「ち」の続きです。
第1弾は2019年10月27日の「チェンジリング」から11月7日の「「沈黙 SILENCE」」まででした。
興味のある方はバックナンバーからご覧ください。
「小さいおうち」 2013年 日本
監督 山田洋次
出演 松たか子 黒木華 橋爪功 吉行和子
室井滋 中嶋朋子 あき竹城 松金よね子
笹野高史 ラサール石井 林家正蔵
吉岡秀隆 妻夫木聡 木村文乃 夏川結衣
米倉斉加年 小林稔侍 倍賞千恵子
ストーリー
大学生の健史(妻夫木聡)は、亡くなった大伯母・布宮タキ(倍賞千恵子)から彼女が遺した自叙伝を託される。
タキは東京郊外にあった少しモダンな三角屋根の家で女中として働いていた当時の思い出を大学ノートに書き記していた。
そこには、健史が知らない戦前の人々の暮らしと若かりしタキ(黒木華)が女中として働いた家族の小さな秘密が綴られていた――。
昭和11年、山形から東京へと女中奉公に出たタキは、小説家の屋敷に1年仕えた後、東京郊外の平井家に奉公することに。
その家は、赤い三角屋根が目を引く小さくもモダンな文化住宅。
そこに、玩具会社の重役・雅樹(片岡孝太郎)とその若い妻・時子(松たか子)、そして幼い一人息子の恭一(秋山聡、市川福太郎)が暮らしていた。
3人ともタキに良くしてくれ、タキはそんな平井家のためにと女中仕事に精を出し、とりわけ美しくお洒落な時子に尽くすことに喜びを感じていく。
ある年の正月。
平井家に集った雅樹の部下たちの中に、周囲から浮いた存在の青年・板倉正治(吉岡秀隆)がいた。
美術学校出身の心優しい板倉に恭一がすぐに懐き、時子も妙にウマが合って急速に距離を縮めていく。
タキと時子の穏やかな暮らしは、この青年の出現により変化する。
時子の気持ちが揺れ、恋愛事件の気配が漂う中、タキはある決断をする…。
寸評
映画を見終わって僕は、冒頭の部屋の後片付けのシーンを思い出し、タキは復員した板倉に会っていたのではないかと想像した。そして板倉はいまでも時子を愛していることを知ったのではないかと思ったりした。
彼女が長く生きすぎたと嘆くのは、自分の犯した罪への贖罪だったのか、自分の思慕の感情に対する欺瞞だったのか…。
おもえば、この映画は伏線があちこちに張られていた。
小説家の小中先生はタキに、女性から来た手紙を奥様に見つからないようにそっと引きだしに入れていた気のきいた女中がいたという話を聞かせている。時子の友人のユキには「好きになってはいけない人を好きになってしまったのね」と語らせている。それらはタキの行動の暗示でもあり、板倉の気持ちを言っているようでいて、タキの気持ちを言い当てているようでもあった。
それらの想像の世界が上手く処理されていて、山田洋次の職人芸を感じさせた。
貧しくても懸命に生きる家族は山田監督の永遠のテーマだと思うのだが、この作品では初めてと言ってもいい家族の中の秘密をテーマにしている。
「たそがれ清兵衛」で見た時と同様で、その新鮮さが作品の出来を押し上げている要素になっているなと感じた。
実は前作の「東京家族」を見て、これで山田洋次の時代も終わったかなと感じていたのだが、この作品を見ると円熟味を増した職人の雰囲気を感じることが出来て、やはり安心して見ることが出来る数少ない監督の一人だと再認識した。
描かれている世界は、中の上といえるプチブルジョアの家庭で、往年の小津映画の世界を髣髴させる。
そしてその世界は、健史が度々「そんなわけないだろ」と言うように、一般的な時代認識とは違う世界なのだが、多分現実にはこんな家庭もあったのかも知れない。
事実、私の母も戦時中に食べ物や品物で困ったことはなかったと言っていた。
百姓家で食べ物は豊富だったし、それと引き換えることで日用品は手に入ったとも言っていた。
時代の変遷は語られるが、日本が逼迫していく状況は描かれることはない。それでもラストで年老いた恭一が語るように不幸な時代だったのだ。時代がそれぞれの幸せを奪っていったのかもしれない。
そんな時代に決して逆戻りしてはいけないという山田監督のメッセージでもある。
時代が許さなかった恋愛を静かにみつめるまなざしを強く感じる作品に仕上がっていたと思う。
常務である板倉の家に、度々社長が訪問して騒いでいるのになぜか違和感があった。
普通は常務が社長の家を訪問するんじゃないかな?僕が長くサラリーマンをやりすぎたのかな…。
時子はどんな思いでダンナである雅樹と抱き合って焼死していったのかな?
