馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

新生子牛の中手骨開放骨折 1日だけ大掃除 そして大晦日

2021-12-31 | 牛、ウシ、丑

年末、前日難産で生まれた黒毛子牛が中手骨を開放骨折している、との連絡。

あいにく疝痛馬が来るのを待っているタイミングだった。

ざっと様子を聞いて、応急処置をしてもらって、翌日午前中に診療することにする。

手術しても治せるかどうかわからない、それでもやってみるかどうか畜主に確認しておいてもらう。

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開放骨折は、その程度によってグレーディングされる。

Gastiloの分類として有名。

・ 汚染の程度がひどくなければプレート固定もできるだろう。

しかし、感染部に異物(インプラント;プレートとスクリュー)を入れることになり、インプランを除去するまで感染を抑え込みにくい。

感染がプレート沿いに波及し、スクリューがゆるみ、プレート固定が崩壊するとか、

骨折部の感染が制御できなかったり、成長板や関節へ感染が及ぶと予後が懸念される。

・ 開放骨折部から離れた部位に貫通ピンを入れて、創外固定することもできる。

ただ、これはこれで皮膚を貫いているピンが感染しやすい。固定に安定性がない。これらが欠点。

・ 創外固定としてではなく、骨折部より近位に貫通ピンを入れ、貫通ピンキャスト(TPC; Trancevers Pin Cast )を巻いて免重する方法もある。

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周囲の毛を刈り、傷の汚染を洗浄し、骨折を整復し、包帯とバンデージを巻いて、副木を当てて外固定されて子牛は運ばれてきた。

応急処置としては完璧。

もちろん抗菌薬の全身投与も始められている。

開放骨折としてはGastilo分類のⅡだろう。

1cmより大きい穿孔だが、汚染はひどくない。

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骨折は中手骨骨幹遠位の横骨折。

破片はあるが、粉砕というほど大きなピースはない。

切開して傷を広げ、傷の中を洗浄した。

開放骨折ではあるが、キャストで治る可能性大、と判断した。

ストッキネットを二重に履かせ、キャストトップと腕節にエバウールシートを巻き、

キャストライト4と3でフルリムキャストを巻いた。

皮膚の傷の部分には当て物をしながら巻いて、開窓キャストにしてある。

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翌日、子牛は自力で立ってミルクを飲んだそうだ。

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昼、繁殖雌馬の疝痛の依頼。

開腹したら回腸の閉塞だった。

絞められていた痕があったが、どうなっていたかはわからない。

疝痛の常習馬というわけではないので、癒着があったり、ヘルニア孔があったりする可能性は低い。

分娩まであと3.5ヶ月の馬で腹腔内の完全探査をするには開腹手術創を広げなければならない。

膨満している部分の小腸内容を盲腸へ送り込んで閉腹。

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午後に予定していた「あがり馬」の第一趾骨骨折を夕方から。

これは延期するわけにはいかない。

thankfully ; 恩賜 透視装置も使ってscrew固定とキャスト固定。

危ない状態だった。

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翌日は、前所長と現所長で大掃除。

日頃掃除しないところを掃除したい。

壁を塗りなおしたペンキ屋も見えないところは見事に放っておくんだな;笑

むこう、拭き掃除後、こちらこれから。

暖房ファンのフィルターも掃除しないと・・・・これを通った空気の下で診療しているんだから。

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私はこれにて仕事納め。

コロナ禍が続き、しかしワクチンで安心と希望が見え、

ウィズコロナで少しずつ活動が再開され、

日本は状況が落ち着いたかと思ったら、オミクロン株がたちまち世界に広がった今年。

良くも悪くも大晦日。

みなさん、良い歳をお迎えください。

 

 

 

 


