馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

内固定手術での右利き、左利き

2022-01-30 | 整形外科

某教授と一緒に牛の骨折内固定研修に来た大学院生のK君は左利きだった。

左利きの人は、術創へ向く位置が右利きの人とは反対側だったりするので、二人でアプローチするには便利だったりする。

術者も助手も右利きだと、ふたりとも肢の左側に立って右手を使おうとする。

すると例えば変位の整復を維持している助手の体や頭が邪魔になって術者は右手でドリリングしにくかったりするのだ。

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関節鏡手術でも、右利きだと利き手では処置できない部位がある。

そういう症例では左利きの関節鏡手術者が居ると有利かもしれない。

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ただ、K君の操作を観ているとどうも右利きの私には違和感があった。

screwをねじ込むのも、固くなるとたいへんそうに感じた。

そうか、左利きの術者も、右回しのscrew driver を使わなければならないんだ。

左手でscrewを締めようとすると、回内で力をいれることになる

その作業は、右手での操作の左右反転にはならない。

まあ、練習してもらうしかない。

練習すれば、回内でも回外と同じように力を発揮できるようになるかもしれないし、

利き手ではない右手を、利き手の左手と同じように使えるなるかもしれない。

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右利きのわれわれも、締まったscrewを回内で左へ回す最初の一回しが回せないことがある。

右手の回内をパワーアップするか、

左手での回外を練習しておくと良いのかもしれない。

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K君は、字を書くのは右手だし、外科鋏も右手で使っていた。

左利きの人は、日常生活で両手を使うトレーニングをしているわけだ。

整形外科の操作も慣れれば不自由なくできるようになり、少数派の利点を生かすようになるだろう。

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もう散歩も無理なようだ。

食欲も不定。

笑うこともなくなった。

望むことをしてやって、苦しまないことだけを願っている。

 

 


黄金旅程

2022-01-29 | 図書室

私の父は競馬には興味がないのだが、図書館で借りてきて読んだらしい。

私も、家庭内又貸しで読んでみた。

相棒のそばに居る時間にちょうど良かった。

主人公は生産地で働く装蹄師。

その同級生で、かつてのJRAの花形騎手だった男。

そして、架空の設定だとされながら、明らかにモデルが居て想像してしまうほかの登場人物。

生産牧場とか、育成施設とかもかなりリアル。

馳星周さんは浦河出身で、近年の夏は浦河で過ごしているらしい。

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本の帯を見て、

陳腐?

と読み始める前には思ったが、そこはさすがの筆力、設定、リアリティー。

しかも、馳星周ものの片鱗も見えて、ただの競馬サクセスストーリーではない。

美しい?女性獣医さんも登場するぞ;笑

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楽しんで読めました。

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具合が悪くても車に乗りたい、乗っていたい。

置いていかれる心配がないから?

とうちゃんと一番一緒にいられた場所だから?

 

 

           

 

 


大学の先生の骨折内固定研修

2022-01-27 | 整形外科

この二日間、某大学の教授と大学院生が牛の骨折のプレート固定の研修に来ておられた。

器材はJonson&Jonson社Synthes Vetに貸していただいた。

うちの整形外科症例と重なってしまうと困るから。

到着日に講義とプラスチックボーンでの実習。lag screw とDCPによるコンプレッション。

2日目午前中は、講義のあと、子牛の脛骨、橈骨のDCP固定。

午後は、講義のあと、子牛の上腕骨、大腿骨のDCP固定。

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3日目午前中は、講義のあと、5ヶ月の牛の脛骨骨折のLCP固定。

午後は5ヶ月の牛の橈骨のLCPとDCPによるdouble plates 固定。

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「今まで何頭も、プレート固定の技術があれば、と思う症例を経験してきました」とおっしゃっていた。

