「御用金」 1969年 日本
監督 五社英雄
出演 仲代達矢 中村錦之助 丹波哲郎 司葉子 浅丘ルリ子
東野英治郎 田中邦衛 夏八木勲 樋浦勉 西村晃
ストーリー
天保二年の冬、越前鯖江藩領内で奇怪な事件が起った。
黒崎村の漁民が一人残らず姿を消してしまったのだ。
領民たちは、この事件を“神隠し”と呼んで怖れた。
三年後の江戸で浪人脇坂孫兵衛(仲代達矢)が、鯖江藩士の流一学(西村晃)らに急襲された。
孫兵衛は、彼らが、次席家老六郷帯刀(丹波哲郎)によって差向けられたことを知り愕然とした。
その頃鯖江藩は、公儀より一万石を削減され、さらに享保以来の不況で、極度に疲弊していた。
帯刀は、佐渡から産出した御用金を積んだ船が黒崎村沖で遭難した時、漁民たちが拾いあげた金を藩財政建てなおしのために横領し、その秘密を知る漁民をみな殺しにしていたのだった。
帯刀の妹しの(司葉子)の夫である孫兵街が、妻と藩を捨てて出奔したのは、それから間もなくのことだった。
帯刀は、その時竹馬の友孫兵衛に二度と“神隠し”を行なわぬと約束させられた。
だが、藩政改革に自分の政治的生命を賭ける帯刀は、再度の計画を練っていた。
孫兵衛は、帯刀への怒りをこめて鯖江に向ったが、その途中女賭博師おりは(浅丘ルリ子)と知合った。
おりはも神隠しの犠牲者で、年季奉行が明けて村へ帰った時、許婚者も父親もなく、身を落した女だった。
旅を続ける孫兵衛は、やがて、浪人藤巻左門( 中村錦之助)と会った。
一方、藩では、孫兵衛の行動を察知し、剣の木峠で彼を急襲させた。
帯刀配下の高力九内(夏八木勲)の策略で孫兵衛は窮地に陥る。
そして、死闘で傷ついた孫兵衛を救ったのは左門だった。
やがて、帯刀に、金を積んだ御用船が佐渡を出帆したという報告が入った。
そして、鮫ヶ淵村が“神隠し”の舞台に選ばれたのだが・・・。
寸評
僕には五社英雄監督はダイナミックな演出をする監督とのイメージがあるのだが、反面細やかな演出に欠けるところがあるように思う。
「御用金」の着想は面白いと思うのだが、見終るとどこか物足りなさを感じてしまう作品である。
孫兵衛が鯖江藩の宿場にやって来て、待ち構えた高力九内たちとの乱闘でピンチとなり、それを救ったのが女壺振り師おふりなのだが、おふりの作戦は争っているヤクザ同士を乱闘場面に突入させると言うものだった。
黒澤明の「用心棒」ほどの執拗な場面はなくても、二つのヤクザ組織が熾烈を極めた争いをしていることは描いておかないと、鯖江藩の侍たちが争っている所へ斬り込んでいく必然性が余りにも弱い。
いくら縄張り争いがあるとはいえ、藩の侍が斬り合いをしている所に割り込んでいくなどありえないと思える。
当然、彼らの争いの決着はどうなったのか分からず、孫兵衛は混乱に乗じて脱出に成功している。
ストーリー的には納得できても、描き方には手抜き感があるように思う。
同様のことは孫兵衛が捕らえられ縛られて木に吊るされたところから脱出する場面でも言える。
帯刀が何のために手裏剣をロープに投げつけ落下させたのかよく分からない。
帯刀は現場から立ち去って暫くしたところで、配下の一人に孫兵衛の死を確認に向かわせているのだが、それなら捕らえたところで殺しておけば良かったではないかと思うのだ。
孫兵衛の妻はしので帯刀の妹である。
彼女は夫一筋かと言えばそうではなく、兄の帯刀の苦しい立場を擁護するような意見を孫兵衛に言っている。
彼女は兄が大事、お家が大事と考えている女性なのか、それともそれらに逆らっても夫に殉じる女性なのか立場が不明確である。
またその間で悩んでいる風でもないので、彼女は神隠し事件をどう思っていたのだろうと悩んでしまう。
結局、孫兵衛についていくことになるのだろうが、なんだかシラケる彼女の態度に思えた。
第二の神隠し事件は孫兵衛の活躍で阻止されるが、それは基本的な解決にはなっていない。
そもそもの発端は、幕府によって一万石を削減され、さらに享保以来の不況で極度に財政が悪化し、さらに幕府からの要求に応じられなかったら取りつぶしにあうかもしれないという事情からであったはずだ。
藩は財政悪化から抜け出す手立てを失ったわけで、もしかすると藩士の600名とその家族は路頭に迷うことになったのかもしれないのだ。
藩は藩の存続と藩士を守るために小の虫である領民を殺し、幕府は幕府の存続の為に小藩を犠牲にするという権力者のエゴイズムは残ったままなのだ。
そのことの矛盾を藤巻左門が役目を投げ出すことで片付けているのは余りにも訴えが弱い。
権力者や議員が自分の立場や選挙のことしか考えず、国民のことを考えていないような振る舞いをする現在の政治の在り方に対する憤りの様なものが描かれていても良かったのにと思うのは欲張り過ぎだろうか。
五社演出として、孫兵衛と帯刀の対決は面白い描き方をしている。
極寒の中での対決で、寒さの為に手がかじかんで思い通りに使えない。
孫兵衛はしのの肌で温めてもらい、帯刀は松明の火で温め、お互いに自分の手に息を吹きかけて戦う。
もっと壮絶な戦いであっても良かったが、一対一の決闘場面としてはユニークな描き方で面白いと思った。
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