「逃げ恥」が話題になっている。「逃げ恥」とは、テレビドラマ「逃げ
るは恥だが役に立つ」の略称である。このドラマは先週の放送で最終回
を迎え終了となった。新垣結衣と星野源が主演のこのドラマを、私も毎
週ぼんやりとだが、楽しく見ていた。
リタイア・オジジ・ブロガーを自認する私は、ブログのネタを仕入れる
ためもあって、いくつかのサイトを閲覧することを日課にしている。そ
のうちの一つでも、このドラマのことが話題として取り上げられていた。
さっそく読んでみた。面白かった。ドラマ以上に面白かった。「ああ、
そういう主張が込められていたのか」と教えられ、その斬新な見方に感
心させられもした。ネット記事には珍しい秀逸で本格的な評論だと思う
ので、この場をお借りして読者諸賢にも紹介したい。
以下で紹介するのは、「リテラ」に12月20日付で掲載された《「愛情の
搾取」問題は最終回でどう着地するのか?『逃げ恥』が疑い続けた男と
女、結婚と恋愛をめぐる価値観》である。
感心させられた点は多々あるが、その一つは、たとえばこんな具合であ
る。長ったらしいタイトルだが、その中で取り上げられている「愛情の
搾取」問題が、安倍政権の「女性の活躍」政策に対する異議申し立てだ
なんて、だれが考えただろうか。少なくとも私は、ドラマを見ていると
き、そんなふうには考えなかった。
まず「愛情の搾取」問題とは、どういう問題なのか。それは、会社の人
員整理に巻き込まれて、近々職を失う予定の平匡(星野源)が、本当に
結婚すれば家事代行のための経費がかからず貯蓄に回すことができると
無神経なプロポーズをしたのに対し、みくり(新垣結衣)が「愛情の搾
取に断固反対します!」と宣言して求婚を拒否したシーンに含まれる問
題である。「え?何か問題でもあるの?」と訝る向きも少なくないだろ
うが(私もその一人だった)、「リテラ」の評者によれば、ここで描か
れているのは、以下のような大きい社会問題なのである。
「みくりは家事労働を「仕事」として引き受け平匡に雇用されてきたの
に、お互いが恋愛関係になった途端、平匡は家事を無償労働として提案
した──。つまり愛情で結ばれた関係であるならば見返りなど求めず家
族のために尽くすのは女性として当たり前、という社会で“常識”とされ
ている価値観を、みくりは愛情を盾にした「搾取」だと批判したのだ。
いわゆる安倍政権の「女性の活躍」とは、女性に“安い労働力”として社
会進出を推奨する一方、家事や子育て、介護などの再生産労働を無償で
押し付け、女性たちに二重負担を迫っている。社会はこの無償労働を
「女性は家事が得意」「女には母性がある」などという社会的につくり
あげられた性役割と「家族への無償の愛」という“尊さ”を女性たちに突
きつけて、二重負担を正当化してきた。そういった愛情につけ込んだ女性
への脅しを、『逃げ恥』は「搾取」として明確に俎上に載せたのである。」
ここに示される評者の分析力に、私は率直に脱帽する。
それだけではない。ドラマでは、こんなシーンがあった。みくりが平匡
に抱きつきながら「いいですよ、そういうことしても。平匡さんとなら
」と思い切った告白をしたのに、平匡は自分に女性経験がないことを彼
女に知られることを恐れ、「無理です。そういうことをしたいんではあ
りません。ごめんなさい、無理です」と拒絶したシーンである。
このシーンを見たとき、私は「あらま、もったいない」と思っただけだっ
たが、評者によれば、ここには、レッテル貼り――「男ならこうすべき、
女だったらこうあるべし」的な性別によるレッテル貼り――によって苦し
められている男女の姿が描かれている。
平匡を演じる星野源は、自らがパーソナリティーをつとめるラジオ番組
で、こう語っているという。
「平匡が拒否するというエンディングになったときに、やっぱりみんな
怒っている怒り方が、メールとかを見ていると、『男なのに何やってんだ!
