礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

映画『ゼロの焦点』(1961)を見る

2015-07-09 07:06:48 | コラムと名言

◎映画『ゼロの焦点』(1961)を見る

 昨日、ビデオで、野村芳太郎監督の映画『ゼロの焦点』(松竹大船、一九六一)を鑑賞した。この映画は、一九七〇年前後に、どこかの名画座でおこなわれたリバイバル上映で見た記憶がある。また、それ以前に、原作(松本清張の小説)のほうも読んでいたと思う。しかし、ストーリーなどは、ほとんど忘れてしまっており、まったく新たな気分で観賞することができた。
 映画は、結婚後一週間しか経っていない妻・鵜原禎子(久我美子)のナレーションで始まる。すなわち、この映画は、鵜原禎子の視点で描かれている。
 夫の鵜原憲一(南原宏治)は、広告会社の優秀な社員で、金沢出張所長から東京の営業部に異動したばかり。金沢で引き継ぎがあるというので、新しい金沢出張所長である本多良雄(穂積隆信)とともに、上駅駅から夜行列車に乗って金沢に向かう。それを見送る妻の禎子。
 映画の冒頭は、鵜原憲一、禎子、本多良雄の三人が、上野の駅前でタクシーから降りてくるシーンである。タクシーの車種はよくわからないが、ドアが観音開きだったので、たぶん、トヨペット・クラウンRSであろう。このトヨペット・クラウンRSのタクシーは、あとのシーンでも登場する。
 鵜原憲一が、駅の窓口で、金沢までの乗車券と急行券、各二枚、入場券一枚を買う。もちろん「手売り」である。合計で五九三〇円。たぶん、当時の入場券は一〇円だったと思う。改札口では、駅員が鋏を入れる。もちろん、自動改札などというものは、まだない。
 列車は、21時15分発。これは、ホームの表示板で確認できる。また、「直江津・富山経由、金沢行き」というアナウンスが聞こえてくる。
 その後、鵜原憲一が、金沢で消息を絶つというハプニングが起きる。禎子は、金沢まで赴き、関係者に当たるが、ほとんど手掛かりがない。憲一の兄・鵜原宗太郎(西村晃)も、金沢までやってくる。
 禎子はいったん帰京するが、そのあと、現地に残った宗太郎が、旅館で何者かに毒殺されるという事件が起きる。宗太郎の妻(沢村貞子)は、電報によって、その事実を知らされる。沢村貞子が、例によって達者な演技を見せている。
 どうでもよいことだが、この電報を届けた配達員は、玄関の引き戸を開け、家人に向かって「電報ですよ」と呼びかけている。そう、この時代は、外出するとき、寝るとき以外は、玄関にカギを掛けることはなかったのである。
 この映画は、はじまって三分の二ぐらいまでは、非常に流れがよく、適度の緊張感もある。しかし、そのあと、禎子と「犯人」とが断崖の上で対決する場面になってからは、やや雰囲気が変わる。この変化が、唐突といえば唐突である。
 ここで、視聴者は、禎子による「推理」を聞かされ、続いて、「犯人」が「真相」を明かすのを聞くことになる。この断崖の上の場面からあとの展開は、原作では、どうなっていたのだろうか。脚色の上で、もっとも工夫した(苦心した)点であることは想像できたが、こうした脚色がベストであるとは思えなかった。
「犯人」が誰であるかは、ここでは言わない。なお、犯人が運転する乗用車は、プリンス自動車の「グロリア」であった。当時、この車は、国産車としては、性能、価格とも最高級であったはずである。
 九五分。脚本は、橋本忍と山田洋次、音楽は、芥川也寸志。

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コメント (2)
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