馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

ホル妊娠牛330kgの尺骨骨折

2019-01-28 | 牛、ウシ、丑

ホルスタイン13ヶ月齢の初妊娠牛が右前肢負重困難となり、X線撮影したら尺骨の骨折が見つかった。

しかし、初回のX線画像ではまさに亀裂骨折で、温存して経過観察し、2回目のX線撮影を予定した。

1週間後、牛は蹄尖で負重するようになった。

しかし、2回目のX線撮影で骨折線は5mm~1cmほど開いていた。

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手術することにして連れて来てもらう。

肢を使えないわけではないが、けっこう痛い。

肘の外側の皮膚にはわずかな傷があった。

他の牛と一緒にいるそうで、追われたりはあるらしい。転んだのだろう、と飼い主さん。

牛の尺骨頭部の骨折はとても珍しい。

Bovine Orthopedics, An Issue of Veterinary Clinics of North America: Food Animal Practice, 1e (The Clinics: Veterinary Medicine)
David E. Anderson DVM MS DACVS
Elsevier

Bovine Orthopedics, The Clinics of North America にも、牛の尺骨頭骨折についての詳しい情報はなかった。

Farm Animal Surgery, 2e
Susan L. Fubini DVM,Norm Ducharme DVM
Saunders

Farm Animal Surgery には、牛の尺骨頭骨折についての記載があった。

とても薄い骨だと強調してある。

そして、500kgの尺骨頭横骨折をナローDCPで固定したらプレートが折れた症例が紹介されている・・・・

手術をやりなおし、なんと今度はナローDCPを2枚重ねで固定している。

牛は、馬とちがって尺骨は腕節まで続いていて体重を支えている。

ひょっとすると馬より厚いんじゃないか?ブロードDCPも使えるかも?などと考えながら準備したのだった。

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成牛を3時間近く仰臥にしておけるか?

妊娠牛にキシラジンを投与して大丈夫か?

麻酔管理上も課題はあった。

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もう発症から8日経っていて、骨折部の血腫は結合織に変わっていた。

骨折部を触っても骨折の形状を把握できない。

ナローDCP9孔を使いたかったのだが、あいにく在庫がない。

ブロードを尺骨に乗せるのは無理そうだった。

ナローDCPもうまく乗せられず、途中でやり直したくらいだ。

それでも、コンプレッションホールを利用して整復し、骨折線をまたぐスクリューも2本入れた。

プレートが折れないようにするために働いてくれるだろう。

遠位部のスクリューは橈骨に固定しなかった。

馬なら、もう橈骨へ固定しても問題がない月齢だと思うが、牛はどうかわからない。

プレートとスクリューはできれば抜きたくないので、成長に伴って橈骨と尺骨の成長がずれて肘関節にギャップができるのを懸念したのだ。

牛の尺骨も馬より厚かったりしない。

牛の尺骨はけっこう硬い。

が印象かな。

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麻酔は、妊娠末期でなければキシラジンも問題ない、ということでキシラジンも使った。

手術台に乗せても体動があったので、結局イソフルレンを吸入した。

第一胃が膨満してくるのを抑えるためにストマックチューブを入れておいた。

手術後、イソフルレンが抜けてからα2作動薬拮抗剤を投与し、しばらくしたら立って帰っていった。

歩き様は骨折後一番良いそうだ。

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1月末の日曜日。

午前中、3歳競走馬の種子骨底の骨折の関節鏡手術。

午後、1歳馬の後膝の細菌性関節炎の関節洗浄。

それから、牛の尺骨骨折で・・・

さらに、そのあと、1歳馬の回盲部重積の開腹手術だった。

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当歳9月から1歳馬秋までは、葉状条虫の駆虫をしっかりしましょう!

3ヶ月ほど駆虫間隔が空くなら、毎回プラジクワンテルが入っている駆虫薬を使うのが良いです。

当歳秋から数回は葉状条虫を駆虫してやらないと、回盲部重積、盲腸結腸重積などを起こします。

今シーズン、葉状条虫によると思われる重積症が多発しています。

雨が多かった去年の天候と関係しているのだろうと思います。

繁殖雌馬も同じです。

繁殖雌馬は分娩前後に葉状条虫が影響していると思われる盲腸破裂を起こします。

葉状条虫の駆虫が必要です。

               

 

 

 

 

 


第三中手骨遠位のSCL screw固定

2019-01-23 | 整形外科

当歳馬が球節の骨端症で、球節が内反し始め、蹄の処置はしていたけれど内反が進んだ。

跛行するようになり、X線撮影したら、ボーンシストができていた。

との稟告。

肢が内反内向しているせいで、内側関節面ばかりに体重がかかることと無関係ではあるまい。

関節鏡でほじくるにはあまりに病変が大きい。

針で目印をつけて・・・・

狙い定めて・・・・

ドリルで孔をあけて・・・・確認して・・・・

4.0mmキャンセラススクリューで固定。

シャフトスクリューなので、ねじ山とスクリューヘッドで引っ張り合う力が働いている。

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覚醒室で、蹄の内側を削り、外側にエクステンション(でっぱり)も付けた。

もう矯正はできないが、外側ばかりが磨り減ったのは微調整を続けたほうが良い。

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「ロドコッカス・エクイ感染症の制御に関する研究」の講演会があるよ。

1月24日18:00~20:00 静内エクリプスホテル 2F

北里大学教授 高井先生

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新装版 坂の上の雲 (1) (文春文庫)
司馬 遼太郎
文藝春秋

