おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

旅情

2023-05-27 09:30:33 | 映画
「旅情」 1955年 イギリス


監督 デヴィッド・リーン
出演 キャサリン・ヘプバーン ロッサノ・ブラッツィ イザ・ミランダ
   ダーレン・マクギャヴィン マリ・アードン ジェーン・ローズ

ストーリー
アメリカの地方都市で秘書をしていた三十八歳のジェイン・ハドスンは、欧洲見物の夢を実現し、ヴェニスまでやって来た。
フィオリナ夫人の経営するホテルに落着いた彼女は、相手もなくたった一人で見物に出かけ、サン・マルコ広場に来て、喫茶店のテイブルに腰を下した。
しかし、背後からじっと彼女をみつめる中年の男に気づくと、あたふたとそこを去るのであった。
翌日、彼女は浮浪児マウロの案内で名所見物をして歩いた。
通りすがりの骨董店に入ると、そこの主人は昨日サン・マルコ広場で会った男だった。
その日の夕方、ジェインはまたサン・マルコ広場へ行った。
例の男も来たが、彼女に先約があると感ちがいし、会釈して去って行った。
翌日、彼女はまた骨董店へ行ったが、店員の青年から主人は留守だといわれた。
骨董店の主人レナートは、その彼女のホテルを訪れ、夜、広場で会おうと約束した。
その夜の広場でジェインは初めて幸福感に浸り、思い出にくちなしの花を買った。
別れるとき、レナートは彼女に接吻し、明夜八時に会う約束をした。
翌日、彼女は美しく装って広場へ出かけたが、彼の店にいた青年がやって来て、彼が用事でおそくなることを告げた。
青年がレナートの息子であることを聞いたジェインは、彼には妻もいると知って失望し、広場を去った。
ホテルへ追って来たレナートは妻とは別居しているといい、男女が愛し合うのに理屈はないと強くいった。
ジェインはその夜、レナートと夢のような夜を過し、それから数日間、二人は漁村で楽しい日を送った。
ヴェニスへ戻ったジェインは、このまま別れられなくなりそうな自分を恐れ、急に旅立つことに決めた。
発車のベルがなった時、かけつけたレナートの手にはくちなしの花が・・・。


寸評
フェリーニが「フェリーニのローマ」でローマを撮ったように、デヴィッド・リーン監督が「俺がベネチアを撮ったらこうなるんだ」と言っているような作品で、見方によればベネチアの観光映画の印象を抱く作品だ。
僕は普通の日本人にとって海外旅行は夢のまた夢という時代も過ごした世代だが、洋画を見る楽しみの一つとして行ったこともない外国の都市の異国情緒を味わえることもあった。
今では水の都ベネチアを訪問した日本人は数多くいるだろうが、ヨーロッパに行ったことがない僕はベネチア案内をしてもらっているような気持にもなれる作品でもある。
しかもツアーコンダクターはかのキャサリン・ヘプバーンだからこの上ない贅沢である。
キャサリン・ヘプバーンは決して美人ではないが知性と気品と可愛さを兼ね備えた魅力ある女性だ。
その彼女がベネチアの街を歩き回り、カメラはその街を点描していく。
時に街の雰囲気をロングショットで捕らえ、時に名所を写し撮り、時に街角の何気ない光景を写真家の作品よろしくフレーミングして映し出す。
物語にさして関係のない町の景色をかなりの時間をかけて描いているから、僕がこれは観光映画だと感じた理由はきっとそれに違いないと思う。
もう一つの理由は話がたわいないものである事にもある。
旅先の女性が現地の男性と恋に落ちるが結局は悲恋に終わるというだけのものであり、恋愛映画というには二人の気持ちに深く入り込んでいるとも言い難い軽い作品だ。
しかしそれを正々堂々と真正面から描き切っていて、さすがにデヴィッド・リーンと言いたくなる作品でもある。

ジェイン・ハドスンは一人旅を楽しんでいる女性だが、そうは言いながらもどこかで一人旅の淋しさを感じている。
ベネチアの街はカップルが満ち溢れていて、彼女はその姿をうらやんでいるような所がある。
しかし、ジェインは自分に臆病なところがあって特に男性を寄せ付けない。
三十八歳の女性という年齢設定にキャサリン・ヘプバーンが見事にハマっているし、その年齢の女心を流石と言わしめる表情で演じていて正に彼女の独断場といえるシーンが数多くある。
ところがイタリア男は積極的だ。
骨董屋の主人レナートは紳士だが、イタリア人の典型として積極的にジェイン・ハドスンに言い寄ってくる。
ジェイン・ハドスンが宿泊しているホテルを訪ね、自信満々に彼女の心を言い当てながら迫る様子は僕が抱くイタリア男性のイメージ通りだ。
そう言えば国の比較として、イタリアでは食べ物を食べるが、フランス人はソースを食べ、アメリカ人は胃薬を食べると言わせている。
お高く気取ったフランス人と、質より量でブクブク太ったアメリカ人を揶揄しているのだろう。
もしかするとそれはデヴィッド・リーンの三か国に対する印象なのかもしれないが・・・。

狂言回し的な少年が登場して話にアクセントをつけているが、その他にもベネチアガラスのエピソードを挿入したり、キャサリン・ヘプバーンを運河に落としたりしてリラックスできる時間を生み出している。
外国旅行をして、その国のとある街でこの様な恋を出来たら、このような思い出を作れたら、それはそれは楽しい旅だろうとロマンチックな想像をさせてくれる作品だ。


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