礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

生方恵一アナウンサーと「ミソラ事件」

2014-12-25 04:59:10 | コラムと名言

◎生方恵一アナウンサーと「ミソラ事件」

 今月一五日に、NHK の元アナウンサー生方恵一〈ウブカタ・ケイイチ〉さんが亡くなった。生方さんと言うと、まず思い出すのが一九八四年に起きた「ミソラ事件」である。訃報とともに、この事件に言及したメディアもあったと記憶する。
 今さら、こんな事件を持ち出しても、故人の追悼にはならないことはよくわかっているが、やはり書かずにはいられない。
 今日、ウィキペディアで「生方恵一」の項を見ると、「ミソラ事件」という見出しがある。これを見て初めて、あの事件に対して「ミソラ事件」という呼称が定着していることを知った次第である。以下は、ウィキペディア「生方恵一」からの引用。

 1984年12月31日、『第35回NHK 紅白歌合戦』で総合司会を担当。同紅白でラストステージを公言していた都はるみが、涙のアンコール曲となった「好きになった人」を歌い終えた直後、得点集計に移ろうとした生方は、「もっともっと、沢山の拍手を、ミソラ…(首を振りながら絶句、一瞬固まる)、ミヤコさんに、お送りしたいところですが…何ぶん限られた時間です。結果の方に移らさせて頂きます」と、都の名前を美空(ひばり)と言い間違えてしまうという失態を演じた。この映像はNHKの公開ライブラリーで視聴することができる。

 この生方アナウンサーの「失態」を私は、当時、リアルタイムで見ていた。そのことについて、小文で触れたこともある(『無法と悪党の民俗学』批評社、二〇〇四「あとがき」)。
 本日は、その小文からの引用である。

 一九八四年の大晦日に「NHK紅白歌合戦」を見ていた数千万人の日本人は、番組終了まぎわに、ひとつの重大な事件を目撃したはずである。
 この年、赤組のトリとして出場したのは、都はるみであったが、総合司会の生方恵一アナウンサーは、彼女を紹介する際、「ミソラ……」と言いかけてしまったのである。
 当時、美空ひばりは、ある理由でNHKから出演を拒否されていた。当然、「紅白歌合戦」にも出ることはできなかった。視聴者の多くは、なぜNHKは、実力ナンバーワンの美空を出さないのかという不満を抱いていた。その日、赤組のトリとして都はるみが登場しようという時、少なからぬ視聴者は、ここはヤッパリ「美空」でなくてはね、という気持ちを抑えることができなかったし、茶の間によっては、実際にそういう会話が飛びかったと思われる。
 まさにその時、視聴者は、生方アナの「ミソラ……(以下絶句)」という叫びを聞いたのである。
「起こりうる」誤りであった(フロイト理論によれば、錯誤行為にはその人の無意識が反映するという)。しかし同時に、「絶対に犯してはならない」誤りであった。そんな間違いを犯せば、全国の視聴者は、美空がなぜか排除されているという事実を改めて意識してしまうし、第一、都はるみに対して非常に失礼である。
 実は、私もその日に、生方アナの「ミソラ」発言を聞いた視聴者の一人であった。思わず、「ヤッテしまった」と頭を抱えた。画面の中の「他人事」にもかかわらず、何か自分自身が重大なミスを犯してしまったような気がして、全身に鳥肌が立った記憶がある。
 生方アナは、この事件のあと、NHKを辞めることになった。辞めたあと、新聞か何かのインタビューで、そのとき「ミソラ……」と言ってしまったわけを話していたのを読んだことが、あるが、彼の言う「理由」はあたりさわりのないもので、何らの説得力もなかった。
 さて、当時の美空が、NHKから出演を拒否されていた理由は、「暴力団」との関わりであった。
 しかし、そもそも自ら「暴力団」を自称している団体が存在するのだろうか。「暴力団〇〇組」という看板を見た人がいるのだろうか。「暴力団」とは、警察やマスコミによる「他称」にすぎない。どんな「暴力団」でも、博打・興行・露天商・ブローカー等々の生業を持っているのであって、「暴力団」という生業があるわけではない。
 美空が「暴力団」に関わっているという事実にしても、それは、美空というスターを抱え、芸能興業を生業としていた団体に対し、警察がそれを「暴力団」と位置づけたという事実以上のものではなかったはずである。美空と「暴力団」との関わりを強調し、それを理由に「紅白」から締め出す措置は、はたして正しかったのだろうか。【以下、略】

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