年末の疝痛 癒着疝と引き抜けた回腸盲腸重積

2021-12-30 | 急性腹症

朝、疝痛の繁殖雌馬が来ると言う。

来院して、超音波で著変なし、血液検査で著変なし。

私が直腸検査すると、膀胱がひどく膨満している。

尿カテを入れてもらったら、膀胱が縮み腹腔をゆっくり触れるようになった。

すると右下奥で塊状に絡んだものに触れた。

触ると明らかに痛い。

その部分を超音波であらためて見ると、肥厚した小腸と肥厚した腸壁が見えた。

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術部を毛刈したら開腹手術の痕があった。

電話で牧場に確認してもらうと3-4年前に開腹手術を受けている、とのこと。

開腹したら癒着でできた索状物に小腸が絡んだことによる小腸閉塞だった。

索状物は腹腔内で鋏で切った。

幸い、小腸は血行障害で白っぽくなり、肥厚していたが、回復が期待できそうだった。

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昼は腐骨の摘出手術。

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後は、飛節OCDの関節鏡手術。

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続いて、繁殖雌馬のフレグモーネと関節炎。

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午前中の疝痛馬は退院していった。

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午後2時半から疝痛をしている当歳馬が5時に来院。

超音波で完全膨満した小腸が見えて、開腹。

盲腸から回腸へ至ろうとすると・・・回盲部がへこんでいた。

回盲部重積だ・・・・

いや、盲腸の中に長い塊を触る。

回腸盲腸接合部が入り込んでいるだけではなく、数十センチ以上回腸が盲腸へ入り込んだ回腸盲腸重積だ。

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ひっぱると少しずつ回腸が抜けて来た。

そして全部抜けた。

30cmほど入り込んでいたようだ。

それが抜けるのは珍しい。

抜けて来た回腸は浮腫性に肥厚し、腸間膜付着部は膠様浸潤があったり出血していたりするが、見ているうちに色調は良くなった。

指ではじくと収縮する。

これなら回復が期待できる。

もし切除するなら、回腸をすべて切除し、空腸を盲腸へつなぎ、腸間膜を縫合するおおがかりな手術になる。

切除せずに小腸を盲腸へ吻合するにしても、回腸が傷んでいるのでかなり上位を盲腸へ吻合しなければならず不安が残る。

リスクを考え合わせ、回腸を温存することにした。

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翌朝、子馬は排便もし、少しだが水も飲み、食欲もあり、退院していった。

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年末、開腹手術が続いている。

予定していた手術もやり残して仕事納め。

少しは大掃除もしないと・・・・

 

 

 


空腸上部の捻転は珍しい

2021-12-26 | 急性腹症

夕方、当歳馬の疝痛の依頼。

午後2時半から放牧地で転がっていて、フルニキシンを投与したが痛い。

しかし、それほど激しく痛いわけでもない。

超音波で小腸が膨満しているのが見えた、とのこと。

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来院したら立ってはいられる。

少し前掻きする程度。

PCV39%、乳酸値1.6mmol/l。

超音波で・・・完全膨満した小腸が見える。

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開腹して、盲腸から回腸を引っ張りだし、上位(吻側;orad )へと辿る。

空腸の中位に乾燥した流れにくそうな内容があり、その上位には液状の内容が増え、

さらに上位は引っ張り出せなくなった。

腹腔内には膨満した小腸のループがある。

そのループを引っ張り出して、回転させると、なんとなく解けて引っ張り出せなかった空腸も腹腔外へ出すことができた。

内容を推送して、盲腸へ送り込む。

空腸の最上位は点状出血し、腸間膜の付着部には膠様浸潤があり、全体にオレンジ色をしていたが、蠕動もあり、十分回復するだろう状態だった。

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空腸上位での纏絡は珍しい。

小腸捻転のほとんどは回腸か空腸下位で起こる。

空腸は、その名の通り、内容が溜まっていることは少ない。

いつも一生懸命動いて内容をどんどん送り、膨満しない状態を保とうとしているのだろう。

しかし、送りにくい物が入ってしまったり、

回虫が居たり、

異常に食べ過ぎたりすると、ループ状になり、絡んでしまうのだろう。

回腸や空腸下位に捻転が多い理由のほとんどは、盲腸への流れ込みは間欠的で、

回腸や空腸下位は膨満することが多いから、ではないだろうか。

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葉状条虫は、回盲部を狭窄させ回腸から盲腸への流れ込みを阻害する。

