シリーズの記念すべき第1作は2019年8月15日に掲載しています。
バックナンバーからお読みください。
今回は第3作。
「仁義なき戦い 代理戦争」 1973年 日本
監督 深作欣二
出演 菅原文太 小林旭 渡瀬恒彦 山城新伍
池玲子 中村英子 金子信雄 成田三樹夫
加藤武 山本麟一 川谷拓三 汐路章
内田朝雄 遠藤辰雄 室田日出男
田中邦衛 丹波哲郎 梅宮辰夫
ストーリー
昭和三十五年四月、広島市最大の暴力団村岡組の第一の実力者杉原が九州のやくざに殺された。
杉原の兄弟分打本組々長打本はこの時、きっちりと落し前をつけなかったために、村岡組の跡目をめぐって熾烈な抗争が起こることになった。
山守も村岡組の跡目に野心をもつ一人で、広島に顔の利く広能を強引に山守組傘下に復縁させた。
一方、打本も、村岡組の幹部江田と共に広能と兄弟盃を交わし、更に日本最大の暴力団、神戸の明石組へ広能を介して盃を申し入れ、打本は明石組々長明石辰男の舎弟相原と兄弟盃を交わした。
しかし、明石組の勢力をバックに村岡組の跡目を狙う打本の思惑は村岡の気分を害することになり、跡目は山守に譲られ、山守組は広島最大の組織にのし上った。
その頃、山守系の槙原の舎弟分浜崎と打本の舎弟分小森が岩国でもめていた。
山守は傘下の者を督励して岩国へ兵隊を送った。
打本と兄弟分の広能や江田はそれには参加しなかったが、筋目を通すために松永、武田と共に打本に盃を返したために孤立無援になった打本は指を詰め、明石組へと逃れた。
明石組は早速、最高幹部の宮地や相原を広島に送った。
やむなく広能たちは打本に詫びを入れ、浜崎と小森は打本の仲裁で手打ち、という事になった。
これは事実上山守組の敗北である。
やがて、打本は兼ねての念願が叶って明石辰男から盃を受け、その傘下に加った。
結果、明石組は遂に広島にくさびを打ち込んだことになった。
山守は対抗上、明石組に対抗できる唯一の暴力団、同じ神戸の神和会と縁組みすることにして、その斡旋を広能に依頼するが、広能が冷たく拒否したことで数日後、広能は槙原の若い者に命を狙われた。
寸評
第三作にして文字通りの仁義なき戦いが繰り広げられる。
このシーリーズにおいては優柔不断ながら狡猾な金子信雄の山守が狂言回し的に描かれているのだが、本作では同様の人物として加藤武の打本が登場し、もめ事の元凶となる。
金子信雄と同様に加藤武は根性がないくせに世渡りだけはしていくヤクザの親分を面白く演じている。
打本は兄弟分が殺されたのに、理由をつけて報復を行わないことで意気地のない男だとして描かれる。
実力のない打本は巨大組織である神戸の明石組の後ろ盾を得るために、明石組に顔が利く広能と兄弟盃を交わし、その縁で明石組傘下の相原と兄弟盃を交わすことに成功する。
ところが打本はその相原に内緒で岡山の親分とも渡りをつけていたりと節操がない。
上に立つ山守や打本があやふやな態度をとるので、広能や松永たちはあっちへ行ったり、こっちへ行ったりで、生き残りをかけて必死である。
ずる賢く見える田中邦衛の槙原も生き残るために必死なのかもしれない。
筋目や義理など存在しない文字通りの仁義なき戦いが繰り広げられていくのだが、目まぐるしくていったい今それぞれがどんな位置関係に居るのか分からなくなってくる。
カメラワーク、テーマ音楽と共にこのシリーズに共通するナレーションによって説明されるが、それでも誰と誰とが味方で、誰と誰とが敵なのかわからないくらい入り組んでくる。
そして他地区で起きたそれぞれの息のかかった組と組とのもめ事に首を突っ込んでいく、これまた文字通りの代理戦争が勃発する。
現実の世界でも覇権争いは常に起きていて、米ソの代理戦争は地球上のあちこちで起きていた。
ソ連が崩壊すると米国と勢力を伸ばしてきた中国の代理戦争が起き、ロシアとの代理戦争も起きている。
日本の政治社会でも地方選挙における、中央の派閥親分の代理戦争選挙が行われたりしている。
どの世界においても覇権争いには代理戦争がつきもののようである。
そして傷つくのは代理戦争を仕掛けている者ではなく、直接戦っている現場の者たちなのだ。
紛争地域の一般市民たちであり、この映画では若者たちだ。
その意味でやはりラストシーンは印象に残るものとなっている。
渡瀬恒彦の猛は母親も見放すどうしようもない青年であるが、なんとか手柄を上げたいと意気込んでいる。
仲間の裏切りもあって襲撃に失敗し、逆に殺されてしまう。
猛の葬儀が執り行われて、終わったところで広能が襲われる。
抱いていた遺骨が投げつけられ相手の車によって無残に曳きつぶされる。
母親はそれを見て泣き崩れ、「いつも犠牲になるのは若者で、その死が報いられたことはない」とのナレーションがかぶさる。
骨壺が砕け散り、散らばった骨を拾い上げ握りしめる菅原文太の広能昌三。
このラストシーンが秀逸で、このラストシーンを描くためにずっと物語が展開されてきたのだと思う。
「仁義なき戦いシリーズ」においては強烈なキャラクターの人物が登場して異彩と存在感を示している作品もあるが、この「代理戦争」においてはやはり菅原文太である。
広能昌三は彼の当たり役で、このシリーズは彼にとっても代表作になっている。
バックナンバーからお読みください。
