天皇の退位問題が世間をにぎわせている。この問題を検討する有識者会
議が、このほど、三回目のヒアリングを終えた。この問題をテーマにし
た読売のきょう(12月1日)の社説《「退位」意見聴取 憲法上の疑義
は拭えるのか》は、次のように伝えている。
麗沢大教授の八木秀次氏は「退位を認めると、即位拒否や短期間での退
位も容認せねばならず、皇室制の存立を危うくする」と主張した。退位
は「国家の制度の問題であり、天皇の意向に左右されるものではない」
とも指摘した。
う〜ん、なるほど、ごもっとも。
あらかじめお断りすれば、私はこの問題について、はっきりした見解を
持っているわけではない。そもそも天皇の退位にはさほど関心を持て
ず、容認でも反対でも、どちらでもよいと思っている。そんな私の関心
の、そのひからびた触手が、上記の八木氏の発言内容には、びびっと反
応した。八木氏が右翼の論客であるとかないとか、そんなことはこの際
どうでもよい。
八木氏の発言に触発されて、私は福沢諭吉のことばを思い起こしたので
ある。福沢は「門閥制度は親の敵(かたき)でござる」と言い、「家老
の家に生まれれば馬鹿でも愚鈍でも家老、足軽の家に生まれればいくら
優秀でも一生足軽のまま」といった封建制度に対して、激しい怨嗟のこ
とばを投げつけた。
この見方からすれば、天皇制こそ門閥制度の最たるものだということに
なるだろう。天皇の家に生まれれば、どんな人物でも天皇になれるのだ
から、「天皇っていいなあ」と思う人にとっては、この制度によって天
皇に即位した/できた人は垂涎の的であり、また、ジェラシーの的にも
なるだろう。
しかし、この制度によって天皇に即位する人、あるいは即位した人が、
「天皇って大変だし、嫌だなあ」と思っているとしたら、この制度は彼
にとっては、自分をがんじがらめに縛りつける重い鉄鎖のように感じら
れるだろう。「職業選択の自由という基本的人権が、私には認められて
いないのか!」、「フツーの人は高齢になれば、定年退職して悠々自適
の生活が送れるのに、私にはそれが許されないのか!」、そう思うだろ
う。
八木氏の発言は、皇位継承の対象になる皇族のほとんどが即位を嫌って
いる、という前提に立った議論である。その意味で、憶測に基づいた議
論だと言えなくもない。天皇の暮らしぶりに常日頃、身近に接していれ
ば、天皇という束縛の多い地位には嫌気がさすはずだ、という推測もあ
ながち的外れではないから、八木氏の発言は説得力を持つのだろう。
しかし、八木氏の発言のこの前提が正しいとしたら、現行の天皇制は、
即位を嫌がる人を無理やり縛りつけて、「国民統合の象徴」に仕立て上
げる制度だということになる。「象徴」の地位に就くことを嫌がってい
る人を「象徴」の地位に祭り上げるなんてなあ。それもフィクションの
上塗りのようで、なんだかなあ・・・。
議が、このほど、三回目のヒアリングを終えた。この問題をテーマにし
た読売のきょう(12月1日)の社説《「退位」意見聴取 憲法上の疑義
は拭えるのか》は、次のように伝えている。
麗沢大教授の八木秀次氏は「退位を認めると、即位拒否や短期間での退
位も容認せねばならず、皇室制の存立を危うくする」と主張した。退位
は「国家の制度の問題であり、天皇の意向に左右されるものではない」
とも指摘した。
う〜ん、なるほど、ごもっとも。
あらかじめお断りすれば、私はこの問題について、はっきりした見解を
持っているわけではない。そもそも天皇の退位にはさほど関心を持て
ず、容認でも反対でも、どちらでもよいと思っている。そんな私の関心
の、そのひからびた触手が、上記の八木氏の発言内容には、びびっと反
応した。八木氏が右翼の論客であるとかないとか、そんなことはこの際
どうでもよい。
八木氏の発言に触発されて、私は福沢諭吉のことばを思い起こしたので
ある。福沢は「門閥制度は親の敵(かたき)でござる」と言い、「家老
の家に生まれれば馬鹿でも愚鈍でも家老、足軽の家に生まれればいくら
優秀でも一生足軽のまま」といった封建制度に対して、激しい怨嗟のこ
とばを投げつけた。
この見方からすれば、天皇制こそ門閥制度の最たるものだということに
なるだろう。天皇の家に生まれれば、どんな人物でも天皇になれるのだ
から、「天皇っていいなあ」と思う人にとっては、この制度によって天
皇に即位した/できた人は垂涎の的であり、また、ジェラシーの的にも
なるだろう。
しかし、この制度によって天皇に即位する人、あるいは即位した人が、
「天皇って大変だし、嫌だなあ」と思っているとしたら、この制度は彼
にとっては、自分をがんじがらめに縛りつける重い鉄鎖のように感じら
れるだろう。「職業選択の自由という基本的人権が、私には認められて
いないのか!」、「フツーの人は高齢になれば、定年退職して悠々自適
の生活が送れるのに、私にはそれが許されないのか!」、そう思うだろ
う。
八木氏の発言は、皇位継承の対象になる皇族のほとんどが即位を嫌って
いる、という前提に立った議論である。その意味で、憶測に基づいた議
論だと言えなくもない。天皇の暮らしぶりに常日頃、身近に接していれ
ば、天皇という束縛の多い地位には嫌気がさすはずだ、という推測もあ
ながち的外れではないから、八木氏の発言は説得力を持つのだろう。
しかし、八木氏の発言のこの前提が正しいとしたら、現行の天皇制は、
即位を嫌がる人を無理やり縛りつけて、「国民統合の象徴」に仕立て上
げる制度だということになる。「象徴」の地位に就くことを嫌がってい
る人を「象徴」の地位に祭り上げるなんてなあ。それもフィクションの
上塗りのようで、なんだかなあ・・・。