礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

結婚奨励のスローガンは「結婚報国」

2016-01-21 05:39:03 | コラムと名言

◎結婚奨励のスローガンは「結婚報国」

『週報』の343号(一九四三年五月一二日発行)から、「決戦下の結婚問題」という文章を紹介している。本日は、その三回目(最後)。昨日、紹介した文章のあと、項を改めて、次のように続く。

 結婚に対する新らしい心構へ
 もちろん、そこには住宅問題があり、共稼ぎの問題があり、或ひは婚期の遅れた女性達の結婚問題といろいろの支障があります。このうち小住宅の建築は、戦時下でいろいろと資材難の折ではありますが、住宅営団や会社、工場では、万難を排して増築に努めてをりますし、また結婚の障碍になつてゐる雇傭条件や就業条件も、出来るだけゆるやかにし、女性が結婚しても、これまでの職場を離れずに働いてゆけるやうに便宜を図つてゐます。
 なほ、比較的婚期の遅れた女性の結婚は、現在相当にに深刻な社会問題になつてゐますが、これは男女の結婚年齢の差を出来るだけ接近させてゆくやうにして解決しなければなりません。
 いづれにしても、適齢期の人達が、結婚することが何よりの御奉公になるのだ、といふ結婚報国の念に徹すれば、やれ箪笥がない、やれ家がないとか、月給がすくな過ぎるとかいつた声はなくなるものと思はれます。
 とくに若い女性達が、結婚に対して華やかな夢を描き、自分のことを棚に上げて、いたづらに高望みすることは、この際大いに反省すべきことです。結婚することによつて、二人が相扶け〈アイタスケ〉、相協力して、多幸であると同時に、多難な戦時下の生活を逞しく築き上げてゆかうといふ、大地に脚をシッカリと踏み下ろした心構へが是非とも必要です。
 結婚奨励の諸方策
 もちろん、結婚は人生の最も機徴に属することですから、たゞ二人を結び付ければよいといつたものでばありませんが、一日も早く二人が結婚報国の大道を大手を振つて歩を進めるやうにしたいものです。そして、それには若い人達だけの努力では無理で、どうしても周囲の方達の理解と協力が必要です。
 現在、政府が結婚奨励のためにとつてゐる方策は、
一、一般に結婚奨励と斡旋〈アッセン〉の風を盛んにし、全国的に結婚奨励委員等を設けること
二、官庁、会社、工場、事業場等の各職場における結婚斡旋施設の設置を奨励すること
三、公共団体に対し結婚相談施設の設置を奨励すること
四、結婚斡旋施設相互間の連絡の方法を講ずること
五、帰還軍人、傷痍言軍人の結婚は勿論、左の者の結婚については特に適当な方法を講ずること
 イ、職業婦人 ロ、海外在住者
六、結婚費用の徹底的軽減を図ること
等であります。
 公共的な結婚斡旋機関
 結婚指導に政府が直接に当るのは、余り適当でない場合もありますので、外郭団体として結婚報国懇話会を設けて、宣伝資料の作成配布、講習会や講演会の開催、結婚斡旋機関の連絡等に当つてをりますが、各道府県や市町村等でも、結婚斡旋の施設を設けて盛んに活動してゐる所が次第に増加し、また会社や工場等でも、結婚斡旋の機関を設けて結婚奨励に乗り出してをりますが、まことに心強い限りです。
 個人の結婚斡旋の風潮を盛んにすることはもちろん必要ですが、今日のやうに人口の移動が甚だしく、未婚男子が都会に集中してゐる現況では、個人斡旋はなかなか容易でない場合が多く、結婚して国策に協力しようとしても、相手がなかなか思ふやうに見つからないことが少くありません。
 そこで、公の結婚奨励指導に当る組織がどうしても必要になつて来ます。公平に権威を以て結婚指導に当る世話役がなくてはなりません。これが公立の結婚相談所であり、結婚指導委員であります。
 大日本婦人会とか方面委員連盟等でも、この仕事に協力してをりますが、市町村内の有力者に委嘱して、この大切な結婚指導の衝〈ショウ〉に当つていたゞき、全国民が足並揃えて結婚報国に邁進するやうにしたいものです。
 決戦下の今日では、直ぐに戦力の増強に約立つ問題だけに重点が置かれ、国家百年の大計には、とかく手の届かぬ場合が少く〈スクナク〉なく、これは或る程度やむを得ぬことではありますが、しかし中には私どもの努力によつては解決できる問題も相当に多く、結婚の問題もそのうちの一つであります。私どもは、伸びゆく皇国のために、未来に大きな世界を持つ青年男女のために、出来るだけの努力を尽したいものです。

 国家がその国民に対し、「結婚」を奨励しなければならないのは、どういう時か。もちろん、「国民」のためを思ってではない。「国家」の都合を考えているのである。したがって、説得の材料は限定されてくる。結局、「結婚報国」という、よくわからないスローガンが登場する。
 昨今、「一億総活躍」とか、「希望出生率」ということが言われているが、これもまた、「国家」の都合を考えての造語であろう。

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