今回は第3作。
「仁義なき戦い 代理戦争」 1973年 日本
監督 深作欣二
出演 菅原文太 小林旭 渡瀬恒彦 山城新伍
池玲子 中村英子 金子信雄 成田三樹夫
加藤武 山本麟一 川谷拓三 汐路章
内田朝雄 遠藤辰雄 室田日出男
田中邦衛 丹波哲郎 梅宮辰夫
ストーリー
昭和三十五年四月、広島市最大の暴力団村岡組の第一の実力者杉原が九州のやくざに殺された。
杉原の兄弟分打本組々長打本はこの時、きっちりと落し前をつけなかったために、村岡組の跡目をめぐって熾烈な抗争が起こることになった。
山守も村岡組の跡目に野心をもつ一人で、広島に顔の利く広能を強引に山守組傘下に復縁させた。
一方、打本も、村岡組の幹部江田と共に広能と兄弟盃を交わし、更に日本最大の暴力団、神戸の明石組へ広能を介して盃を申し入れ、打本は明石組々長明石辰男の舎弟相原と兄弟盃を交わした。
しかし、明石組の勢力をバックに村岡組の跡目を狙う打本の思惑は村岡の気分を害することになり、跡目は山守に譲られ、山守組は広島最大の組織にのし上った。
その頃、山守系の槙原の舎弟分浜崎と打本の舎弟分小森が岩国でもめていた。
山守は傘下の者を督励して岩国へ兵隊を送った。
打本と兄弟分の広能や江田はそれには参加しなかったが、筋目を通すために松永、武田と共に打本に盃を返したために孤立無援になった打本は指を詰め、明石組へと逃れた。
明石組は早速、最高幹部の宮地や相原を広島に送った。
やむなく広能たちは打本に詫びを入れ、浜崎と小森は打本の仲裁で手打ち、という事になった。
これは事実上山守組の敗北である。
やがて、打本は兼ねての念願が叶って明石辰男から盃を受け、その傘下に加った。
結果、明石組は遂に広島にくさびを打ち込んだことになった。
山守は対抗上、明石組に対抗できる唯一の暴力団、同じ神戸の神和会と縁組みすることにして、その斡旋を広能に依頼するが、広能が冷たく拒否したことで数日後、広能は槙原の若い者に命を狙われた。
寸評
第三作にして文字通りの仁義なき戦いが繰り広げられる。
このシーリーズにおいては優柔不断ながら狡猾な金子信雄の山守が狂言回し的に描かれているのだが、本作では同様の人物として加藤武の打本が登場し、もめ事の元凶となる。
金子信雄と同様に加藤武は根性がないくせに世渡りだけはしていくヤクザの親分を面白く演じている。
打本は兄弟分が殺されたのに、理由をつけて報復を行わないことで意気地のない男だとして描かれる。
実力のない打本は巨大組織である神戸の明石組の後ろ盾を得るために、明石組に顔が利く広能と兄弟盃を交わし、その縁で明石組傘下の相原と兄弟盃を交わすことに成功する。
ところが打本はその相原に内緒で岡山の親分とも渡りをつけていたりと節操がない。
上に立つ山守や打本があやふやな態度をとるので、広能や松永たちはあっちへ行ったり、こっちへ行ったりで、生き残りをかけて必死である。
ずる賢く見える田中邦衛の槙原も生き残るために必死なのかもしれない。
筋目や義理など存在しない文字通りの仁義なき戦いが繰り広げられていくのだが、目まぐるしくていったい今それぞれがどんな位置関係に居るのか分からなくなってくる。
カメラワーク、テーマ音楽と共にこのシリーズに共通するナレーションによって説明されるが、それでも誰と誰とが味方で、誰と誰とが敵なのかわからないくらい入り組んでくる。
そして他地区で起きたそれぞれの息のかかった組と組とのもめ事に首を突っ込んでいく、これまた文字通りの代理戦争が勃発する。
現実の世界でも覇権争いは常に起きていて、米ソの代理戦争は地球上のあちこちで起きていた。
ソ連が崩壊すると米国と勢力を伸ばしてきた中国の代理戦争が起き、ロシアとの代理戦争も起きている。
日本の政治社会でも地方選挙における、中央の派閥親分の代理戦争選挙が行われたりしている。
どの世界においても覇権争いには代理戦争がつきもののようである。
そして傷つくのは代理戦争を仕掛けている者ではなく、直接戦っている現場の者たちなのだ。
紛争地域の一般市民たちであり、この映画では若者たちだ。
その意味でやはりラストシーンは印象に残るものとなっている。
渡瀬恒彦の猛は母親も見放すどうしようもない青年であるが、なんとか手柄を上げたいと意気込んでいる。
仲間の裏切りもあって襲撃に失敗し、逆に殺されてしまう。
猛の葬儀が執り行われて、終わったところで広能が襲われる。
抱いていた遺骨が投げつけられ相手の車によって無残に曳きつぶされる。
母親はそれを見て泣き崩れ、「いつも犠牲になるのは若者で、その死が報いられたことはない」とのナレーションがかぶさる。
骨壺が砕け散り、散らばった骨を拾い上げ握りしめる菅原文太の広能昌三。
このラストシーンが秀逸で、このラストシーンを描くためにずっと物語が展開されてきたのだと思う。
「仁義なき戦いシリーズ」においては強烈なキャラクターの人物が登場して異彩と存在感を示している作品もあるが、この「代理戦争」においてはやはり菅原文太である。
広能昌三は彼の当たり役で、このシリーズは彼にとっても代表作になっている。
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