日露戦争を描いた全8巻。

司馬遼太郎の小説としては現代に最も近い時代を取り上げている。

その後の日本については「書く気がしない」と述べておられる。

                   -

第一巻は、四国松山に生まれた若者の青春譚としても読める。

家業を失った士家に生まれた明治維新後の若者達が何を頼りに、どう生きようとしたか。

秋山好古の生き方や考え方が突飛で面白い。

兄弟で同居していても、茶碗はひとつで善い。

ミニマリスト?ちがうでしょ。

 

 

 


3歳馬の骨盤骨折

2019-01-21 | 整形外科

2ヶ月前にひどい寛跛行になったという、明けて3歳馬。

パドックで発症したそうだ。

今は、左後肢の運歩の短縮程度。

しかし、一時は負重困難だったそうだ。

股関節周囲のひどい骨折にしては程度が軽い。

だが、経過からは骨盤骨折を疑わなければならない。

左の臀筋もわずかに萎縮しているように見える。わずかしか萎縮していない、とも言える。

尾側を撮影しすぎた、と思った。股関節の全体が写っていない。

しかし、坐骨体の骨折が描出されている。

今度は、左股関節をほぼ中央に写した。

やはり、坐骨体の骨折で、わずかに変位し、骨増勢と、尖った骨の端が写っている。

股関節は異常ないようだ。

ついでに腸骨翼も撮影しておく。

寛結節にも亀裂などは見えない。

しりもちをつくように転倒したのだろう。

坐骨体だけが折れているのは珍しい。

股関節が傷んでいないので、後遺症を残さないで治癒することが期待できるだろう。

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今、使っている出力の大型X線撮影装置はもう製造中止だそうだ。

今回の様な骨盤の撮影はいずれできなくなるかもしれない。

人医療ではCTが普及して大型X線撮影装置は使われなくなっているのだろう。

しかし、馬の体全体に使えるCTはない。

診断できなくなると・・・・困るな・・・・・・

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司馬遼太郎「坂の上の雲」全8巻を読み始めた。

日露戦争で活躍した秋山兄弟と、その同郷で交流があった正岡子規を描いている。

軍国主義、ナショナリズムを礼賛することにならないか、司馬遼太郎師自身も懸念していたらしい。

しかし、

「もし、日露戦争に負けていたら、北海道はロシア領になっていたかも知れず、

私たちの名前は・・スキーや、・・ノフであったかも知れず、

その点では、明治の日本人がよくやったと、褒めても良いのではない」

というようなことを後日、述べられている。

先日、サッカーアジアカップでウズベキスタン戦を観た。

ウズベキスタンの選手は、アジア系とスラブ(ロシア)系のハーフとも言える容貌で、

名前は〇〇ノフという選手がほとんど。

それが良いとか悪いとかではない。

が、歴史を学んで、知るべきだ。

 


iatrogenic 子宮穿孔

2019-01-18 | 繁殖学・産科学

今日は、午前中1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

そのあと、15歳繁殖雌馬の子宮穿孔。

この馬、「5月分娩予定だったが、先日流産した。

後産が残っていたので、オキシトシンを投与したら、後産は落ちたものの、疝痛を示して子宮脱していた。

なんとか押し込もうとしたが、怒責が強く、なんとか押し込んだものの、その後調子が悪い。」

ということで来院した。

超音波検査で腹水の増量、腸管の肥厚、を診断し、

腹水中の白血球数が6万超であることから腹膜炎と確認し、

経過から、子宮脱を押し込んだ際の子宮穿孔だろうということで開腹手術することにした。

                 -

子宮角に10cmの裂孔があった。

                 -

子宮脱も、子宮穿孔も、医原性 iatrogenic だ。

今まで、オキシトシンの点滴投与以外の投与方法について懸念を書いてきた(胎盤停滞について)。

(悪露停滞について)

今回のような症例があったことも、記録し、記憶しておきたい。

                 ー

子宮の穿孔創は縫合して閉じて

腹腔内は生理食塩液10リットルで洗浄した。

腹部には32Frのトロッカーカテーテルを留置した。

                 ー

術後、この繁殖雌馬は横臥していたり、伏臥したり。

出血と、腹膜炎によるショックなのだろう。

術後12時間頃には落ち着いてきて、寝なくなった。

翌朝、5時に腹部のドレイン解放。オレンジ色の腹水がジャーッと流れ出た。

それでも数リットルだろう。

6時半に生理食塩液2リットルを注入。

7時半近くに観てもまだ少しずつ流れ出ていたので、あと1時間してから抗生物質を入れた生理食塩液を入れることにした。

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日当たりが良いカシワは、大木になる。

何本か切らないで残すべきだね。

 

 

 


20歳の小腸閉塞

2019-01-18 | 急性腹症

朝、始業前、繁殖雌馬の疝痛の来院。

夜中から痛かったようで、顔を擦りむいている。

若そうには見えなかったので、歳を訊いたら20歳ということだ。

4月分娩予定。

だいじな馬なのだそうだ。

開けたら小腸が捻れるか、どこかへ入り込んでいた。

抜けてきたのだが、腫れ上がり、一部は変色していたので、4m切除して空腸どうしで吻合した。

高齢馬なので、吊起帯をつけて覚醒起立させた。

1時間以上寝て、伏臥姿勢になってからもゆっくり休んで、一度で立ち上がった。

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伐採作業が始まった。

向こうの山を丸裸にして、土砂置き場にするのだそうだ。

伐採すると言っても、斜面だからどうするのだろう、と思っていたら、

重機で道を付けて、1日2日でどんどん進んだ。

すごいもんだ。

タヌキやキジが出てくる山だったのだが、居なくなるだろう。

ウグイスやカッコーが鳴く山だったのだが、それもなくなるか・・・・・