「糸」 2020年 日本
監督 瀬々敬久
出演 菅田将暉 小松菜奈 斎藤工 榮倉奈々 高杉真宙 馬場ふみか
竹原ピストル 二階堂ふみ 倍賞美津子 松重豊 山本美月
永島敏行 田中美佐子 山口紗弥加 成田凌
ストーリー
平成元年(1989年)に北海道にて生を受けた少年・高橋漣(南出凌嘉)。
平成13年(2001年)の夏、13歳になった漣は美瑛で行われた花火大会で同じく平成元年生まれの少女・園田葵(植原星空)と運命的な出逢いを果たした。
葵に一目惚れした漣は彼女に告白し、美瑛の丘で待ち合わせの約束をした。
ところが、約束の時間になっても葵は姿を現さなかった。
葵の一家は夜逃げ同然で行方をくらましていたのだ。
漣は葵の友人から彼女が札幌にいることを聞き出し、現地へと向かった。
葵は父を亡くし、母・真由美(山口紗弥加)の作った新しい男は葵に暴力を振るうようになっていた。
真由美は暴力を止めることもせず、事情を聞いた漣は自分が葵を守ることを決心、二人で逃避行を決行した。
函館近くの寂れたキャンプ場のロッジに身を寄せた漣と葵だったが、翌朝になって二人は駆け付けた警察に保護された結果、漣と葵は無理やり引き離され、それ以来会うことは叶わなかった。
月日が流れて平成20年(2008年)、成人した漣(菅田将暉)は美瑛のチーズ工房で働いていた。
ある日、漣は中学時代からの友人・竹原直樹(成田凌)と葵の友人だった後藤弓(馬場ふみか)の結婚式に出席するため上京、そこで葵(小松菜奈)と再会を果たした。
漣は改めて葵に想いを打ち明けようとしたが、葵は「漣くんに会えて良かった」と言い残し、迎えに来たファンドマネージャーの水島大介(斎藤工)の高級車に乗り込んで去っていった。
淡い期待を打ち砕かれた漣は失意のうちに北海道に引き上げていった。
真由美に連れられて東京に移り住んでいた葵は現地の大学に通っていたのだが、学費と生活費を稼ぐためキャバクラで働いていた。
葵はそこで水島と出会い、交際する傍ら学費や生活費を工面してもらっていたのだ。
寸評
平成元年に生まれた主人公2人が、紆余曲折を経て平成最後の日にお互いの気持ちを確かめ合うところまでを描いていて、平成の時代に起きた様々な事件や社会問題、災害が彼らの人生に関わっていく。
漣と葵が中学生の頃に家出と美瑛町のロッジに隠れていた時に聞いていたラジオから、平成13年(2001年)に起きた同時多発テロについて言及する音声が流れている。
そのことは、世界と同様に彼ら二人の人生が劇的に変わっていくプロローグを示していたと思う。
同様にリーマンショックや東日本大震災が彼らに介入してくるのは平成の物語を意識したものだろう。
「溺れるナイフ」以来の共演となった菅田将暉と小松菜奈だが、男の僕は菅田将暉にはリアリティを感じたが小松菜奈にはリアリティを感じることはできなかった。
それでも二人が出会っていくキーパーソンたちとの関係がそのような感情を押し殺していく。
平成の年号と共に物語は進むから、二人の年齢は年号と一致する。
平成元年に二人は生まれ、平成13年に運命的な出会いをする。
漣は葵に一目ぼれし、漣は別れ別れになっても葵を想い続けている。
葵は父を亡くし、母の作った新しい男から暴力を受けている。
以後も葵の身に起きることは漣に比べれば劇的で、主人公は葵の小松菜奈だと感じさせるのだが、ダブル主演である菅田将暉を支えているのは葵に対する思いである。
漣の葵を思い続ける姿は理解できるものがある。
平成20年、美瑛のチーズ工房で働いていた漣は幼なじみの直樹の結婚式で葵と再会するが葵には男がいた。
思い続けた女性の彼氏を見たショックは計り知れず、漣の悔しいような挫折感は共有できるものがある。
母親に連れられて東京に移り住んでいた葵が大学に通っていて、学費と生活費を稼ぐためキャバクラで働いたところファンドマネージャーの水島の援助を受けるようになるなど、それ以降も彼女に起きることが都合がよすぎる展開であることが彼女にリアリティを感じない理由だろう。
平成22年、漣は香織と結婚する。
年頃になれば初恋の人とは別の女性と結婚するのは当然の流れだが、そこでも漣は葵と劇的な再会を果たす。
それでも二人はそれぞれの場所に戻らざるを得ず、葵はキャバクラ時代の同僚だった高木に誘われてシンガポールに渡って現地のネイルサロンで働き始め、やがてネイリスト派遣会社「AOI & REI」を立ち上げる。
彼女の身に起きることは劇的過ぎるのだが、小松菜奈の魅力が劇画とも思える展開を支えている。
香は漣との子供を残して亡くなってしまうが、いい奥さんだったと思うので、漣は香が生き続けていても幸せな一生を過ごせたと思う。
平成31年、葵は二度と戻るつもりのなかった美瑛に帰ってくる。
そして平成最後となる4月30日、函館のフェリーターミナルで漣はようやく葵と対面を果たす。
正に平成と共にあった恋物語である。
中島みゆきの「糸」という曲がモチーフになっていると言う。
サビは「縦の糸はあなた、横の糸は私、織りなす布はいつか誰かを暖めうるかもしれない」という部分である。
糸は1本で存在しているとたちまち切れてしまうが、それが織りなす布は強度を増す。
世の中の人間関係もそうであらねばならない。
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