僕はどうせ死ぬなら最も愛した人に抱かれて死にたいなあと思ったりした・・・。
黒木華がこの作品でベルリン国際映画祭の最優秀女優賞を取ったとのことで、この話題が僕をしてこの映画にいざなったのは事実。「日本昆虫記」の左幸子、「サンダカン八番娼館」の田中絹代、「キャタピラー」の寺島しのぶに続く4人目ということなのだが、4人並べると黒木華だけが少し路線が違うような気もするが、でも彼女はむしろこれからが楽しみな女優さんである。
松たか子はますます艶っぽくなってきて良くなっている。二人とも飛びきりの美人でないのがいい(ゴメンナサイ)。
第1弾は2019年10月27日の「チェンジリング」から11月7日の「「沈黙 SILENCE」」まででした。
興味のある方はバックナンバーからご覧ください。
「小さいおうち」 2013年 日本
監督 山田洋次
出演 松たか子 黒木華 橋爪功 吉行和子
室井滋 中嶋朋子 あき竹城 松金よね子
笹野高史 ラサール石井 林家正蔵
吉岡秀隆 妻夫木聡 木村文乃 夏川結衣
米倉斉加年 小林稔侍 倍賞千恵子
ストーリー
大学生の健史(妻夫木聡)は、亡くなった大伯母・布宮タキ(倍賞千恵子)から彼女が遺した自叙伝を託される。
タキは東京郊外にあった少しモダンな三角屋根の家で女中として働いていた当時の思い出を大学ノートに書き記していた。
そこには、健史が知らない戦前の人々の暮らしと若かりしタキ(黒木華)が女中として働いた家族の小さな秘密が綴られていた――。
昭和11年、山形から東京へと女中奉公に出たタキは、小説家の屋敷に1年仕えた後、東京郊外の平井家に奉公することに。
その家は、赤い三角屋根が目を引く小さくもモダンな文化住宅。
そこに、玩具会社の重役・雅樹(片岡孝太郎)とその若い妻・時子(松たか子)、そして幼い一人息子の恭一(秋山聡、市川福太郎)が暮らしていた。
3人ともタキに良くしてくれ、タキはそんな平井家のためにと女中仕事に精を出し、とりわけ美しくお洒落な時子に尽くすことに喜びを感じていく。
ある年の正月。
平井家に集った雅樹の部下たちの中に、周囲から浮いた存在の青年・板倉正治(吉岡秀隆)がいた。
美術学校出身の心優しい板倉に恭一がすぐに懐き、時子も妙にウマが合って急速に距離を縮めていく。
タキと時子の穏やかな暮らしは、この青年の出現により変化する。
時子の気持ちが揺れ、恋愛事件の気配が漂う中、タキはある決断をする…。
寸評
映画を見終わって僕は、冒頭の部屋の後片付けのシーンを思い出し、タキは復員した板倉に会っていたのではないかと想像した。そして板倉はいまでも時子を愛していることを知ったのではないかと思ったりした。
彼女が長く生きすぎたと嘆くのは、自分の犯した罪への贖罪だったのか、自分の思慕の感情に対する欺瞞だったのか…。
おもえば、この映画は伏線があちこちに張られていた。
小説家の小中先生はタキに、女性から来た手紙を奥様に見つからないようにそっと引きだしに入れていた気のきいた女中がいたという話を聞かせている。時子の友人のユキには「好きになってはいけない人を好きになってしまったのね」と語らせている。それらはタキの行動の暗示でもあり、板倉の気持ちを言っているようでいて、タキの気持ちを言い当てているようでもあった。
それらの想像の世界が上手く処理されていて、山田洋次の職人芸を感じさせた。
貧しくても懸命に生きる家族は山田監督の永遠のテーマだと思うのだが、この作品では初めてと言ってもいい家族の中の秘密をテーマにしている。
「たそがれ清兵衛」で見た時と同様で、その新鮮さが作品の出来を押し上げている要素になっているなと感じた。
実は前作の「東京家族」を見て、これで山田洋次の時代も終わったかなと感じていたのだが、この作品を見ると円熟味を増した職人の雰囲気を感じることが出来て、やはり安心して見ることが出来る数少ない監督の一人だと再認識した。
描かれている世界は、中の上といえるプチブルジョアの家庭で、往年の小津映画の世界を髣髴させる。
そしてその世界は、健史が度々「そんなわけないだろ」と言うように、一般的な時代認識とは違う世界なのだが、多分現実にはこんな家庭もあったのかも知れない。
事実、私の母も戦時中に食べ物や品物で困ったことはなかったと言っていた。
百姓家で食べ物は豊富だったし、それと引き換えることで日用品は手に入ったとも言っていた。
時代の変遷は語られるが、日本が逼迫していく状況は描かれることはない。それでもラストで年老いた恭一が語るように不幸な時代だったのだ。時代がそれぞれの幸せを奪っていったのかもしれない。
そんな時代に決して逆戻りしてはいけないという山田監督のメッセージでもある。
時代が許さなかった恋愛を静かにみつめるまなざしを強く感じる作品に仕上がっていたと思う。
常務である板倉の家に、度々社長が訪問して騒いでいるのになぜか違和感があった。
普通は常務が社長の家を訪問するんじゃないかな?僕が長くサラリーマンをやりすぎたのかな…。
時子はどんな思いでダンナである雅樹と抱き合って焼死していったのかな?
僕はどうせ死ぬなら最も愛した人に抱かれて死にたいなあと思ったりした・・・。
黒木華がこの作品でベルリン国際映画祭の最優秀女優賞を取ったとのことで、この話題が僕をしてこの映画にいざなったのは事実。「日本昆虫記」の左幸子、「サンダカン八番娼館」の田中絹代、「キャタピラー」の寺島しのぶに続く4人目ということなのだが、4人並べると黒木華だけが少し路線が違うような気もするが、でも彼女はむしろこれからが楽しみな女優さんである。
松たか子はますます艶っぽくなってきて良くなっている。二人とも飛びきりの美人でないのがいい(ゴメンナサイ)。
石川台は、高級住宅地でしたが、長原は庶民的な町でした。
池上線は、結構町ごとに特徴のある線でした。
石川台は、小津の『秋刀魚の味』で、岩下志麻と吉田輝雄がホームで別れる駅です。
23区の位置関係もはっきりしません。
だけど地名だけはやたらと知っています。
映画とかテレビのせいでしょうか?
大阪が出てくるとホッとします。