おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

身代金

2021-12-12 08:52:38 | 映画
「身代金」 1996年 アメリカ


監督 ロン・ハワード
出演 メル・ギブソン
   レネ・ルッソ
   ブローリー・ノルティ
   ゲイリー・シニーズ
   デルロイ・リンドー
   リリ・テイラー

ストーリー
ここ10年で全米で五指に入るまでに急成長した航空会社の社長トム・ミューレンは、目的のためには手段は選ばないやり方で現在の地位を築いてきた。
美しい妻ケイトと9歳の息子ショーンに囲まれ、人生の絶頂にあったかに見えた。
そんなある日、ショーンが何者かに誘拐され、「200万ドル用意しろ」という電子メールが送られてきた。
事件を迅速に解決したい彼は、犯人の要求通りに身代金を払おうとするが、ショーンの身を案じるケイトはFBIに事件を委ね、ホーキンス捜査官以下の対策チームが到着する。
犯人グループの黒幕は市警のベテラン刑事ジミー・シェイカーで、仲間は彼の情婦マリス、チンピラのカビーとクラークの兄弟、コンピューターの専門家マイルスだった。
”犯人一味はショーンを解放する気などないのではないか”という恐ろしい疑念にとりつかれたトムに犯人から電話が入る。
ショーンの生存を確認し、新たな希望が沸いたトムは、犯人に身代金を渡すことを断固拒む。
TV局に向かった彼は特別番組を組ませ、200万ドルの札束の山を前に「これは渡さない。お前の首に懸けた賞金にする」と犯人に対して宣戦布告。
誘拐犯人を脅迫するという前代未聞の行為は犯人に動揺を与え、ジミーはケイトに接触して賞金を取り下げなければ息子を殺すと脅迫するが、それを知ったトムは逆に賞金を倍額につり上げた。
自分の身が危ないと察したジミーは3人の仲間を口封じのために殺し、その際にマリスと撃ち合って負傷した。
彼は犯人のアジトを偶然発見し、ショーンを救った英雄として脚光を浴びる。
傷も癒えたジミーは高飛びするため、懸賞金の400万ドルを受け取りにトムの前に現れた。


寸評
誘拐事件を扱った作品は黒澤明の「天国と地獄」、大河原孝夫の「誘拐」、伊藤俊也の「誘拐報道」など、日本映画にも名作が多い。
外国映画に於いても、パク・チャヌクの「オールド・ボーイ」、ウィリアム・ワイラーの「コレクター」、ジョナサン・デミの「羊たちの沈黙」などちょっと毛色の変わった誘拐映画が存在している。
誘拐事件を扱った作品が数多く撮られているのは、描く題材として変化に富みエンタメ性を発揮しやすい為ではないかと想像する。
僕が推理小説を読み漁っていた頃、高木彬光の「誘拐」に出会い、なかなか面白い筋立てで書かれているなと、意表を突いた着想に感心した事を思い出す。
「身代金」も誘拐を扱った作品だが、「誘拐」と同様に意表を突いた展開でうならせる。

身代金目的の誘拐事件を描いた作品における最大のハイライトは誘拐犯との身代金交渉と受け渡し、そして人質の救出場面である。
通常電話を通じて行われる金額交渉は被害者側に与えられた犯人との接触機会である。
多くの場合、警察が分からないように被害者側に居て、犯人の電話を盗聴し逆探知を試みるのだが、それで居所が分かったためしはない。
犯人側にとって誘拐事件の唯一の弱点は、身代金受け取りの為に最低一回は姿を現さなくてはならないことで、必然的に受け渡し場面はハイライトの一つになる。
ここでも犯人と被害者との身代金受け渡しについて電話によるやり取りが繰り返される。
FBIは盗聴、逆探知を試みるが犯人側も心得たもので、音声は変えているし逆探知をされる前に電話を切断するのは誘拐映画の共通事項のようなもので、目新しさはないが及第点の描き方で緊迫感は持続する。
身代金の受け渡し場面も、これまた文字通りのスリルとサスペンスを高めて描かれていて、これも及第点だ。
犯人側に心優しい男がいるのがちょっとした変化となっていて、女ながら非情なマリスとの対比が面白い。
この映画は誘拐映画の抑えるべきところは抑えている作品なのだが、ユニークで観客を驚かせるのが父親が身代金の支払いを拒絶し、逆に犯人に生死にかかわらず身代金と同額の懸賞金をかけることだ。
懸賞金目当てのガセネタの電話が捜査側に何百本も寄せられ、FBIのロニー・ホーキンス捜査官は「こんなひどい捜査妨害は見たことがない」と非難するが、その様子を描いても良かったかもしれない。
人質を取っているのに追い詰められていく犯人側の描写が面白い作品だ。
難があるとすれば主犯ジミーの犯行動機が不明なこと、犯行グループの性格描写が希薄なこと、マリスが子供の殺害を思いとどまる理由がよく分からないことなどだと思う。
そして最大のミスは航空会社の社長でもある主人公のトム・ミューレンがワイロを渡して会社を救ったということへの贖罪を全く描いていないことだ。
トムは「金で何でも解決できると思っている」と犯人から言われているが、反対に犯人に「信用できる人間なら身代金を払っていた」と言っている。
それぞれの人物性を描きこめばもっと面白い作品になっていたような気がする。
しかし被害者側が犯人に懸賞金をかけると言う発想は新鮮で、その着想がうまく生かされた作品であることは間違いない。


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