◎病む犬に煮たアズキ、病む猫に削った銅
昨日の続きである。『薬草薬木家庭療病宝鑑』(婦女界社、一九三〇)から、佐々木念編「増訂家庭百科千首」を紹介している。本日は、その二回目(最後)で、(九一〇)から(九四〇)までを紹介してみたい。
家畜と害虫
(九一〇)生き物の糞の始末をいとふならいつそ最初〈ハナ〉から飼はぬこそよき
(九一一)犬の病むは煮た小豆を食はせよや瘡【きず】が出来たら硫黄華〈イオウカ〉つけよ
(九一二)飼ひ犬に蚤がついたら五十倍のクレシン水〈スイ〉でよく洗ふべし
(九一三)病む猫にマタヽビ薬誰も知る、銅を削つて食はせるもよし
(九一四)をりをりは木炭の粉〈コ〉や貝殻を砕いて鶏にやれば壮健
(九一五)十姉妹〈ジュウシマツ〉よくしやべるのは男にて雌はチチヽと言葉少し
(九一六)金魚鉢藻〈モ〉と田螺〈タニシ〉をば入れておけ、餌〈エ〉になる虫の住ふ〈スマウ〉たよりに
(九一七)金魚鉢水を代へるは上側〈ウワガワ〉の三分の二ほどこぼし水注せ〈サセ〉
(九一八)捕鼠器〈ネズミトリ〉、奥に鏡を立ておかば友だち居ると安心し、入る〈イル〉
(九一九)蟹の爪、たくはへ置きて火にくべよ少し臭いが鼠逃げ出す
(九二〇)鼠穴テレビン油をば浸し〈ヒタシ〉たる襤褸〈ボロ〉にて塞げ往来〈ユキキ〉絶えなん
(九二一)モグラモチ穴を尋ねて水注ぎ逃げて出たのを打ち殺すべし
(九二二)夏座敷、電燈の球赤くせば、うるさい虫は飛んで来ぬなり
(九二三)蟻の巣は沸湯〈ニエユ〉沢山注ぎ込んで〈ツギコンデ〉丸太の棒で突き崩すべし
(九二四)鉢植に蟻のつきしは一隅〈ヒトスミ〉に砂糖をおきて集せて〈ヨセテ〉殺せよ
(九二五)蟻の来る縁〈エン〉の柱の周囲〈マワリ〉にぞケレオソートを塗れば上らず
(九二六)砂糖壺に鉄釘五六本〈ゴロッポン〉入れて置け蟻のつかぬは奇妙なりけり
(九二七)蠅の湧く処へ硼砂〈ホウシャ〉ふりまけば卵が死んで根絶し〈ネダヤシ〉になる
(九二八)茶殻をば乾して火鉢で燻し〈イブシ〉なば蠅は忽ち退却をする
(九二九)バタ一匙、胡椒半匙、赤砂糖一匙まぜて蠅を追ふべし
(九三〇)ヒマシ油五、松脂八を火で溶いて〈トイテ〉紙に塗りなば蠅取りになる
(九三一)巻煙草〈マキタバコ〉バットの小箱貯へて夏の夕ぐれ蚊やりにぞする
(九三二)野に生ふる狐サヽギは蚤よけよ枝葉そのまゝ寝床に入れよ
(九三三)馬鈴薯を柔かく煮て硼酸〈ホウサン〉を煉り込んで置け、油虫死ぬ
(九三四)青松葉〈アオマツバ〉、畳の下に敷くならば南京虫〈ナンキンムシ〉は根絶やしとなる
(九三五)虫の巣はよくよく捜し見つけ出し取捨てるべし、孵らぬ〈カエラヌ〉先に
(九三六)毛虫をば石油ひたせし襤褸〈ボロ〉きれに火をつけて焼き踏みつぶすべし
(九三七)苗物の油虫をば石鹸水〈シャボンミズ〉つけた筆にてこすり取るべし
(九三八)庭などに蚯蚓〈ミミズ〉のわくを防ぐには石油を撒けや、木にかけにやう
(九三九)流しもと、ナメクジの這ふ気味悪さ、塩振りまけや、溶けて流るゝ
(九四〇)流しには蚯蚓わくなり折々に古い酢を撒けあと絶ゆるまで
(九一一)「瘡」のルビ【きず】は原ルビ、これは、〈かさ〉と読むべきではないのか。
(九三一)「バット」は、紙巻き煙草のゴールデンバットのこと。それにしても、この一首はすごい。ふつうの短歌としても鑑賞に堪える。
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