馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

4ヶ月弱子馬の回虫による空腸回腸盲腸重積

2022-05-31 | 急性腹症

たまたま早めに職場に出ていたら、子馬の疝痛の依頼。

イベルメクチンで駆虫したら5分ほどで疝痛が始まった、とのこと。

来院したら、痛くて立っていられない。

血液はひどい所見ではないが・・・・

超音波で診たら、重積像が見えた。

これは手術だ。

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空腸が回腸に入り込んでいる。

そして、回腸を通り越して盲腸へも入り込んでいる。

小腸どうしの重積だと引き抜けなければ、丸ごと切除できなくはない。

しかし、盲腸へ入り込んだ小腸が抜けないとたいへんやっかいだ。

なんとか引抜こうとしていたら、重積部から回虫があふれ出した。

回腸が裂けたのだ。

吸引器とチューブを出してもらって、掃除機のように回虫をそこらから吸い取る。

抗生物質入り生理食塩液もかけてもらいながら、その辺りを吸引する。

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腸間膜の血管を止血して、腸間膜を切断する。

空腸壊死部を切開して内容を捨てる。

回腸を切断して盲端にする。

空腸壊死部を切断して、腱常部を盲腸へ端側吻合する。

腸間膜を縫って閉じる。

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投与して5分のイベルメクチンと疝痛が関係あったかどうかわからない。

あふれ出した回虫はウネウネと生きていた。

死んだり、動けなくなった回虫が詰まったわけではない。

真面目な牧場さんで、これまでも駆虫していたそうだ。

ただ、イベルメクチンばかり。

出てきた回虫は小さかったので、前回のイベルメクチンはひょっとすると効いたのかもしれない。

しかし、もう回虫の駆虫でイベルメクチンをあてにしないほうが良い

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切除吻合している最中に、空腸の別な部分が重積を起こしているのを見つけた。

すぐに引き抜くことができた。

回虫が多数居ると蠕動がおかしくなって重積を起こしやすいのだろう。

虫の居所が悪い

腹の虫が治まらない

虫の知らせ

虫の好い話

衛生環境が悪かった昔は、寄生虫が具合の悪さにつながる経験がありふれていたので、言葉として残っているのだろう。

人でも腸捻転や腸重積が今より多かったのだろう。

現在では聞かないでしょう?

アニサキス症腸重積を起こすことがあるくらいかな。

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子馬が麻酔から醒めて、落ち着いたのでフルモキサールで駆虫した。

翌日、もう一度フルモキサールを投与してもらう。

そして、60日齢を超えている他の子馬も駆虫した方がいい。

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満開になったハナカイドウ。

このあと雨と風でかなり散ってしまった。

花の命は短くて・・・・

 

           

 

 

 

 


重種馬の歯科治療

2022-05-29 | 歯科・口腔外科

道東から歯の治療に来た重輓馬の繁殖雌馬。

でっかいのでわかりにくいのだけど、よく見ると痩せている。

斜歯があり、311と411が伸びすぎていて、臼歯の根部には隙間がある。

電動歯科器具で斜歯を削り、311と411も削り、臼歯根部の隙間は別な歯科器具で削り広げた。

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途中で開口器のボルトが折れてしまった。

怪力!

予備の開口器は皮のベルトが届かなかった。

細くて丈夫な紐で代用した。

しかし、どちらの開口器も、切歯のカーブに合っていなかった。

重種馬用の開口器を使うのが正しいのだろう。

手を入れているときに外れたら・・・・指がなくなる。

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以前、こちらへ来て歯の治療をした2頭はすっかり良くなったそうだ。

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重種馬用の開口器を持っているところはどこなんだろう・・・・?

