礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

ルメイ将軍に「勲一等旭日大綬章」を授与(1964)

2015-07-27 05:36:26 | コラムと名言

◎ルメイ将軍に「勲一等旭日大綬章」を授与(1964)

 今月二三日、二四日、二五日と連続して、カーチス・ルメイ将軍について取り上げた。いずれも、松尾文夫氏の『銃を持つ民主主義』(小学館、二〇〇四)の第一章「ルメイ将軍への勲章」を参考にさせていただいた。
 昨日は、映画『博士の異常な愛情』について紹介したが、やはりこれも、ルメイ将軍に関連した話題であった。
 ここで、もう一度、『銃を持つ民主主義』に戻る。著者の松尾文夫氏は、同書の第一章において、カーチス・ルメイ将軍を間近に見たことがあると述べている(四八~四九ページ)。

 私は、ルメイ将軍を一度だけ間近に見ている。一九六八年十月、当時は黒人差別のチャンピオンとして知られていたジョージ・ウォーレス元アラバマ州知事が、大統領選挙戦にアメリカ独立党から出馬、その副大統領候補に彼が選ばれ、ワシントン近郊のアレキサンドリアに遊説に来ていたからである。取材を思いたったのは、後にアメリカ政治の分水嶺として記録されることになる、この年の大統領選挙戦での共和党ニクソンと民主党ハンフリーの対決が、終盤に入って大接戦と伝えられ、ウォーレス-ルメイの第三党コンビの獲得州次第では、下院決定にまでもつれ込む可能性が指摘され始めていたからである。
 ルメイ将軍はこのころキューバ危機の際の強硬論で有名になり、それがウォーレスから声がかかった理由だった。六四年には、彼をモデルにしたといわれる、巨匠スタンリー・キューブリック監督、脚本の映画「博士の異常な愛情(原題Dr. Strangelove / or : how I leaned to stop worrying and love the Bomb)」が話題になったこともあって、もっぱら、いつも葉巻を横にくわえた脂ぎった悪玉といったイメージが定着していた。
 確かに演説内容は、「ベトナム戦争に勝てないのはアメリカの軍事力を一〇〇%使わないからだ」と厳しくジョンソン大統領と反戦デモの双方を批判する評判通りの激しさだった。しかし、私には、特徴のあるぎょろ目を除けば、小柄で青白い拍子抜けするほど「普通の人」だったことをいまでも覚えている。

 松尾氏によれば、当時、ルメイ将軍に対して、「葉巻を横にくわえた脂ぎった悪玉」というイメージが定着していたという。この「葉巻を横にくわえた悪玉」というのは、映画『博士の異常な愛情』においては、「R作戦」を命じたリッパー将軍(スターリング・ヘイドン)の役どころである。おそらく当時、多くのアメリカ人は、「リッパー将軍」というキャラクターは、ルメイ将軍をモデルにして造形されたものと捉えていたのであろう。もちろん、松尾氏自身も、そのように捉えていたと読める。
 私見では、ルメイ将軍をモデルとしたキャラクターは、リッパー将軍ひとりにとどまらない。タージドソン将軍(ジョージ・C・スコット)やストレンジラヴ博士(ピーター・セラーズ)といったキャラクターもまた、ルメイ将軍をモデルにして造形されたものと捉えるべきであろう。そのように捉えることで、初めて、「Dr. Strangelove」という原題が活きてくる。
 再三、引用させていただいた『銃を持つ民主主義』の第一章だが、そのタイトルは、「ルメイ将軍への勲章」となっている。このタイトルの意味するところは、同章の最後の部分を読むと理解できる(五三ページ)。

 ここでは、一つの事実を報告しておく。一九六四年十二月四日、日本政府は閣議で来日中のアメリカ軍空軍参謀長、カーチス・ルメイ将軍に勲一等旭日大綬章を贈ることを決め、同六日、当時の浦茂航空幕僚長が入間〈イルマ〉基地を訪れて授与している。航空自衛隊の育成に功績があった、というのがその理由だった。

 信じがたいことだが、厳然たる事実である。第二次大戦末期、「夜間無差別焼夷弾爆撃」によって、無防備な民間人を殺傷した米軍人、朝鮮戦争中、北朝鮮に対する無差別爆撃で、二〇〇万人ともいわれる人々を殺傷した米軍人、キューバ危機に際し、人類を核戦争の瀬戸際に立たせた米軍人。そうした米軍人に、なぜ、勲一等旭日大綬章を贈らなければならなかったのか。この授与を提案したのは誰だったのか。当時、この授与を問題視する人はいなかったのか。ちなみに、ルメイ将軍に勲章が授与されたのは、一九六四年(昭和三九)一二月であるが、日本では同年の一〇月に、映画『博士の異常な愛情』が公開されている(アメリカでの公開は、同年一月)。

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コメント (2)
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