馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

ホルスタイン300kgの橈骨近位骨幹斜骨折のdouble DCP 固定

2018-05-30 | 牛、ウシ、丑

その育成牛は11ヶ月齢。

ロープで繋いでいたら暴れたらしく、右前肢を負重できなくなった。

X線撮影で橈骨骨折が判明して相談された。

手術する気があるなら、副木を当てて運ぶよう指示した。

「考えさせてくれとか、明日とか言うならやめておいた方が良い。開放骨折になるし、整復できなくなる可能性大。」

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牛はもう立てなかったのだそうだ。

コンパネに乗せられて、キシラジンを投与されてトラクターで運ばれてきた。

そのまま倒馬室へ引きずり込んだ。

気管挿管して、手術台で仰臥にして、プロポフォールとキシラジンの点滴で麻酔維持。

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橈側手根伸筋上を橈骨の全長にわたって切皮した。

橈側手根伸筋の外側をできるだけ鈍性に剥がして、橈骨に到る。

整復はなかなかたいへんだったが、なんとかなった。

橈骨の頭側へ橈骨の全長に近いブロードDCPを当てる。

しかし、近位と遠位にある成長板をまたぐ内固定はしたくない。

できれば、プレートは抜かないで済ませたい。

11穴DCPを使うことにした。

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頭側から観て骨折線が斜めに見える斜骨折なので、頭側のDCPを通すプレートスクリューは骨折線を圧迫するラグスクリューにはできない。

橈側手根伸筋を外側にずらせて、今度は内側に10穴のブロードDCPを当てることにする。

DCPは骨にできるだけ完璧に沿わせることが大切。contour.

double plate fixation には特有の注意が必要だ。

2枚のプレートへのスクリューが互い違いになるような位置に2枚を置かなければならない。

2枚のプレートはお互いに90°の関係になるように置く。

2枚のプレートの端が同じ位置で始まったり終わったりしないようにしたい。

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と言っても、プレートは湾曲させているのだし、先のプレートへのスクリューの間を通すようにドリリングするのは難しい。

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で、こういうことになった。

斜骨折を圧迫するラグスクリューを、内側のDCPのプレートスクリューとして少なくとも2本しっかり決めたかった。

骨折部近くで、スクリューを入れられない穴が4つもできてしまった。

2枚とももう少し近位でも良かった。

近位骨幹部骨折なので、近位部に1本でも多くしっかり効いたスクリューを入れたい。

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日曜日の夜8時に手術終了。

それから結腸捻転の手術をすることになったのだった。

立てないまま運び込まれたこの牛は、歩いて帰っていった。

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爽やかな季節を楽しむには・・・忙しすぎる。

 


疝痛の季節到来

2018-05-29 | 急性腹症

日曜、夕方からホルスタイン育成牛の橈骨骨折。

もう300kgほどあるので、ブロード(厚くて幅が太い)DCP2枚で内固定。

立てないままトラクターで運ばれてきたが、歩いて帰って行った。

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そのあと、繁殖雌馬の疝痛の依頼。

16歳なのだが、ビュンビュン後へ蹴る。

それで、体重測れず、16歳だが吊起帯も危ないので使わず。

結腸の膨満はひどかった。

全部を一度には体外へ出せず、切開して内容を少しずつ抜いてからあらためて引張り出すしかない。

内容はみごとな深緑。

食べすぎには注意していたらしいが・・・・・

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4時間ほど寝て、入院馬の治療した。

昨夜の馬は飼い主さんも体温計は入れられない。

午前中は飛節OCDの関節鏡手術。左右。

その最中、繁殖雌馬の疝痛の依頼。

やっぱり結腸捻転。

結腸の膨満がひどくて、一度には体外へ引っ張り出せない。

少しずつ内容を揉み出して、結腸を空にしてからあらためて結腸を引っ張り出すしかない。

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午後は、1頭予定の手術を延期してもらった。

当歳馬の肢軸異常のスクリュー抜き。立位で。

当歳馬の肘の細菌性関節炎の再発。

1歳馬の疝痛の依頼。

この1週間疝痛が続いていて、今日はとくに痛い。とのこと。

予想どおり回盲部(小腸が盲腸へつながっているところ)の重積だった。

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お産の季節は終わって、疝痛の季節がやってきたようだ。

セール前の検査で異常が発見された1歳馬の手術の季節でもある。

私たちの季節感は、残念ながら花鳥風月ではない;笑

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ダブルプレート手術で20本ほど整形外科スクリューをうった前日、