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ルーサン

アルファルファ。

ムラサキウマゴヤシ。紫馬肥やし。

酸性土壌を嫌うからだろう。

飼料から種はこぼれるのだろうけど、ほとんど生えているのを見ない。

 

 


回虫の有効な駆虫を

2022-05-26 | 急性腹症

午前中、関節鏡手術の予定だったが、子馬の疝痛が来院するので延期。

子馬は、回虫による閉塞だった。

1月末生まれで、何度かイベルメクチンで駆虫していた、とのこと。

このブログでも何度も書いているが、もうイベルメクチンは回虫には効かないと考えたほうが良い。

獣医さんは牧場へ行ったら、

子馬を駆虫してるかい?

いつ駆虫しました?

駆虫薬は何を使いました?

と話をしてあげるべきだ。

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前夜、疝痛で来院した繁殖雌馬が胃内視鏡検査のために再来院。

見える部分に胃潰瘍はなかった。

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3歳競走馬、腸骨の疲労骨折歴があり、調教を再開しているが経過が思わしくないので検査に来院。

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2歳馬の繋靭帯炎。

繋靭帯が種子骨に付着している部分のトリミング。

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2歳馬の第一指骨の近位背内側の骨片骨折の関節鏡手術。

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今日言いたいことは、

回虫の、有効な駆虫をしましょう!

ということ。

獣医さんは話をし、相談に乗り、指導してあげてください。

それがわれわれが居る(要る)理由だから。

 

 


1ヶ月齢子馬の顔面陥没骨折

2022-05-23 | 整形外科

子馬が、蹴られるか、牧柵に激突するかして右眼窩とその下を陥没骨折した、との相談。

X線画像も送ってもらったが、画像診断しにくい部位だ。

眼窩縁も割れているようだ。右目は飛び出して見える、とのこと。

内固定できるかどうかはわからないが、とにかく陥没を持ち上げないとそのまま固まってしまう。

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忙しい日で、その前に予定していた2頭は延期してもらった。

この顔面骨折の手術は緊急ではないが、そうそう先延ばしもできない。

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眼の下を水平に切皮、目頭側の陥没の端で曲がって、鼻梁から降りるように進めた。

手術台の高さは中途半端で立って手術すると腰が痛く、

膝をつくと、膝が痛い。

下瞼そのものは切りたくない。

皮下も眼窩周囲は筋肉が発達していて、骨にアプローチしづらかった。

眼窩下の骨はひどく陥没していたが、なんとかかなり持ち上げることができた。

スクリューが効く大きさと厚さがあるピースもいくつかあった。

細い器具で持ち上げようとすると骨が割れてしまうので、薬さじリトラクターで骨を持ち上げておいて、ドリリング。

2cmほどは骨を持ち上げただろう。

狭くなっていた鼻道と副鼻腔も少しは元に戻ったはずだ。

鼻涙管は最初にチューブを通そうとしてみたが、ダメだった。

崩れてしまっているのだろう。

再建する技術は私たちには、まだ、ない。

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庭のハナカイドウが咲き始めた。

昼から、雷と雨。


牛の気腫胎の帝王切開

2022-05-20 | 牛、ウシ、丑

牛が気腫胎のようで、帝王切開してほしい、との依頼。

開業の先生からだが、自身は診ていない。農家からの稟告。

間違いないのだろうということで来院。

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産道に手を入れたら頭も肢も腫れあがってとても産道からは出ない。

母牛はF1で、黒毛和腫より二周り大きい。

気腫胎は、すでにガス産生菌で腐敗変性しているので、羊水を腹腔へこぼしたくない。

母牛もすでに菌血症になっていることもある。

子宮内膜も感染と炎症でダメになっていることも多い。

しかし、胎子を出してしまわないことにはどうにもならない。

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管つきの針を子宮に刺して、腐った羊水を抜けるだけ抜いてから子宮を切開した。

うまく引っ張り出せた。

腹腔内も汚さずに済んだ。

母牛は、もう繁殖牛を引退して、肥育して出荷したいそうだ。

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分娩予定2週間前だったそうだ。

何かの原因で胎子が死に、ガス産生菌で腐敗したのだろう。

牛ではたまにあるのだけど・・・・・

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ユキヤナギ。

成長はこんなものなのか?