「もどり川」 1983年 日本
監督 神代辰巳
出演 萩原健一 原田美枝子 藤真利子 樋口可南子 蜷川有紀
池波志乃 高橋昌也 柴俊夫 加賀まり子 米倉斉加年
ストーリー
今日も苑田岳葉(萩原健一)は、浅草・十二階下の遊廓の千恵(池波志乃)のところに来ていた。
そんな岳葉を外で待つ妻のミネ(藤真利子)は胸を煩っていた。
歌風のことで村上秋峯(米倉斉加年)に破門された岳葉は、その夜、前から心ひかれていた秋峯の妻・琴江(樋口可南子)のところに強引に忍び込み関係をもつ。
二人は駈け落ちの約束をし、琴江は駅で岳葉を待つが、彼は秋峯に姦通罪で訴えられて刑務所に送られた。
刑期を終えた岳葉は、琴江が十二階下に居るという噂を聞いて出かけ、そこで関東大震災に遇う。
その混乱のなか、岳葉はミネを療養所に入れ琴江を探し出すが、彼女は娼婦になっていて岳葉を冷たく突き放すのだった。
首をつろうとしていた岳葉のところに、彼のファンだという音楽学校の学生文緒(蜷川有紀)が訪れた。
文緒は銀行頭取令嬢で、岳葉との交際を親に知られ家からでることを禁じられたが、姉・綾乃(加賀まりこ)のはからいで京都へ演奏旅行した際、桂川のほとりの旅館で岳葉と落ちあった。
岳葉から心中を持ちかけ、手紙で琴江に知らせるが返事は来ない。
心中は未遂に終わり、それを詠った桂川情歌で岳葉は有名になった。
そして自分が誰かの見替わりだと気づいた文緒は自殺してしまう。
ミネを見舞った療養所で、岳葉はもと詩人で今は社会主義運動家の友人・加藤の妻・朱子(原田美枝子)と知り合った。
加藤(柴俊夫)は胸を煩っていたが、大杉栄が殺されてから過激になり、持ち歩いていた爆弾で彼を追って来た警官と共に爆死してしまう。
岳葉は朱子に心中をもちかけ、知らせを聞いた琴江が二人のいる旅館にやってきた。
岳葉と琴江が話している間、朱子は岳葉のノートを見つける。
寸評
原作は連城三紀彦の「戻り川心中」なのだが、主人公の苑田岳葉は太宰治がモデルではないかと思われる。
太宰は薬物中毒、女性関係、自殺未遂と苑田岳葉よりもひどい経歴の持ち主だと思うが、この作品での苑田岳葉という男も実に自分勝手な人間として描かれている。
神代辰巳は日活ロマンポルノで秀作を連発した監督だが、本作もその延長線上にあるものの尺が延びただけで作品としての密度は薄い。
セリフは聞き取りにくいところが多々あり、主人公は女好きなだけという印象で、それぞれの女性に惚れた理由がよく分からない。
本当に心から惚れていたのかどうかも疑問である。
心中事件を起こすのも、それをネタにして名声を得るためという打算的な男でもある。
あらましを言えば、岳葉は吐血した妻を放置して師の妻である琴江にチョッカイを出し、娼婦の千恵の元に入り浸り、琴江に「自分と心中してくれないと他の女と心中する」と言って脅し、彼女の身代わりとして文緒と心中を図り、文緒が自殺すると、その責任を琴江に押し付ける。
友人の妻・朱子と知り合い心中未遂を計画するが朱子に見破られる。
朱子が死に、それを見ていた琴江も自殺し、それを知った岳葉も自殺すると言ったおどろおどろしい物語である。
主人公の萩原健一相手に女優陣が大胆ヌードを惜しげもなく繰り広げて、安物のエロ映画を見ている気分になるのだが、演じているのは無名の女優ではない。
妻・ミネの藤真利子、村上秋峯の妻で遊郭の女となる琴江の樋口可南子が裸体をさらせば、遊廓の千恵を演じる池波志乃も同様だ。
演出家・蜷川幸雄を叔父に持つ文緒の蜷川有紀も例外ではない。
蜷川有紀はキャスティング・クレジットで新人となっているが、すでに1981年の根岸吉太郎作品「狂った果実」でヒロインを演じている。
全体的にはダラダラした感じがあり、苑田岳葉という男の女性遍歴を描いているのか、エゴイスチィックな男に翻ろうされる女性たちを描いているのかよく分からない。
内容的に2時間以上の尺が必要だったのかどうかも疑問である。
関東大震災における朝鮮人の虐殺事件や大杉栄事件などを描く必要が何故あったのかにも疑問がわく。
兎に角、余分なエピソードが多くて間延び感を感じてしまうのが欠点のように思う。
岳葉が朱子と舟に乗って心中を行うまでも非常に長く感じる。
大芝居だけが目に付くシーンとなっている。
何だかあら捜しをしたくなるような作品で、物足りなさを感じる。
しかし、最後のテロップは何だったんだろう?
苑田岳葉って実在の人物だったの?
何を描きたかったのか、よくわからん映画だなあ・・・。
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