◎法令の改廃は今後もつづくであろう(1949)
昨日の続きである。末川博編『六法全書 事項索引及参照条文付』の昭和二十四年版(岩波書店、一九四九年一〇月一〇日発行)の「前がき」を紹介している。昨日、紹介した部分のあと、次のようにある。
ところで、本年〔一九四九〕版ではだいたい旧態に復することができたといつても、史上空前の大転換が行われて全く新しい時代が形成されている今日のことであるから、内容的に旧態を保待することが許されないのは言をまたぬ。すなわち国の建て方や仕組ないしその運営などから国民の日常生活における生き方考え方などに至るまで、あらゆる面における制度的なものは新な方向で変革されるとともに、それにつれて公私の諸領域にわたり従来の法令の多くは改廃されることになつたのであるから、本書の内容も思い切つて変えねばならず、また法令の分類整理の上でも、新な工夫をしなければならなかつた。そこで、部門別では、『地方制』『民法』『商法』『民事訴訟法』『刑法』『刑事訴訟法』『無体財産法』などのように、従来のをそのまま存置したのもあるけれども、昨年〔一九四八〕版からは、『憲法・国会法と一般法令』『行政』『司法』『労働』『教育と厚生』『経済と統制』など、従来のを改めたり全く新しいのを設けたりしたのもあり、更に本年版では、諸種の税法などを収める『財政』の部門を新に加えた。そして収録する法令は、印刷その他の都合で、およそ本年五月末までのもので打ち切らねばならなかつたのだが、第五国会で制定された重要な法律の如きも、各部門ならびに追加の『新法令』でできるだけ最近のものまでとり入れることにつとめている。【中略】
おわりに、ひとこと、本書の成り立ちと本年度版の編集のことについて述べておこう。この六法全害は、もと昭和二年〔一九二七〕から編集にかかり、昭和五年の春初板を出すに至つたのであるが、その最初の編集では、当時京都の裁判所の判事であつた安倍恕〈アベ・ハカル〉君が破産法及び和議法を、大江保直〈オオエ・ヤスナオ〉君が刑法及び刑事訴訟法を、山崎一郎君が民事訴訟法の後半を、山口友吉君が民事訴訟法の前半を、また京都大学で研究中だつた亀井秀夫君が憲法及び民法第四編第五編を、石本雅男君が民法の第一編ないし第三編を、そして末川が商法を、という風に、それぞれ参照条文の検出、事項索引の作成その他のことを担当し、その後もひきつづき各部門について増補改訂などのことをひき受けてきたのである。そしてこんどの本書でも、かようにして出来あがつたものが基本となつているのであるけれども、なにぶん、戦後の大転換に伴うおびただしい法令の制定や改廃のために、従前の本書の内容は、急にその大半を変えねばならぬことになり、それに、当初編集にだずさわつていただいた諸君は、今日ではそれぞれ忙しい職務についておられるので、昨年からようすを変え、こんとの版では、新にだいたい次のような担当で編集を進めたのである。すなわち憲法と民法を神戸経済大学教授山木戸克己〈ヤマキド・コッキ〉君、商法を京都大学教授大森忠夫君、民事訴訟法を京都地方裁判所判事山口友吉君、刑法と刑事訴訟法を大阪大学助教授瀧川春雄君及び京都大学助教授宮内裕君という風に、それぞれ分担、参照条文ならびに事項索引の作成ないし改訂に当つてもらつた。そして数多い法令の分類整理などのことでは、山木戸君及び岩波書店の諸君をわすらわし、また上記の諸君の協力のもとに各部門の内容をととのえ且つ全体のまとまりをつけるなどのことには、末川が当つたのである。本書の由来と本版の編集について、責任の所在を明かにする意味で、一応、これだけのことを申しそえておく次第である。
戦後、法令の改廃は、まことに目まぐるしいまでにはげしい。そしてそれは、今後もなお当分つづくであろう。だから、本年度版で一応形はととのつたといつても、これからまだ改めて行かねばならないところが、次から次へとあらわれてくる。本書の編集もなかなか容易ではない。各方面からの支持を得て、今後も機会あるごとに補正を行い改善につとめて、いよいよ完全を期したいと希つている。ついては、本書の編集の上のことないしは内容の過誤その他なにごとによらず、お気づきの点があれば、岩波書店内六法全書係へ御高教をたまわりたい。
昭和二十四年八月 編集代表者 末川 博
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