葉状条虫は小腸捻転の要因にもなるのかもしれない。

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朝、入院馬は状態良好。

飲水し、排便し、食欲があり、心拍は速くなく、蠕動もある。

血液検査して、数値も良好。

投薬して、午前中にでも帰ってもらう予定にする。

相棒といつもより遅い散歩。

 

 

    


上顎切歯骨骨折

2021-12-25 | 整形外科

馬は切歯を何かにひっかけて折ってしまうことがある。

ひどければ切歯にワイヤーを巻いて固定するが、抜いてしまってよい場合はとってしまう。

馬の切歯は切歯骨の歯槽にしっかり埋まっているので、病名としては「切歯骨骨折」ということになる。

2歳馬が上顎の切歯をめくってしまった、との連絡が入っていた。

1歳のときに片目を失明していて、競走馬にはならず、繁殖供用する予定の馬。

切歯は中央から2歳、3歳、4歳と生えかわるので、簡単に固定できないなら抜いてしまえば良いかな、と考えていた。

来てみたら・・・

ひどいんでしょ。

割れたところからとってしまうと、かなりの部分がなくなってしまう。

鎮静剤をうって、

眼窩下孔でブロックして、

傷を洗浄して、

なんとか折れた切歯を元の歯槽にはめるように整復して、

プラスチックの結束帯でギュッと巻いて、さらにワイヤーで締めた。

もともと左側2番目と3番目の乳切歯は抜けていたようだ。

このあと歯肉を縫合した。

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口にくわえさせているのは塩ビ管のマウスピース。

中に伸縮性包帯を通して、耳の後ろで縛ってとめてある。

気管挿管するときに使うものだが、こういう使い方をすると切歯を処置するのに便利。

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鼻ねじりはわざと上から鼻先を通し、上唇を上へ引っ張っている。

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今年も風が吹いた秋の日もあったのだけど、

今年はカシワの葉が残っている部分もある。

このカシワたちを見ると高い梢の葉は落ちて、低くて風が当たらない部分が残っているのがわかる。

この辺りのカシワが葉を落としてしまうのは、丘の上で風が強いからなんだろう。

 

 

 

 


手術室の色

2021-12-23 | 日常

18年前に、今の診療棟を建築したときに、手術室の壁と床の色はクリーム色か、わずかに青みがかったグレーホワイトか、どちらかを選ばなければならなかった。

私は、白を選んだ。

明るくて、清潔感があり、それなりに良かった。

床は傷つき、コンクリートの割れ目に沿って剥がれてきて、汚れも落ちなくなったので塗装しなおしてもらった。

今度は、塗装剤は、グレー、クリーム色、レッド、明るいグリーン、濃いグリーンから選べた。

当然、明るいグリーンを選んだ。

以前に比べると暗さを感じるが、以前が明るすぎたのだ。

  

診療室と同じ色になってしまったが、統一感があると言えなくもない。

馬は立って歩かないのでクッション性は必要ない。

硬いので傷つきにくい。

つるつるだと滑るのでザラザラをつけてある。

今のところ水をはじき、汚れも付着し難い。古くなるとどうかわからない。

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手術室で患者さんを覆う布や、術者が着るガウン、そして手術室の床や壁は薄いブルーかグリーンが良いとされている。

術者は血だらけの赤い術野を見続けなければならないが、そこから目を移したときに、赤の補色である青やグリーンの影が見えてしまう。

目の残像現象なのだ。

それを見えないようにするには、手術室の広い面積は青やグリーンであることが望ましい、のだそうだ。

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これから朝の散歩いきます

あちこちで3回ゴロスリしました

雪の白、さいこ~