馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

ウマ科学会学術集会 シンポジウム

2007-11-30 | 学会

Photo_3 真のウマ立国。生産技術を考える。をテーマにしたシンポジウム。

東京で行われる馬のシンポジウムで、「生産」がテーマに取り上げられ、生産地の人以外がそれを聴いてくれたことは意味があっただろう。

私が担当した「獣医師の役割」の話についても、

「生産地の診療はこんなにいろいろなんですね」とか

「獣医さんっていろいろやってるんですね」とか、声をかけていただいた。

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 日本ウマ科学会の会則第二条「目的」は、

この学会は、馬の改良増殖その他畜産の振興並びに馬事文化の伝承に資するため、馬に関する研究の推進と、それらの成果を社会に還元することを目的とする。

 となっている。

う~ん・・・・・・・これなら生産は中心であるべきだな。

臨床獣医学も「馬に関する研究」に含まれるだろう。

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乗馬の生産の話も意外に(ゴメンナサイ)面白かった。

遠野の乗馬のセリなどは出場馬の数が足らず、購買者の方が多いそうだ。

日高ではサラブレッド生産をあきらめて、黒毛和牛生産へ転業する牧場もある。

しかし、施設がちがうので多少の投資も必要だし、技術も知識もあらたに必要だ。

乗馬生産ならお手のものではないだろうか。

調教・馴致すればけっこうな値段で売れるようだ。

種付けは人工授精も許される。

ハフリンガー種などは日高では乳母として稼ぐ方法もあるのではないだろうか?

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 ディスカッションの中で、若い人がこの業界(馬産地)に入ってこなくなっていることも問題の一つとして挙げられていた。

今あるからといって、これからも続いていくとは限らない。

生産界は、方向付けも、施策も、努力の質も量も、もう誤ると取り返しがつかない結果へつながるところへ来ているように思う。

さて、私が話した内容はボチボチと紹介していきたい。

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Photo タイガーマスクは岩手競馬で2勝目をあげ、JRAへ復帰することになった。

がんばれ、タイガーマスク!

岩手の皆さんありがとう!って私が礼をいうのもヘンだけど(笑)。

 


ウマ科学会学術集会 一般口演

2007-11-29 | 学会

 出張に出る朝は電話で起こされた。前の晩から、妊娠中の繁殖雌馬のようすがおかしいと言う。

最後までやっていると飛行機に乗り遅れるので、開腹手術の途中でバトンタッチしてもらった。

試合を締めくくる野球の投手を closer と呼ぶが、手術の最後を締めくくる外科医は術創を閉じるのでまさしく closer だな。

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 ウマ科学会一般口演は、実に色とりどり。

騎乗技術に関係するものあり、動物行動学的に子馬の行動や放牧を研究した発表あり、栄養学や飼養管理に関する発表もあり、私の発表も含めて臨床獣医学の発表もあった。

・乗馬上級者と初心者の乗馬姿勢を分析した発表は乗馬経験者としては興味深かった。

 馬に乗るときさんざん言われたことの意味が良くわかった。できるかどうかは別にして。

・騎乗技術向上のためのトレイニング方法の検討も面白かった。

 うちにもバランスボールがあるのでやってみるか?練習すればモンキー乗りできるように・・・・・ならんな。

・腸蠕動促進剤としてメトクロプラミドを使ってきたが、いよいよモサプリドへ切り替えようかと考えている。

・乳酸菌製剤はどんなものを使っても効果を感じるのは難しいと考えていたが、使うなら今回報告された製剤を使ってみようと思った。

 発表者のM先生はディープな競馬ファンなようで、二次会でも楽しい話を聞かせていただいた。

・仔馬を1月2月に産ますことの問題。育成馬も含めて馬に冬をどう過ごさせるかの問題はこれから北海道のホースマンが考えていかなければいけない課題ではないだろうか。

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 すべてが科学的な発表であったわけではない。

科学とは実証できる知識を扱う学問である。

だから客観的な真実を導き出したり証明する方法が非常に大事になる。

「理由はないけど私はこう思う。証明できないけど私はこうしたい。」というのは科学にならない。

生産技術を考える。と題されたシンポジウムで私が言いたかったのは、生産というリスクとロスの多い事業のなかで獣医師がなすべきことは、そこへ科学を持ち込むことではないか。ということかもしれない。

