなら球節の上か下。その部分を厚くする。

途中で肢を持ちきれず、馬が蹄を着いてキャストにしわがよったら巻き直し。

手早く、「もーるでぃんぐ」しながら巻く。そのことで丈夫になり、肢に沿う。

ヒールブロック(2バイ2材を切った物)を蹄底踵部に付けて、キャスト材で押さえる。

摩耗する蹄尖部はEquiThane Super Fast (蹄用補修剤)で補強する。

床に垂れるととれないので、そのためにバスタオルを敷いている。

できあがり。

難しいことではないが、まともなハーフリムキャストが巻かれてくることの方が少ない。

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空をオレンジ一色に染めて、海に沈む夕陽も好いが、パステルカラーの夕焼けもなかなか。

 

 

 

 

 

 

 

 


授賞御礼 大動物獣医師の本分

2021-09-26 | 学問

もともと牛の手術で執刀することは多くなかったし、

最近は手術全体でも執刀することは大幅に減ったのだけれど、

たまたまその年は子牛の腸閉塞の開腹手術を執刀することが何度かあった。

1年間に4頭経験し、たまたまなのかもしれないけれど4頭とも助かった。

それぞれの経験はこのブログに書いて記録し紹介したこともある

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他の地域でも牛の腸閉塞の手術が行われているかと思ったがほとんど情報はない。

牛地帯の獣医さん数名に尋ねてみたが、あまりやってない、との回答ばかりだった。

(あとで、けっこうやります、助かります。という獣医さんにも出会った)

(九州には100頭ほどの症例成績が報告されているのも見つけた)

PubMedで検索したがやはり症例報告は数少ない

成書を調べようとしたが、牛の臨床の本はあまり蔵書してない。

それで借りたりして成書の牛の腸閉塞の記載を調べた。

しかし、開腹手術による予後は良好だとは書いてない

そもそも牛の腸閉塞の手術はたいへんだ、と言うようなことは書いてある。

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それなら1年間に4症例経験して、4症例とも治った、というのは症例報告しておく価値があるかもしれない、と考えた。

手遅れにせずに相談してもらうことを普及させる一助になるかもしれない。

他の地域でも積極的に腸管手術することを促進できるかもしれない。

で、書き始めた。

4症例でも書くのはたいへんな部分もある。

カルテを引っ張り出してコピーをとり、

抜け落ちている記録は担当の獣医さんに連絡をとって尋ね、

症例の写真や超音波画像を探してきてフォルダにまとめる。

成書の記載から現在の獣医学での認識を総括し、

考察につかえる文献の記載を整理しておく。

そして、書いて投稿するのだが、北海道獣医師会雑誌も校閲が入る。

受入れる部分は受け入れ、意に沿わない部分は反論する。

で、掲載された

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学会で口頭発表する獣医さんもけっして多くはない。

発表しているメンバーを見ても限られた獣医さんが、と言ってもいいかもしれない。

学術論文や症例報告として文章にする臨床獣医師はもっと少ない。

しかし、文章にしておかないと学会抄録しか公式記録に残らない。

やがて自分の記憶さえ薄れていく。

ましてや他の人にとっては過去、であり、検索しようとしても探し出せない。

症例報告を残せるのは臨床獣医師だけだ

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自分では優れた症例報告が書けたと思っているわけでもないし、

渾身の学術報告と思っているわけでもないのだけれど、

書く過程の中でずいぶん勉強にもなった。

そして、なんと、

令和2年度の北海道獣医師会雑誌の優秀論文賞をいただいた。

いや~こっぱずかしい;笑

謹んでお受けし、協同報告者の先生方、畜主をはじめ協力していただいた方々、校閲していただいた先生方に感謝したい。

そして、症例報告や研究論文を書こうという大動物臨床獣医師が増えてくれたら嬉しい。  

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その背中は緑にキラキラ輝いているし、

裃を着けたような姿はかっこよくもあるのだが、

秋に家屋へ侵入してくるのと、臭いので嫌われている。

日が短くなり、肌寒さを感じるようになった。

秋だ。

            

 

 

 

 

 

 

 


ポータブルX線撮影装置と大型X線撮影装置による骨盤骨折の画像診断

2021-09-25 | 整形外科

2ヶ月前に馬栓棒と扉の間に後肢をはさんで怪我した2歳馬。

跛行が良くならず、臀筋もすっかり萎縮してしまった、ということで診断に来た。

診ると、跛行も筋萎縮もひどい。

立位でX線撮影したら・・・

 

長いものが、股関節に重なっている。

・・・・腸骨だ。

腸骨体がボッキリ折れて、これほど変位してしまうことは珍しい。

予後は悪い。

(よく腸骨動脈が大丈夫だったものだ)

