末つ森でひとやすみ

映画や音楽、読書メモを中心とした備忘録です。のんびり、マイペースに書いていこうと思います。

黄金のアデーレ 名画の帰還

2016-01-16 08:39:16 | 映画のはなし
今年最初の更新です。

1907年、クリムトが手掛けた名画「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像I」は、
ウィーンに暮らす、ブロッホ=バウアー家のサロンに飾られていました。
しかし、1938年に、ヒトラー率いるナチスがオーストリアを併合すると、
ユダヤ系のブロッホ=バウアーは迫害され、財産は没収。肖像画も略奪されます。
アデーレの姪マリアが、オーストリア政府と裁判で争い、正統な持ち主として
肖像画を取り戻したのは、第二次世界大戦終結から60年を経た、2006年のことでした。

戦時下におけるナチスの美術品強奪は、その数、約60万点にものぼると言われ、
内、10万点は未だに、本来の所有者に戻されていないそうです。

「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像I」は、幸運にも返還が叶った作品であり、
映画は史実をベースに描かれている訳ですが、裁判の行方を見守る "現代" のシーン、
ナチスの監視を逃れて、亡命を図る "過去" のシーン、いずれもが、
結末がわかっているにもかかわらず、最後まで緊張感あふれる作りとなっていました。

勝訴した直後のマリアが、絵は取り戻せても、戦争に翻弄され、狂わされた運命は
戻らないことを痛感しているシークエンスは、短いながらも、考えさせられます。
マリア自身はアメリカに渡って助かりましたが、老いた両親はウィーンに残りました。
家族を捨てて自分の命を永らえさせた、という自責の念が、彼女にはあるのですね。

幸福な娘時代の思い出が、忌まわしい記憶に直結し、封印せざるを得ない不幸。

かつて過ごしたオーストリアに、再び足を踏み入れることを拒み、
その地で使っていた、ドイツ語で話すことも拒否する場面が、映画中盤までに
さりげなく登場しますが、マリアの歩んだ人生が窺われる箇所でした。

また、ウィーンで開かれる審問会の準備に際し、マリアたちに協力してくれた
地元のジャーナリストは、父親が戦時中に熱心なナチ党員だった葛藤を抱えています。

戦争は、人々の大切なものを容赦なく破壊し、すべてを滅茶苦茶にして奪い去るのだと
改めて思い至らせる点が、エンターテイメント作品ながら、手堅くまとめてありました。

ところで、事前情報をあまり仕入れていなかった為、本編を見て一番驚いたのは、
主人公のマリアだけではなく、彼女とチームを組んだ、駆け出し弁護士のランディも
ユダヤ系で、なんと、作曲家シェーンベルクの孫にあたる、ということでした。
実際、資本家階級のブロッホ=バウアー家は、ウィーンの芸術家たちのパトロンであり、
回想シーンで描かれた、当時の上流社会の暮らし振りの壮麗なこと!
オーストリア=ハンガリー帝国末期の19世紀末から、1938年のアンシュルス前までの、
いわゆる「世紀末ウィーン」の文化度を感じさせる作品でもありました。

鑑賞後、購入したプログラムに目を通しました。なかなか読み応えがあり、満足です。

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   映画 『黄金のアデーレ 名画の帰還』

  ◇原題:Woman in Gold
  ◇関連サイト:公式サイト ( 日本版 )、IMDb ( 関連ページ
  ◇鑑賞日:2016.1.6. 映画館にて


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