女性から申し込まれたそういう誘いを男がなぜ断るか?』って怒ってい
るんだけど、それって、平匡なり、みくりなりがずっと苦しんできた“男に
生まれたから”っていうレッテル、“女に生まれたから”っていうレッテル。
そういうものとまったく一緒なんですよね」
社会によるレッテル貼りの根深さと、それによって苦しめられる男女の
姿――。その姿を描くことによって、このドラマは、社会の価値観に絡め
取られるのではなく、社会観の価値を疑ってみる、そういう姿勢の大切
さを訴えているというのである。
この「逃げ恥」は、朝日新聞の名物コラム「天声人語」でも取り上げて
いたが、「リテラ」の評論を読んだ後では、こちらは少なからず見劣り
を感じる。
朝日のウェブ記事は有料制で、(一日一本以上は)料金を払わないと読
めない仕組みになっている。「天声人語」に比べれば随分と優れている
「リテラ」の評論のほうは、無料で、心おきなく読めるんですけど。
るは恥だが役に立つ」の略称である。このドラマは先週の放送で最終回
を迎え終了となった。新垣結衣と星野源が主演のこのドラマを、私も毎
週ぼんやりとだが、楽しく見ていた。
リタイア・オジジ・ブロガーを自認する私は、ブログのネタを仕入れる
ためもあって、いくつかのサイトを閲覧することを日課にしている。そ
のうちの一つでも、このドラマのことが話題として取り上げられていた。
さっそく読んでみた。面白かった。ドラマ以上に面白かった。「ああ、
そういう主張が込められていたのか」と教えられ、その斬新な見方に感
心させられもした。ネット記事には珍しい秀逸で本格的な評論だと思う
ので、この場をお借りして読者諸賢にも紹介したい。
以下で紹介するのは、「リテラ」に12月20日付で掲載された《「愛情の
搾取」問題は最終回でどう着地するのか?『逃げ恥』が疑い続けた男と
女、結婚と恋愛をめぐる価値観》である。
感心させられた点は多々あるが、その一つは、たとえばこんな具合であ
る。長ったらしいタイトルだが、その中で取り上げられている「愛情の
搾取」問題が、安倍政権の「女性の活躍」政策に対する異議申し立てだ
なんて、だれが考えただろうか。少なくとも私は、ドラマを見ていると
き、そんなふうには考えなかった。
まず「愛情の搾取」問題とは、どういう問題なのか。それは、会社の人
員整理に巻き込まれて、近々職を失う予定の平匡(星野源)が、本当に
結婚すれば家事代行のための経費がかからず貯蓄に回すことができると
無神経なプロポーズをしたのに対し、みくり(新垣結衣)が「愛情の搾
取に断固反対します!」と宣言して求婚を拒否したシーンに含まれる問
題である。「え?何か問題でもあるの?」と訝る向きも少なくないだろ
うが(私もその一人だった)、「リテラ」の評者によれば、ここで描か
れているのは、以下のような大きい社会問題なのである。
「みくりは家事労働を「仕事」として引き受け平匡に雇用されてきたの
に、お互いが恋愛関係になった途端、平匡は家事を無償労働として提案
した──。つまり愛情で結ばれた関係であるならば見返りなど求めず家
族のために尽くすのは女性として当たり前、という社会で“常識”とされ
ている価値観を、みくりは愛情を盾にした「搾取」だと批判したのだ。
いわゆる安倍政権の「女性の活躍」とは、女性に“安い労働力”として社
会進出を推奨する一方、家事や子育て、介護などの再生産労働を無償で
押し付け、女性たちに二重負担を迫っている。社会はこの無償労働を
「女性は家事が得意」「女には母性がある」などという社会的につくり
あげられた性役割と「家族への無償の愛」という“尊さ”を女性たちに突
きつけて、二重負担を正当化してきた。そういった愛情につけ込んだ女性
への脅しを、『逃げ恥』は「搾取」として明確に俎上に載せたのである。」
ここに示される評者の分析力に、私は率直に脱帽する。
それだけではない。ドラマでは、こんなシーンがあった。みくりが平匡
に抱きつきながら「いいですよ、そういうことしても。平匡さんとなら
」と思い切った告白をしたのに、平匡は自分に女性経験がないことを彼
女に知られることを恐れ、「無理です。そういうことをしたいんではあ
りません。ごめんなさい、無理です」と拒絶したシーンである。
このシーンを見たとき、私は「あらま、もったいない」と思っただけだっ
たが、評者によれば、ここには、レッテル貼り――「男ならこうすべき、
女だったらこうあるべし」的な性別によるレッテル貼り――によって苦し
められている男女の姿が描かれている。
平匡を演じる星野源は、自らがパーソナリティーをつとめるラジオ番組
で、こう語っているという。
「平匡が拒否するというエンディングになったときに、やっぱりみんな
怒っている怒り方が、メールとかを見ていると、『男なのに何やってんだ!
女性から申し込まれたそういう誘いを男がなぜ断るか?』って怒ってい
るんだけど、それって、平匡なり、みくりなりがずっと苦しんできた“男に
生まれたから”っていうレッテル、“女に生まれたから”っていうレッテル。
そういうものとまったく一緒なんですよね」
社会によるレッテル貼りの根深さと、それによって苦しめられる男女の
姿――。その姿を描くことによって、このドラマは、社会の価値観に絡め
取られるのではなく、社会観の価値を疑ってみる、そういう姿勢の大切
さを訴えているというのである。
この「逃げ恥」は、朝日新聞の名物コラム「天声人語」でも取り上げて
いたが、「リテラ」の評論を読んだ後では、こちらは少なからず見劣り
を感じる。
朝日のウェブ記事は有料制で、(一日一本以上は)料金を払わないと読
めない仕組みになっている。「天声人語」に比べれば随分と優れている
「リテラ」の評論のほうは、無料で、心おきなく読めるんですけど。