2歳馬だが、筋萎縮がひどいのでこれだけ描出できたのだろう。

患肢を少し持ち上げて、股を開いてやや斜め下から撮影している。

撮影装置は90kb、コニカミノルタAeroDR使用。

           ー

その数日前、1歳馬が後肢の跛行診断に来た。

収牧時に馬が集まっていて、下半身をひねって左後肢で跳び蹴りしたらしい。そして、右の臀部から落ちた。

「やっちまったな~」

3週間前の事故で、もう臀筋が少し萎縮している。

画像右が頭側、上が右側。

股関節臼が割れて開いている。

大腿骨頭も割れているかもしれない。

腸骨体が内転しているように見え、内側に剥がれたような骨片も見える。

予後は厳しい。

            ー

跛行の程度と経過、臀筋の萎縮の具合、などからはっきりした骨盤骨折だと疑わない症例の方が、良いX線画像を撮って骨折を判断したいこともある。

全身麻酔して仰臥にすると、1歳馬だとこれくらいの画像が撮れる。

           ー

こちらは数週前から後肢の跛行を示している当歳馬。

臀筋は萎縮していない。

跛行は良くなる傾向はない。

跛行は懸跛だ。右後を踏み込めない。前方短縮。

飛節の近位で神経ブロックしたが、跛行は変わらなかった。

全身麻酔して大型X線撮影した。

骨盤の問題による跛行ではないと推定していたとおり病変はない。

そして、後膝に病変が見つかった。

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薪割りも道具の使い分けがたいせつです;笑

 

 

 

 

 

 


盲腸重積?

2021-09-23 | 急性腹症

当歳馬が疝痛をしてもう4日目。とのことで来院。

しかし、食べてもいるし、排便もある。

下痢や発熱はない。

胃潰瘍?と考えるが、超音波検査したら、ひどく腫れ上がった大腸壁が見えた。

液が溜まった内腔側が平滑、つまり漿膜側で、反対側が厚さのある粘膜と粘膜下織のように見える。

盲腸重積、か?

もう4日になるので、結腸に盲腸が飲み込まれているなら引張っても抜けてこないだろう。

開腹したらやはり盲腸が出てこない。

大結腸を引き出して・・・その裏から盲腸が出てきた。

重積はしていなかった。

しかし、ひどくむくんでいる。

盲腸結腸重積だったのが抜けたのか?

あるいは珍しいが盲腸捻転だったのか・・・・

単に重くなって仰臥では背側へ落ちていただけか・・・

術後、大量の排便があった。

術前から不完全な閉塞だったが、それも解消されたのだろう。

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馬の獣医学のブログを紹介します!

https://may-the-horse-be-with-you.xyz/

楽しそうだし、「ライト」というが、どうしてなかなか重厚な内容だ。

日常的には馬を診ない獣医師が対象として頭にあるらしいが、馬獣医師にも役に立つだろう。

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とうちゃんに背を向けて寝て

マッサージしてもらう至福のとき

ワンコも飼主もオキシトシンレベルあがるらしい

 


立位か全麻か、それは問題じゃない

2021-09-21 | 整形外科

競馬場から2歳馬が骨折したとの連絡。

できるだけ早く手術してもらいたい、とのこと。

帰ってくるのを待って、1日か2日は輸送の疲れをとり、輸送熱を起こさないか様子を観なければならない。

それにこちらも手術の予定で連日午前も午後も埋まっている。

その合間に立位でやるか?

前肢の球節外側のscrew固定だ。立位でできなくはない。

しかし、キャストを外し、毛を刈り、消毒し、局所麻酔し、・・・・と立位でてこずりながらやるなら、全身麻酔してもそう時間はかわらない。

馬がうるさいと、結局全身麻酔しなければいけなくなるし、

馬が動いたり、鼻をブルブル鳴らしたりしたら、衛生的な手術はできない。

毎日手入れをしていた競馬場とは馬の体の汚れもちがう。

午後3時半から手術することにした。

第三中手骨外側顆の骨折。

「うちあげ」でも撮影して、掌側関節面にくさび型の骨片がないのも確認した。

顆condyleには、横から見た中心にscrewを入れる、で良いと思っている。

掌側・底側の皮質だけが割れることがあることからすると、背側へずれないほうが良いだろう。

この部位はaiming device が使える。

あまり大きな馬ではないので、54mmを入れたら短かった。

(まだscrewは完全には締めていない)

これでも有効なネジ山の牽引力は、screwの芯である3.2mmより強いとされているので、この長さでも構わない。

近位にもう1本screwを追加して、

遠位側のscrewは56mmに差換えた。

screwを締めて骨折線は見えなくなった。

1時間かからずに終わった。立位でやるより早かったかも。

麻酔覚醒起立のためにキャストしたが、1日か2日で外して構わない。

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娘の本棚に置いてあったので読んだ。

父親が4人いる男子高校生の日常と事件。

父親らは、ギャンブラー、元ホスト、体育教師、大学教授、の4名。

それぞれ得意分野を息子に教えている。

こどもは父親からたいせつなことを学びながら育つのではないか、というのがこの本の主題のように思う。

しかし、この特異な家族を創らせ、維持させている女性についてはさすがの伊坂幸太郎さんも書けなかったようだ。

私には・・・・・好ましい話だったが、軽すぎた。