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 しかし、ウマ科学会はすべてが科学でなくても良いのだろう。

日本にこれだけウマに興味を持つ人が居て、専門の枠を超えて情報・意見を交換できるのは楽しいことだ。

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 楽しいと言えば、懇親会と2次会にも参加させてもらった。

幹事役A先生の見事な仕切り!! あれは誰にもまねできまい。

おかげで普段会えないような人に、こちらに居ては聞けないような話を聞くことができた。

中央アジアの汗血馬の話に、動物行動学の話に、屈腱炎の話に、行方不明になったGPSをどう探すかの話に、アルミ蹄鉄の金型の値段の話に・・・・・etc.

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Photo_2 羽田空港に牛がいたって良いじゃないか!

 


ウマ科学会学術集会 って?

2007-11-28 | 学会

 ウマ科学会学術集会から帰ってきた。長年、会員ではあったのだが、この学術集会に出るのは実は初めてだった。

ウマ科学会の立ち上げのとき、どのような会を望むか、ハガキのアンケートが来た。馬臨床獣医師が参加できるような集まりになることを望む。ということを書いたのを覚えている。

しかし、当初、学術集会は春に開かれていた。馬の獣医師を広く集める学会・集会で春に行われているものはない。

生産に関わる獣医師が春は忙しいからだ。

われわれ生産地の獣医師には関係のない集まりなんだなと思わざるを得なかった。

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 ウマ科学会は会員は漸減しているそうだ。07

私の知るかぎりでも生産地でも、競馬場でも、臨床獣医師は会員でない人が多い。

いままでのウマ科学会が馬臨床獣医師にとって魅力がなかったからだろう。

一方、日本では馬臨床獣医師が集まる会はない。

これからウマ科学会が馬臨床獣医師が参加しようと思う会になることは、ウマ科学会にとっても望ましいことなのではないだろうか。

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 毎年12月最初の月曜日にはJRA調査研究発表会が開かれる。

これには私も何度も出張してきた。発表させていただいたことも何度かある。

JRAの競走馬に関する研究はレベルが高く、臨床獣医師にとって興味ある演題も多い。

ただ、以前2日にわたって日本都市センター、九段会館などの大会場で行われていたこの発表会も、1日だけになり、会場も東大農学部弥生講堂で開かれるようになった。

時間的にも、会場的にもゆとりがなく、内部発表会の性格が強くなったように思う。

 しかし、来年は50周年とのことでウマ科学会学術集会と、日程をつなげて3日間開かれる。

その中で、馬臨床獣医学の教育講演が半日にわたって開かれる(予定)。

一般の馬獣医師にとっても参加する価値が大いにある集まりになるのではないだろうか。

馬医者の皆さん! 来年12月東京に集まって、馬臨床獣医師の集まりを作っていきましょう!

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 ウマ科学会総会でウマ科学会の学術誌 Journal of Equine Science (JES)の編集委員長から投稿を呼びかける発言があった。

JESも慢性的に論文数の減少に悩んでいる。

獣医療学術誌としてPub Med などで検索できるように登録してもらうことを目指しているが、論文数が少ないのと、「(veterinary)medical」ではない。ということでまだ Pub Med の検索対象になっていない。

それで大いに論文掲載数を増やしたい。症例報告も、もちろん、受け付ける。

今は機械翻訳ソフト、翻訳会社、電子辞書もあり、昔より英語でリポートを書くのは難しくなくなっている。(ホントカ?)

英語で論文を書いておくと、欧米人に自己紹介するとき一目置いてもらえる。

老若男女問わない(笑)、ぜひ投稿を!

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正直言うと、私は日本人が審査する英語学術誌に抵抗があったのだが、編集委員長の

 「自分達の学術誌を持つということの価値」

 「レフリーは著者の味方であるべき」

という言葉に説得されてお手伝いしている。

日本にも馬獣医学があることを示そう!