薪棚の作成でコーススレッド(木ネジ)を120本ほどうった。

左手でも。

仮固定しておいて、ラグスクリュー(圧迫スクリュー)をうつ。

良い整形外科修行になる;笑

 

                   


子牛の脛骨遠位粉砕骨折のプレート step remove

2018-05-26 | 牛、ウシ、丑

脛骨遠位を粉砕骨折した黒毛和種子牛

LCPとDCPでダブルプレート固定した。

術後1週間だけキャスト固定し、その後はキャストなし。

手術から1ヶ月。

子牛は本当に骨癒合が良好だ。

プレートが2枚入っていると、骨癒合を評価しにくい。

しかし、すくなくとも1枚は抜いても大丈夫そうだ。

成長板をまたぐ内固定をしているので、あまり長く内固定していると悪影響がある。

連れて来てもらった子牛のようすは悪くない。

気管挿管して、キシラジンとプロポフォールで維持した。

気管挿管するならどうして吸入麻酔しないのか?という疑問・質問があるようだが、

陽圧換気する吸入麻酔は肺胞の血管を押しつぶすので、必ずしも最良の麻酔ではない。

吸入麻酔やモニターの機器がない診療所や地域でも行える安全で良好な牛の麻酔を使いたいのだ。

minimally invasive technique でDCPを抜いた。

LCPの最遠位に入っていたLHSも抜いた。

遠位から2本目の6.5mmキャンセラスが成長板の成長を阻害しているかどうかは微妙。

残るLCPも抜いても大丈夫かもしれないが、大事をとった。

3週間後に、LCPは抜くことにした。

吸入麻酔を使うなら、高い吸入麻酔薬、高い吸入麻酔機器、モニター機器、それに付きっ切りになる麻酔担当者の人件費に見合う吸入麻酔代を負担してもらわなければならない。

吸入麻酔を使う手術をつい躊躇するようになるだろう。

しかし、ダブルプレートで内固定手術したら、step remove 段階的抜去、が基本なのだ。

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この季節、おらもあおくさたべます

 

 


満員御礼 過食の季節

2018-05-24 | 急性腹症

午前中、予定の診療。

その間に、当歳馬の疝痛が来院。

親のカイバをよく食べる当歳馬なのだそうだ。2ヶ月齢弱。

超音波で小腸の膨満像が見えた。

しかし、痛みが治まったように見えたので、入院厩舎で観察することにした。

昼前、やはり痛くなったので、開腹手術した。

回腸に食べたものが詰まっていた。

食べ過ぎたのだ。

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私は今週午後は検査業務。

夕方、繁殖雌馬の疝痛の依頼。

強い疝痛、腹部膨満。

来院したらトラック内で起立困難。

なんとか立たせて倒馬室へ入れる。

PCV49%。

結腸捻転だろう、と思って開腹手術したら、小腸下部がひどく膨満しチアノーゼ。

回腸を探るが腸間膜を軸に巻きついたようになっている。

術創を大きくして、膨満した小腸を引き出し、空腸下部を切開して内容を捨てる。

ドロドロの青草のペーストが20リットル以上。濃い緑色。

この季節の青草を飽食して、膨満した小腸が動けなくなって大きなループで軸捻したのだ。

内容を空にして、腹腔内へ戻していた小腸は色調が回復した。

ダメかと思ったが、切除せずに済んだ。

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雨が降って寒かった5月も、末になって急に晴れて気温が上がった。