大学での獣医学教育では、小動物外科の中で整形外科が教えられているのだと思う。

私が学生だったころにはプレート固定までは習わなかったけど。

馬は、二次診療が確立されていて、われわれのように二次診療にたずさわる者は一生懸命に整形外科も勉強する。

しかし、牛の臨床としてはプレート固定までは習わない。教えない。

おかしなもので、大学で習わないで卒業すると、やらなくてよいこと、知らなくてもよいことと思われがちだ。

私たちの世代は、遺伝子を扱う技術やPCRに今もなじみにくいし、ヴァーチャルリアリティなどと言われると嫌悪感さえ感じがちだ。

だから、これからはぜひ大学の獣医学教育の中で、牛の外科の一部として整形外科も教えていただきたいと思っている。

そのことによって牛臨床の現場の認識も変わっていくだろうと思う。

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調子良かったのだが、夕方エサを食べなくなった。

口粘膜の色はあの手術した日より白くなった。

今度は肝臓あたりから出血したか?

こどもたちも心配して急遽帰ってきた。

なんとか持ち直して、本調子ではないが、食べて飲んで出してできている。

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犬を飼うと、犬はこどもたちの遊び相手になり、友だちになり、相談相手になり、

いつか子どもたちの歳を追い越し、老いることを教え、そして家族を喪うこと、死ぬことも教えてくれる。


かつて橈骨をボッキリ折った馬がJRAで勝った

2022-01-23 | 整形外科

馬は骨を折ったら治らない。

は、今でも真実だ。

おとな馬が、肢をボッキリ折ったらほとんどの場合治せない。主な理由は・・

・体重が重い馬の骨は頑丈で、それが折れるときには強大なエネルギーによって破壊されており、ポキンと折れるのではなく、爆発するがごとくに折れていて、たいていは粉砕している。

・骨折したあとの応急処置までに、体重があるが故に無理をして開放骨折になっていることが多い。また、有効な応急処置も非常に困難。

・体重が重い馬が3本肢で生きていくのはなかなか厳しく、蹄葉炎を起こしやすい。寝ている時間が長いと褥瘡になりやすい。

・手術をするにも強大な力が必要で、骨が折れて騎乗変位をした部位を整復しようにも、その肢だけで馬を吊り下げても騎乗変位を整復できないこともしばしばある。馬の肢は1t以上の荷重を支えられる。それが壊れてずれたとき、人の指や手や腕で整復できない。

・治っても、もとの競走能力や繁殖供用に戻れないと経済的に意味がない。治療費は高くなりがちで、可能性が低いと治療を望まれない。

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300kg未満の当歳馬だと、上記の理由は乏しいので、まだ可能性はある。

4年前に橈骨をボッキリ折ってしまった馬が、競走馬になり、先日JRAで勝鞍をあげたそうだ。

嬉しい。

喜ばしい。

あの日、あきらめなかった関係者のみなさん、

その後、あきらめなかった関係者のみなさん、

その馬に多くの手をかけて下さった関係者のみなさん、

おめでとうございます!!

 

 

 

 

 


3ヶ月黒毛の空腸閉塞

2022-01-22 | 牛、ウシ、丑

午前中、飛節OCDの関節鏡手術。

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3ヶ月の黒毛子牛がきのうから乳飲みが悪く、元気がなく、第四胃が膨満している、とのことで来院。

超音波検査で、第四胃の膨満が確認され、小腸も張っているところがあった。

血液検査は、PCV53%、乳酸値1.9mmol/lとひどく悪い。

北米大動物外科専門医のY先生は、左横臥での肋骨後縁切開を選択。

第四胃は膨満しているが、幽門以降も張っている。

空腸に何か詰まっているのが見つかった。

もみほぐそうとしたがほぐれなかった。

切開して取り出した植物繊維塊。

よく噛まないで飲み込んだせいか??

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続いて、予定していた2歳馬の喉頭片麻痺の喉頭形成・声帯切除手術。

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相棒は元気。

食欲もあり、走るし、いろいろあちこちに興味津々。

シカを追いかけて崖を上らなかったのは、学習したのか、歳のせいか、病のせいか・・・・