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Photo

少しずつ、ウマ科学会で見たこと、聞いたこと、しゃべったこと、会った人について書きたいと思っている。

東京飯田橋の月。

ビルより低い。

                               

 


海外、革命児、そして官僚

2007-11-21 | 日常

 hig's リンクに入っている winchester farm のHPですが、クリックすると英語ページに飛ぶようになっていました。吉田直哉さんから直々にご指摘いただき、日本語ページへ飛ぶよう修正しました。

英語じゃチョッとという方は(私もです)、新たにクリックしてみてください。

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Pb210044  司馬遼太郎「翔ぶが如く」を読み直している。

西郷隆盛は、無私の精神を持ち、大事をなしたという点でまさに日本史の中の英雄の一人なのだが、西郷ほどの人が明治維新を成し遂げた後では判断を誤っていったように見える。

観ようによっては、この時代に洋行して海外を観た者と、洋行しなかった者の間に考え方に差ができてしまったのかもしれない。

国としてできあがってもいなかった日本が韓国へ出兵する(征韓論)など、世界情勢を観れば暴論でしかなかった。

西郷は海外の情勢に疎かったわけでないようだ。

海外から帰ってきた者の話をよく聞き、欧米の事情もよく理解していたようだ。

しかし、実際に洋行し肌で先進国の在りようを実感してきたものと、聞いた話として理解した者とでは埋めようのない差があったのかもしれない。

ホースマンも、馬医者も、若いうちに海外を観るべきだろう。

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 そして、既存の体制を打ち倒す革命家と、新しい国家を作る官僚・政治家には、ちがう才能が必要とされるのだろうか。

西郷もゲバラも革命家であっても、官僚にはなれない人だったのかもしれない。

徹底して堕落と不正を嫌う潔癖さも官僚になれない要因の一つだったのかもしれない。

日本の官僚機構は明治の太政官から何も変わっていない。と司馬遼太郎さんは人の言葉として書いている。

西郷のような人には許せない、耐えられないくらい、官僚というものは腐敗するものらしい。

社会保険庁と防衛庁が無駄にした税金を計算してくれ。

国全体では押して知るべし。

その点では、正義をなせない国など滅びても構わないと言った西郷は正しかったのかもしれない。

 


キューバの医療制度のもとになったバイク旅行

2007-11-19 | 人医療と馬医療

Motorcyclediaries01 以前、「モーターサイクルダイアリーズ」という映画をBSでやっていて何気なく見た。

南米の革命家チェ・ゲバラが若い日に親友とバイクで南米を旅行した話の映画だった。

映画としてのできはともかく、良い映画だった。

若さの無謀さ、若さの純粋さがあふれていて、そして二人の医学生の個性が表現されていて、そして片方は、のちのチェ・ゲバラなのだ。

ゲバラは喘息に苦しんでいて、それもひどい発作を起こす。

たぶんそのことが医学を志したことや、彼の死生感にも影響を与えたのだろう。

Motorcyclediaries03  過去のことと見てしまうと私たちにはわからないが、ゲバラの目から観た南米は貧困と差別に満ちていたようだ。

アルゼンチンの名家で教育熱心な母親に育てられ教養を身につけていながら、社会の矛盾に気付き、それを許せない純粋さも失わなかった。

チェ・ゲバラを革命へ駆り立てたのが人間愛なら、ご両親の教育は成功したのだろうか?

ご両親は息子の生涯をどう思っていたのだろうか。

Photo                      -

映画の最後に字幕で出てくるのだが、ゲバラはこの南米を一緒に旅行した友人を革命後のキューバへ呼びよせ、友人もその期待に応えて、キューバの医療制度の確立に貢献したそうだ。

キューバは今も豊かな国ではないだろう。

しかし、その医療制度は世界中がまなぶべきところがあると注目されているようだ。

USAは世界で一番豊かな国だろうが、その医療制度は資本主義と効率主義に毒されている。

一時、チェ・ゲバラの肖像のTシャツが流行ったが、USAでは今も大々的には販売できないそうだ。

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 今日は寒い!

 車は冬タイヤに交換した。論文は再投稿した。ついでにもう一つ新規投稿した。シンポジウムと研究発表のスライドも送信した。

 来月の講義の準備は・・・・・まだだ。

 来月は年賀状に、クリスマスに、大掃除だ。勘弁してくれ!