青草は急激に伸びている。

今晩は、また疝痛が来るだろう・・・・と思っていたら、やっぱり。

片づけが終わらないうちに、繁殖雌馬の疝痛の依頼。

子馬の調子が悪くて放牧していなかったが、2日前から放牧を再開した、とのこと。

疝痛はひどくないが、超音波で結腸動脈が見えた。

浮腫はわからないが、血管そのものが怒張して見える。

開腹したら結腸捻転だった。

肥厚も、チアノーゼもない。しかし、捻じれかたは360°+180°。

それで体表から結腸動脈が見えたのだ。

盲腸と位置が代わるように捻転し、おまけに盲腸へつながっている小腸が結腸に巻きついたようになっていた。

膨満していなかったのが幸いだった。

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気性の悪い馬で、ゆっくりヨイショッとではなく、飛び起きようとして転倒する。

立ち上がったら、ソッパ(後引き)して後肢に体重をかけるので、また崩れ落ちる。

人が後に近づくと両後肢で蹴ろうとした。

なんとか落ち着いて入院厩舎へ入ったのが夜中12時半。

これで、全部の入院馬房がうまった。

「満員御礼。もう入れません;笑」

それも重症畜ばかりだ。

翌朝の回診は、2時間半かけても終わらなかった・・・・・・

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疝痛注意報発令です。

食べ過ぎに注意しましょう。

青草摂取量を調節するのが難しいことはわかりますが・・・

当歳馬は、馬回虫の駆虫が必要です。

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球節屈腱腱鞘鏡手術。

外傷性の屈腱腱鞘炎で癒着した腱鞘内をデブリドして、癒着を剥がす。

続いて、当歳馬の細菌性関節炎と骨髄炎。最初から手遅れになっていて、もう起立困難。

あきらめるしかない。

子馬の跛行で一番疑うべきは細菌感染。

午後、当歳馬の出血性肺炎。

そのあと2歳馬の球節の捻挫による側副靭帯付着部の捻除骨片の関節鏡による摘出。

さらに、当歳馬の肘の細菌性関節炎。関節洗浄。

そして、当歳馬の副鼻腔内腫瘍。ホルマリン注入療法。

 

 

 

                  


子馬の臍のトラブル

2018-05-20 | 新生児学・小児科

子馬には臍のトラブルが多い

胎仔は臍から酸素や栄養をもらって発育してきたのだが、生まれてからは感染の入り口になったりする。

臍の閉まり方が悪いと腸管が膨らみ出る臍ヘルニアになる。

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前夜、生まれた子馬が臍ヘルニアだとのことで来院。

一般状態は悪くないが、かなりの量の腸管が臍の中に出ていて、調子が悪くなる、とのこと。

来院したら、子馬は赤い舌を口から出していた。

なかなか立とうとしなかったり、起きたら寝なかったりする、とのこと。

新生仔脳症の症状だ。重くはない。

臍は、腫れてはいるが内部に腸管は入っていなかった。

しかし、ヘルニア輪があり、ヘルニアになっていたことは間違いないようなので、そのまま手術することにした。

切り取ったのがこれ。

そして、膀胱は臍から切り離すことになる。

膀胱の先は臍につながっていて閉じていないので、膀胱も縫合して閉じなければいけない。

臍動脈(左の2本)、臍静脈(右の1本)、そして、臍動脈の間が膀胱だ。

臍動脈も臍静脈も結紮して閉じておいた方が良い。

まだ出血することがあるからだ。

あとは、臍ヘルニアとして、腹壁を縫合して閉じる。

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次の朝、1.5ヶ月齢の子馬を臍膿瘍だと思って切開したが膿瘍ではなかったので、そのまま手術して欲しいとの電話。

全身麻酔して、腫れて、根元にゴムがかけられていて、切開が加えられている臍帯を切り取った。

臍ヘルニアにはなっていない。

もう臍動脈も臍静脈も膀胱も閉じて、痕跡が残っているだけ。

それでも管腔構造は残っている。

そこにわずかな細菌が残っていて、徐々に肉芽増勢して腫れたのだろう。

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子馬の臍のトラブルを判断するとき、

日齢と、

臍輪が閉じているかどうか、

が分かれ目になる。

日齢が早いと臍動脈、臍静脈、膀胱が閉じていないで臍につながっている。

そして臍輪が閉じていないと、臍を切ると腹腔になっている。

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おらにもへそはあります