おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

(ハル)

2021-09-15 06:26:50 | 映画
「(ハル)」 1996年 日本


監督 森田芳光
出演 深津絵里 内野聖陽 山崎直子
   竹下宏太郎 鶴久政治 宮沢和史
   戸田菜穂

ストーリー
(ハル)というハンドル名でパソコン通信を始めたばかりの速見昇は、映画フォーラムで知り合った(ほし)と名乗る男と、メールのやり取りをするようになった。
盛岡に住んでいる(ほし)は、実は自分を男と偽っているOL・藤間美津江だった。
メールを重ねるうち、(ほし)は自分は女だと(ハル)に告白するが、ふたりの関係は崩れることはなかった。
(ハル)は(ローズ)というハンドル名の女性と知り合い、実際に会って何度かデートするようになっていた。
ところが、(ローズ)は恋人というよりも妹という感じで、(ハル)は今ひとつ深い関係まで踏み切れない。
一方の(ほし)は、仕事先で知り合った山上という男に結婚を申し込まれたが断った。
ある日、(ハル)は出張で青森に行くことになり、(ほし)は新幹線の(ハル)に向けてハンカチを振る約束をし、一瞬だけの対面を果たすのだった。
しかし、(ほし)の妹・由花が帰省して部屋を訪ねて来た時に、妹が(ローズ)というハンドル名でパソコン通信をやっていることがわかり、(ほし)はショックを受けた。
(ハル)は、(ローズ)と会ったその日にホテルへ行ったと、(ほし)に嘘を教えていたのだった。
(ローズ)が(ほし)の妹だと知った(ハル)は、あわてて本当のことを伝えるが、妹が自分よりも簡単に(ハル)との時間を共有していたことが、心に引っ掛かってしまった(ほし)は、(ハル)にメールを出すのをやめてしまう。
しかし、メールのやり取りで知らないうちにお互いを支えあっていたことに気づいた(ほし)は、再び(ハル)にメールを送り、ふたりは、もう一度最初から互いの関係をやり直すことにした。
そして、(ほし)は(ハル)に会うため東京へ出かけることを決意した。


寸評
この時代の映画である。
ソーシャルネットワークの世界は種々多様なツールが生まれて進化を遂げている。
ここでのSNSはもっぱらチャットとメールである。
仮想社会だけに語られていることは本当かどうかわからないし、相手が成りすましていることだってありうる。
その為に事件も起きているが、時間と距離を超越した社会として素晴らしい面もある。
(ハル)と(ほし)は映画のフォーラムを通じて知り合う。
会うこともないし、電話番号を交換して話すこともなく、メールでのやりとりを繰り返す。
当初はウソがあったりするが、やがて対面では話せないような心の内を吐露し合うようになる。
それをパソコン通信というツールで行っているために、二人のやり取りはメールの文面通りに画面に打ち出されるという斬新な方法で描かれている。
そのため、日本映画なのに字幕を読むのが忙しい作品となっている。

即興的である会話に比べて、文章は思考する時間が与えられるために会話にはない要素が生まれる。
誇張であったり、作り話であったり、本当の気持ちだったりを盛り込むことが可能だ。
読み手側は言葉以上のものを想像する。
僕の青春時代のある時期までパソコンは当然存在していなかったし、電話ですら限られた家にしか存在していないシロモノだった。
連絡はもっぱら手紙でのやりとりで、特定の人との文通が流行っていた。
一週間に一度のやり取りでも、月にたった2通の手紙を受け取るだけのものだった。
写真を交換していても初めて出会うときはドキドキものである。
だから(ハル)と(ほし)が初めて接触した新幹線のデッキと農道でハンカチを振り合う二人の気持ちも、東京駅で出会った時の気持ちもよくわかる。
僕は「しばらく・・・」だったが、彼らの初めての言葉が「はじめまして・・・」なのは当然の挨拶だ。

内野聖陽もいいが(ほし)の深津絵里がいい。
彼女の見せる愁いを秘めた表情がすばらしい。
(ほし)は高校時代から付き合っていた恋人を自動車事故で亡くしている。
彼女の過去を描いていないが、パン屋に転職した時のお客との会話からそれを匂わせている。
ストーカーの様に付きまとっているのが元カレだと思わせていることと相乗効果をもたらせていて、彼女の表情の裏付けになっている。
母を亡くした父が新しい女性を見つけたことも(ほし)の表情を暗くしたのかもしれない。
プロポーズする男性が現れても(ほし)のこころは晴れない。
だから最後に見せる(ほし)の微笑みに、僕は祝福の笑みを送れたのだと思う。
(ハル)が(ローズ)と肉体関係を結んでいたら修羅場が起きて面白かっただろうが、それではさわやかな青春映画にならない・・・そう、これは時代を反映したさわやかな青春映画なのだ。
森田芳光の脚本と演出は称賛されてよい。


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