◎イー・ザピール「フロイド主義、社会学、心理学」
先日、水道橋の古書店の店頭で、ザピール・ライヒ『フロイド主義と弁証法的唯物論』(京都共生閣、一九三二年三月)という本を見つけた。
著者の「ザピール・ライヒ」が気になったので手に取ってみた。W.Reichの論文「弁証法的唯物論と精神分析学」とI.Sapirの論文「フロイド主義、社会学、心理学」とを収めた本であった。古書価一〇〇円。当然、購入した。
翻訳者は、植田正雄という人で、安田徳太郎が序文を寄せている。帰ってから、インターネットで「植田正雄」を検索したが、どういう人かわからなかった。
I.Sapirは、何件かヒットした。青空文庫によって、戸坂潤が、『イデオロギー概論』(理想社出版部、一九三二年一一月)の中で、「ザピール」に言及していることがわかった。
本日は、『フロイド主義と弁証法的唯物論』の「訳者序」を紹介してみたい。
訳 者 序
本書に収めた二論文は共にドイツ版『マルクス主義の旗の下に』(Unter dem Banner des marxismus)に掲載されたものである。前篇ウイルヘルム・ライヒの『弁証法的唯物論と精神分析学」(W. Reich : Dialektischer Materialismus und psychoanalyse)は同誌第三巻第五号に、後篇イー・サピールの「フロイド主義、社会学、心理学」(I. Sapir:Freudismus, Soziologie, psychchologie)第三巻第六及第七号の所載に係る。
この拙訳は今から三年ほど前に、或る種の企図に基いて為されたものであるが、その計画が中途挫折放棄されると共に、同じ運命を荷つて今日まで筐底の塵の積るにまかされてゐた。だが、この飜訳を今日公にすることは、我国に於ける斯界の発展に貢献するであらうといふ学問的な意味からではなく、それとは似もつかぬ必要から出版せざるを得ぬに至つたことを一言お断りする。
拙訳を印刷に付せんとする矢先に、今井末夫氏がロゴス書院から「弁証法的唯物論と精神分析」の訳書を出版された。その訳者序よると「ザピアの論文を載せ得ざりしことは甚だ遺憾………」といふ断りがある。もし同氏の訳著にザピールの論文が含まれてゐたとすれば、この出版は無意味であるし、思ひ止るべきであつたであらう。しかるにその逸脱せられたザピールを紹介すること丈けが、今では、僅かに本書の存在を価値づけることになつた。そしてザピールの直接批判の対象となつたライヒの論文を、今井氏のものがあるにも拘らずこゝに含めたことは、読者の便宜を考へたからである。ライヒに就ては、今井氏の訳著に負ふ処が多かつたことを記して謝意を表したい。同書のユリネツツの論文を本書と共に併せ読まれることは興味深いことであらう。
最後に、畏友安田博士が本書のために序文を寄せられた御厚意を深く感謝する。
一九三二・二・二〇 訳 者
これら二論文の初出の年が明記されていないが、たぶん一九二九年であろう。
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