おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

モリのいる場所

2020-05-24 09:46:11 | 映画
「モリのいる場所」 2018年 日本


監督 沖田修一
出演 山崎努 樹木希林 加瀬亮
   吉村界人 光石研 青木崇高
   吹越満 池谷のぶえ きたろう
   林与一 三上博史

ストーリー
昭和49年の東京。モリと呼ばれる熊谷守一(山崎努)は、夫婦生活52年目になる妻・秀子(樹木希林)と、草木の生い茂る庭付きの一軒家に住んでいる。
モリの庭には、鳥や猫、蟻にめだか、カエルにカマキリと多くの動植物が暮らしている。
モリは毎日、森の番人さながら、毛皮を腰に巻きフェルト帽子を被り補聴器を付け、庭に探検にでる。
庭には新しい生命があふれ、毎日観察してもしきれない生命の神秘にモリは夢中である。
ある時は寝転がって蟻の歩き方を観察し、新しい葉っぱに声をかけ、覚えのない石に思いを馳せ、ある時は30年掘り続けた池のめだかを見に行くのに迷子になる始末。
モリは30年間、家から外に出たことがない。
熊谷家の家事を手伝いに来る、姪っ子の美恵ちゃん(池谷のぶえ)は、モリの手書きの表札が絵と同様お金になると思われ何度も盗まれる「熊谷の表札」問題で頭を抱えている。
そんなモリに看板の文字を書いてほしいと、旅館の主人(光石研)が熊谷家にやってくる。
その場に居合わせた画商の荒木(きたろう)は、書いてもらえることに驚く。
出来上がった文字はというと、「無一物」(むいちぶつ)、モリの好きな言葉だった。
モリの人柄に惚れ、写真を撮り続けている男・藤田(加瀬亮)がアシスタントの鹿島(吉村界人)を連れてやってきたが、虫が苦手と、虫よけスプレーをしだす鹿島に、藤田は切れ気味。
しかし、モリの庭での観察を一緒に経験していくうちに鹿島もいつの間にか、モリのファンになってしまった。
モリの家は、今日も穏やかだ。


寸評
沖田修一監督らしいと言えば沖田修一らしい作品で、ほんわかムードに浸らせてくれるほのぼのとした作品だ。
僕は熊谷守一という画家を知らなかったし、当然その作品を見たこともないが、フィクションとは言え実にユニークな人物であったことがうかがえる。
大笑いするような映画ではないがオフビートな笑いが、主人公モリのユニークな言動とそれを受け絶妙のコンビを見せる妻の秀子のやり取りによってもたらされる。
自由奔放なモリを演じた山崎努、それを懐の深い演技で受け止めた樹木希林という二人の演技を見るだけでも価値のある映画といえる。

熊谷守一という画家を描いた作品だが彼が描く場面や作品は一切出てこない。
夜になると妻の秀子が「学校に行く時間ですよ」と告げると、制作部屋に入っていくシーンがあるくらいだ。
描かれているのはモリの仙人のような言動と、集まってくる人々との交流を通じた理想郷ともいえる世界。
家に集った人々がザ・ドリフターズの話題で盛り上がった後で、天井から落ちてくるはずのないものが突然落ちてくるのだが、ドリフターズを知らない者にとっては「何だこりゃ?」となる。
いかりや長介が出てきそうなギャグが挿入され笑わせる。
美恵ちゃんの池谷のぶえが主役の二人に負けない存在感を見せている。

モリは「もう一度人生をくりかえせるとしたら」と秀子に問いかけると、妻の秀子は「疲れるから嫌だわ」と言う。
するとモリは「俺は何度でも生きるよ。生きるのが好きなんだ」と答える。
30年間もほとんど自宅から出たことがないモリで、仙人のような生活をしているモリなのだが、モリはあれで結構人生を楽しんでいるのだ。
モリにとっては生きていること自体が素晴らしいことで、新しい発見は常に身近にあるものだと言っているようだ。
自宅の庭でも新しい発見があり、見つけた小石を何時間も見つめていても飽きない。
切り株の上を歩き回るアリを眺めていると、左から2番目の足から動き出すことを発見したりする(真偽のほどはわからない)。

隣に大きなマンションが建ち、藤田は思い立ったように屋上に駆け上がる。
そこから見えた景色は、自分が何年もかけて探索し描いた庭が一望のもとに見える。
すごい森のように見えた庭のなんと狭いことか。
モリはそのなかでいつものように木々の間に寝そべってうごめいている。
広さとか大きさとかは関係ないのだ。
自分の生きる世界は自分の中にあり、そこは宇宙よりも広い世界なのだ。
モリが掘った池からアンコウのような男が出てきて、この池は宇宙につながっているから一緒に行こうと誘うが、モリはここに居ると言ってその男を見送る。
モリは自宅の世界に、自分の心の中に宇宙を見出していたと言う事だろう。
自然破壊の問題や経済優先の時代への警鐘を描きたくなるところだが、この映画ではそんな方向には進まず、マンション工事の作業員とモリの予想外の交流を描いているところがいい。


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