「牡丹燈籠」 1968年 日本
監督 山本薩夫
出演 本郷功次郎 赤座美代子 小川真由美 西村晃 志村喬
大塚道子 宇田あつみ 佐々木孝丸
ストーリー
盆の十六日の宵に旗本の三男坊新三郎(本郷功次郎)は、吉原の遊女お露(赤座美代子)を知った。
その夜、新三郎の住居を訪ねたお露と下女のお米(大塚道子)は、武士の娘でありながら吉原に売られた不幸な身の上を語った。
新三郎は、三男坊で長屋暮しをしている自分と同じように、お露が非情な社会の仕組の犠牲者であることに胸をつかれた。
そしてお米のたっての頼みから、せめて盆の間だけでもと、お露と祝言の真似事をして契りを結んだ。
一方同じ長屋に住む伴蔵(西村晃)が、この有様を覗きみた時、お露の裾が消えているのに仰天、易者の白翁堂(志村喬)に駆け込んだ。
伴蔵から様子を聞いた白翁堂は、翌日、新三郎の顔にまざまざと死相を見て驚き、新三郎にそれが悪霊のためだと言う。
一方、伴蔵はお露とお米が、最近自害して果てたことを聞き込んできた。
新三郎は信用しなかったが、二人の女の墓を見ては信用せざるを得なかった。
その夜、再び現われたお露に、新三郎は狂ったように斬りつけた。
しかし、お露は新三郎の心変りを悲しみ、哀れな運命を物語った。
そんなお露の姿に、新三郎は心をうたれ、ひしと抱きしめるのだった。
新三郎は日毎にやせ衰えて行ったので、長屋の人はそんな新三郎を心配し、また悪霊の退散を祈願して、新三郎を籠り堂に閉じ込め、護符を張りめぐらした。
そのため、お露とお米は仕方なく一度は帰ったが、金につられた伴蔵が、護符の一枚をはがした。
お露とお米の二人は喜んで手をとり、戸口の隙間から吸い込まれるように入っていった。
一夜あけて、白翁堂や長屋の人たちが新三郎の身を案じて入ってみると、新三郎はこと切れ、彼の首にしゃれこうべがすがりつき、その脇にもう一つの女の骸骨が横たわっていた。
寸評
映画は、タイトルと製作者の名前(永田雅一)だけを見せて本編に入るのだが、大映の永田雅一のような名プロデューサーが五社にいた頃が懐かしい。
「牡丹灯籠」は怪談話として「四谷怪談」「皿屋敷」と並ぶ有名なものだが、円朝の「牡丹灯籠」が描いているもっと複雑な筋立てを、ここでは新三郎とお露の恋物語に的を絞っている。
いくらでも話を膨らませることができる内容に思うが、山本薩夫の演出はオーソドックスな怪談話として要領よくまとめている。
新三郎の兄が死亡し、新三郎は残された兄嫁と結婚するように父親や親類縁者から言われている。
兄嫁はよい家柄の出で、新三郎家にとっては出世の糸口なのだ。
新三郎は気乗りがしないが、兄嫁は当家の気が済むようにと引いた態度である。
本人の意思よりも家名と家の存続が第一と言う封建制への批判が見て取れる。
僕が子供の頃には、まだまだそのような考え方が残っていて、家同志の格式を考慮した結婚話を取りまとめる仲人家業の人が存在していた。
新三郎はそんな家が嫌で長屋暮らしをしている。
長屋の子供たちに読み書きを教えているのだが、見ているとそれはボランティアでやっているように思える。
それでは新三郎は生活費を一体どのようにして得ているのだろう。
実家が嫌だと言っているが、母親から生活費を援助でもしてもらっていたのだろうか。
新三郎をそんな風な立場に描いておいても面白かったかもしれない。
死者の亡霊に取り付かれるという話はよくあるパターンで、「雨月物語」などもそのような内容である。
幽霊のお露とお米が伴蔵に取り付き、伴蔵の着物の襟が持ち上がり、お露、お米が空中浮揚するシーンではピアノ線が映り込んでいるが、コンピュータ処理がない時代のご愛敬で当時の撮影時の苦労がうかがわれる。
伴蔵はいい加減な男だが何かと新三郎の世話を焼いて、新三郎の身の上を心配しているのだが、実家に帰っていた妻のおみね(小川真由美)が帰って来てから物語は大きく展開を見せる。
おみねは強欲な女としてもっと嫌味が出ていても良かったと思うので、僕は小川真由美のキャスティングはミスキャストだったかもしれないと感じる。
赤座美代子と小川真由美を入れ替えていても良かったかもしれない。
お露は父親が殿さまの気まぐれで役を解かれて死亡し、自分は借金の為に遊郭へ身売りされた立場である。
滅私奉公しながら殿さまの理不尽な扱いを受け入れなければならなかったことも封建制への批判だと思うのだが、そのような主張は色濃いものではない。
山本薩夫なら劇中に封建制度への批判を盛り込んでいるのではないかと思って見始めたが、そのような描き方は排除して、あくまでも正調怪談物語としてのスタイルを貫いている。
新三郎が亡霊に取り付かれて死亡したシーンはラストシーンのように思えたが、「あれっ、伴蔵はどうしたんだ」と思ったとたんに「そう言うことか」となって百両の経緯にも納得。
さすがに山本薩夫、要領よくまとめているなあという印象である。
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