礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

核戦争への「愛」を描いた『博士の異常な愛情』(1964)

2015-07-26 03:18:51 | コラムと名言

◎核戦争への「愛」を描いた『博士の異常な愛情』(1964)

 スタンリー・キューブリック監督の『博士の異常な愛情』(コロンビア、一九六四)という映画は、これまで、何度も鑑賞している。最初は、たぶん、一九七〇年ごろ。どこかの名画座でリバイバル上映されているのを見たと思う。大いに衝撃を受けたし、大変な傑作だとも思った。その後、中古ビデオを購入して、自宅で観賞。さらに中古DVDも入手した。
 この映画のバージョンについて、詳しいことは承知していないが、記憶によれば、最初に映画館で見たときのバージョンと、ビデオ・DVDに収録されているバージョンとでは、異なる部分があった。具体的には、ピーター・セラーズが演ずるマンドレイク大佐(イギリス空軍の派遣将校)が、爆撃機のCRM装置を解除する暗号を割り出す場面である。この場面、最初に見たときは異様に長かったと記憶するが、ビデオ版、DVD版では、大幅に短縮されていた。
 今回、このコラムを書くために、またまた、DVDを取り出した。おそらく、この映画を見たのは、五回目か六回目であろう。やはり、傑作であった。
 映画の「あらすじ」を紹介しておく。最初、ウィキペディアの「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」の項にあった「あらすじ」を引用しようと思ったが、気になる部分があったので、適宜、加除しているうちに、別の文章になってしまった。ただし、同項の「あらすじ」を踏まえたものであることに変わりはない。

 冒頭に、「この映画に描かれているような事故は、現実には起こりえないことを、合衆国空軍は保証する。また、登場人物は架空であり、実在の人物とは、いかなる関係もない」という断りが出る。
 バープルソン空軍基地の司令官リッパー将軍(スターリング・ヘイドン)が精神に異常をきたした。指揮下のB52爆撃機三十四機に対し、「R作戦」(ソ連への核攻撃)を命令したあと、基地を閉鎖した。爆撃機には、それぞれ、五〇メガトンの核兵器が搭載されている。その破壊力は、第二次世界大戦で使用された全爆弾・砲弾の十六倍にあたるという。英国空軍から派遣され、リッパー将軍に従っていたマンドレイク大佐(ピーター・セラーズ)が、将軍の常軌を逸した言動に気づき、命令の撤回を求めるが、将軍は応じようとしない。
 やがて、この事態を察知したアメリカ政府中枢は、ペンタゴンの戦略会議室に集まって、対策を練る。マフリー大統領(ピーター・セラーズ)、タージドソン将軍(ジョージ・C・スコット)、大統領科学顧問のストレンジラヴ博士(ピーター・セラーズ)といった面々である(ピーター・セラーズは、この映画では一人三役)。
 戦略会議室で、対策が練られている間にも、爆撃機は、それぞれ、ソ連内の目標に向かって飛行を続けていた。「R作戦」においては、各爆撃機の通信回路は、敵の謀略電波に惑わされないように、CRMと呼ばれる特殊暗号装置に接続される。一度、この装置に接続されると、一般の通信は遮断され、爆撃機を引き返させることが不可能となる。三文字の暗号を送信した場合にのみ、この装置は解除できるが、その三文字の暗号は、リッパー将軍しか知らない。
 戦略会議室の席上、タージドソン将軍は、こう主張した。「爆撃機を引き返せない以上、このまま攻撃させて、ソ連を壊滅させる以外ない」。マフリー大統領が、タージドソン将軍の考え方を厳しく批判し、将軍との間で、激しい議論となる。
 ここで、戦略会議室にソ連のサデスキー大使(ピーター・ブル)がはいってくる。事態の緊急性に鑑み、大統領が、あえて招いたのである。ソ連大使を通じ、アメリカ大統領とソ連首相とが、ホットラインで会談。この電話会談のなかで、ソ連が「皆殺し装置」(ドゥームズデイ・デバイス)と呼ばれる爆弾を完成させ、すでに実戦配備している事実が明らかになる。この爆弾は、ソ連が攻撃を受けた場合、自動的に爆発し、地球上の全生物を絶滅させるというものであった。
 大統領はすでに、戦略会議の席から、バープルソン空軍基地に近い陸軍基地に連絡し、空軍基地を攻撃するように命令していた。リッパー将軍から、CRMを解除させる暗号を聞き出すためである。しかし、陸軍部隊が、リッパー将軍の執務室に迫ってくると、将軍は、突然、銃で自殺してしまう。
 自殺の直前、リッパー将軍はマンドレイク大佐に対し、共産主義の陰謀によって、自分たちの高貴な「体液」が汚染されたといったことを口走っていた。この会話をヒントに、マンドレイク大佐が、CRM装置を解除させる暗号を割り出す。大佐は、基地内の公衆電話から、大統領にその暗号を通報し、これによって、爆撃機は攻撃を中止して、次々と基地へ引き返しはじめた。しかし……。

 映画をまだ、御覧になっていない方も多いかと思うので、この先は言わない。
 戦略会議室の席上、マフリー大統領とタージドソン将軍とが衝突する場面がある。これはまさに、一九六二年のキューバ危機の際、ケネディ大統領とルメイ将軍、パワー将軍との間で起きた衝突を再現したものであろう。
 松尾文夫氏の『銃を持つ民主主義』(小学館、二〇〇四)を読んだおかげで、『博士の異常な愛情』という映画を、より深く観賞することができた。松尾文夫氏には、厚く感謝申し上げます。明日は、『銃を持つ民主主義』の紹介に戻ります。

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