おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

阿修羅のごとく 2003年 日本

2017-08-28 19:42:12 | 映画

監督:森田芳光
出演:大竹しのぶ 黒木瞳 深津絵里 深田恭子 仲代達矢 八千草薫 中村獅童

ストーリー
三女・滝子(深津絵里)の突然の呼びかけで、久し振りに竹沢家の4姉妹が集まった。
70歳を迎える父・恒太郎(仲代達矢)に、愛人と子供がいるというのだ。
母・ふじ(八千草薫)の耳には入れないようにしよう、と約束する姉妹。
この事件を機に、一見平和に見えた女たちがそれぞれに抱える、日常のさまざまな事件が露呈してくる。
未亡人の長女・綱子(大竹しのぶ)は、華道の師匠で生計を立てており、出入りの料亭の妻子ある男性と付き合っているが、その妻に勘付かれてしまう。
次女の巻子(黒木瞳)は、サラリーマンの夫と2人の子供と平凡な家庭を営んでいるが、最近夫の浮気を疑い始め、ノイローゼ気味。
図書館に勤める三女の滝子は、父の愛人の調査を頼んだ内気な青年・勝又(中村獅童)と恋愛感情はあるのだが、その恋はなかなか進展しない。
四女の咲子(深田恭子)は、売れないボクサー陣内(RIKIYA)と同棲中。
新人戦に勝ったあと、家族に紹介し結婚しようと思っている。
母・ふじ だけは、夫の愛人問題も耳に入っていないのか、泰然と日常を過ごしているようだった…。
季節が移り、家族それぞれが急展開を見せることになる・・・。

寸評阿修羅と言えば僕は真っ先に興福寺の国宝阿修羅像を思い浮かべる。初めて見た時は自分が描いていた印象とは違い案外と小さな仏像で有ることに驚いた。
阿修羅は仏教の守護神ではあるが闘争的であり、帝釈天と闘い敗れた神であり、その戦いの場面から修羅場なる言葉も生まれているといのが僕の認識。
この映画でも最初にその阿修羅像が映し出され、「阿修羅とは表面的には仁義礼智信を揚げるかに見えるものの、内には猜疑心が強く互いに事実を曲げて、いつわって他人の悪口を言い合う、言い争いの象徴とされるインド民間信仰上の神のこと」と表示される。
描かれた内容は主人公達、脇役達を含めて、正にその世界を具現化した現世の出来事だ。
その説明に続いて、四姉妹が演じる一コマに役名と演者タイトルがでるのだが、この扱い方は「さあ映画を見るぞ」という気分にさせてくれてよかった。
タイトル通りここでは女たちの修羅場が演じられるが、一方で家族間のいさかいを描きながらもその実、家族の深い結びつきを描いていた作品だったと思う。

ここに描かれている四姉妹は谷崎の「細雪」とはまた違う四姉妹で、それぞれが違った愛の世界にいる。
未亡人の長女は不倫相手とのただならぬ仲にいる。
それが、ウナギの出前をとった時にバレてしまうのだが、いやはや滑稽に描かれ包括絶倒だ。
次女は一見平和相でありながらも夫に対する猜疑心を抱いている。
それを確信する時の、薄笑いを浮かべながらのつぶやきと、その後の時間をかけない処理は心情を想像させるに十分なのだが、どこか滑稽。
三女は恋愛下手でいまだに独身、自由奔放に生きていると感じている四女に嫉妬している気配だ。
その思いは幼少時のささいな出来事に由来しているらしいことが後で知らされるが、それでも頭脳明晰、正確ブスを思わせる行動が続く同情の対象者だ。
末っ子は一般的にはどうかと思われる男と同棲中なのだが、やはり三女だけにはライバル心を持っているといった具合。
四姉妹それぞれが満たされぬ愛の中に生きていて、そして阿修羅の如き本音での闘争と生きざまを見せるのだが、当の本人達は真剣なのだろうけど見ている我々には滑稽に見える出来ごとのオンパレードで、クスクス笑いが絶えない。

姉妹の言い争いを描き、会話の中にちょっとした嫌味を見せがらも、家族や親子の本当の感情などが随所で伝わってくるような描き方をしている。森田芳光の演出はそれらをユーモアをもって描き、家族の思いやりをどこか笑ってしまうキャラクター達に演じさせている。ともすれば重くなりそうなテーマだが、それを面白おかしいまるで喜劇映画の様な雰囲気で終始一貫押し通している。
仲代、八千草の両親は物静かで言葉少なだが、結局すべてお見通しよといったものを感じさせ、流石は長い人生を生きてきた老人たちの年輪をピシャリと決めていた。
四姉妹は、結局は家族が好きなのだ。母の存在がまた姉妹を姉妹たらしめていたのだと思う。
立派な親にはいい子が育つ。はたして我が家の一人娘は…。



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