おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

そして父になる

2019-09-19 10:40:00 | 映画
「そして父になる」 2013年 日本


監督 是枝裕和
出演 福山雅治 尾野真千子 真木よう子
   リリー・フランキー 二宮慶多
   横升火玄 風吹ジュン 國村隼
   樹木希林 夏八木勲 中村ゆり
   高橋和也 田中哲司 井浦新
 
学歴、仕事、家庭といった自分の望むものを自分の手で掴み取ってきて、これまで順当に勝ち組人生を歩んできた大手建設会社のエリート会社員・良多(福山雅治)。
妻みどり(尾野真千子)と6歳になる息子・慶多との3人で何不自由ない生活を送っていた。
しかしこの頃、慶多の優しい性格に漠然とした違和感を覚え、不満を感じ始める。
そんな時、自分は成功者だと思っていた彼のもとに、病院から連絡が入る。
それは、良多とみどりの子が赤ん坊の時に取り違えられた他人の子だというものだった。
6年間愛情を注いできた息子が他人の子だったと知り、愕然とする良多とみどり。
相手は群馬で小さな電器店を営む貧乏でがさつな夫婦、斎木雄大(リリー・フランキー)とゆかり(真木よう子)の息子、琉晴。
良多たちは取り違えられた先の雄大とゆかりら斎木一家と会うようになる。
両夫婦は戸惑いつつも顔を合わせ、今後について話し合うことに。
病院側の説明では、過去の取り違え事件では必ず血のつながりを優先していたという。
みどりや斎木夫婦はためらいを見せるも、早ければ早いほうがいいという良多の意見により、両家族はお互いの息子を交換する方向で動き出す。
血のつながりか、愛情をかけ一緒に過ごしてきた時間か。
良多らの心は揺らぐ……。


寸評
これは取り違えで他人の子を育てていたという信じられないような事実を突きつけられて悩む二組の夫婦の物語であると同時に、主人公が父として人間として成長していく物語でもある。
その父親役を父親の経験がない福山雅治がいい感じで演じていて見直した(ちょっと失礼かな)。
彼の心の変化こそが、この映画の感動の源であり、カメラを通じたエピソードの伏線の張り方といい、実に丁寧に静かにストーリー立てしていて、それを支えていたのが俳優たちの見事な演技だった。
この映画にはキャスティングの妙がある。4人の親たちはピタリとはまっていた。
特に斎木家のリリー・フランキーと真木よう子の存在感は際立っていた。
子供と動物が出てくる映画はそれに喰われることが多々あるが、この作品の子供たちの自然な演技もまた素晴らしい。特に、愛されてはいるが優しすぎる性格に不満を持たれている慶多を演じた二宮慶多君がいい。
彼が私立の面接試験で入学塾の先生に言われた通りのウソの模範解答をすることから映画が始まる。
その時、お父さんは凧上げが上手だと答えたりしているのだが、これがすべての伏線となっていたように思える。
言われたままに素直に答える慶多の素直さや優しさを表すと同時に、野々宮家にある本人達も気がつかない欺瞞的な家庭環境を端的にあらわしていたように思う。
だからその後に「そして父になる」のタイトルが出たのではないかなと思うのだ。

斎木夫妻に対し傲慢な態度を繰り返す主人公に嫌悪感を抱くが、斎木は善で野々宮は悪という単純図式ではない。斎木も妻の意見に相乗りする軽薄さを見せたかと思えば、食事代なども病院に請求するセコさを持ち合わせ、夫婦して慰謝料の額を非常に気にしている嫌味な一面をのぞかせる。裕福ではなさそうな斎木雄大は新幹線代が病院から出たので慶多の入学式にやってくる。そちらの面では首尾一貫している人物である。
そのくせ、「金では買えへんもんもあるんや!」と叫ばせている。
自宅の庭で夏の計画を放して聞かせた時に、それを喜んでいる慶多の様子がそれとなく写し込まれ、この男の父親としての魅力をそれとなく見せて、ダメ父親でありながらいい父親でもある。野々宮良多の対極者としての存在だ。入学式で「どう見ても慶多という顔になっている」とつぶやくのは、環境が人を作ると言っているようでもあり、血よりも時間だと言っているようでもあった。
野々宮良多も上から目線の嫌な奴なのだが、仕事一辺倒で毎晩帰宅が遅く子供と全く係わりあわないという風でもないのだ。それなりの愛情を子供に見せ、少なからず父親をやってはいるのだ。
妻のみどりは仕事人間のように言うが、画面上では仕事一辺倒で子供に無関心な父親ではない。
このあたりの微妙性が現実的で、我々をしてどちらか一方に与することをさせない。

「やっぱりそういうことか…」とつぶやく野々宮良多の精神状況。
「母親なのになぜ気がつかなかったのか」と苦悩を見せる妻みどりの気持ち。
そして彼女の「だんだん可愛くなってくる。それまで育ててきた息子に悪い」という言葉に涙してしまう。
そして、これからどうなっていくんだろう?でもきっていい方向に行くんだろうなと思わせるラストは好きだ。
でもセミの話はちょっと説教臭かったな…。
是枝作品は総じてそうなのだが、ショッキングな内容の割にはそれを静かに静かに描いていく。
僕はどちらかと言えばそんな映画が好きで、この作品も期待を裏切らない秀作。


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