ささやんの週刊X曜日

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

平成の妖怪 その二枚舌

2016-12-30 12:04:18 | 日記
ハワイの真珠湾で、安倍首相が口にしたあの言葉には、どうしても違
和感が拭えない。たとえばこんな件(くだり)である。
「戦争が終わり、日本が見渡す限りの焼け野原、貧しさのどん底の中
で苦しんでいた時、食べるもの、着るものを惜しみなく送ってくれた
のは、米国であり、アメリカ国民でありました。皆さんが送ってくれ
たセーターで、ミルクで、日本人は未来へと命をつなぐことができま
した。
 そして米国は、日本が戦後再び、国際社会へと復帰する道を開いて
くれた。米国のリーダーシップの下、自由世界の一員として、私たち
は平和と繁栄を享受することができました。」

敗戦後間もなく、日本には、ジープに乗った進駐軍の兵士を追いか
け、ついて回る少年たちがいた。この頃、私はまだ生まれていなかっ
たから、直接体験したことではない。私より4歳も若い安倍首相だって
同じだろう。ともあれ敗戦国の貧しい少年たちは、ジープからキャ
ラメルやチョコレートを投げてばらまく兵士に、「ギブ・ミー・チョ
コレート!」と叫んで手を差し出したのだ。
あの少年たちがその後、どんなふうにして戦後の社会を生き抜いたの
か、戦勝国アメリカに対してどんな感情をいだきながら育ったのか、
私は知らない。その生い立ちは多岐にわたるはずだが、アメリカが持
ち込んだ民主主義や平和憲法の理念に「なんだこれは!」と反発を感
じた人たちはそれほど多くなかったはずだ。「戦後民主主義はGHQの
洗脳によるものだ」とか、「アメリカの押しつけ憲法を捨て去るべき
だ」などと公言する人は、もっと少なかっただろう。
戦勝国アメリカの戦後統治政策に反発をおぼえ、それを公言して憚ら
ない政治家が、進駐軍の兵士にチョコレートをねだる、あの少年たち
のように「アメリカさん、ありがとう」と言うのを聞くと、「和解の
演出は分かるけど、そこまで言うなんて、ちょっと作り過ぎなんじゃ
ね」という思いを禁じ得ないのである。

安倍首相の右翼少年的言辞と、「ギブ・ミー・チョコレート」少年的
言辞との二枚舌には、精神分裂症的道化の匂いを感じるが、ネット上
のサイト「リテラ」は、この二枚舌に小気味よい分析を加えている。
《安倍首相が真珠湾で「アメリカ様のおかげ」スピーチ! 戦後レジー
ムからの脱却はどうなった? 二枚舌に唖然》がそれだが、この記事
によれば、「安倍首相の中には「良いアメリカ」と「悪いアメリカ」
という2つのアメリカがあり、それは安倍首相の政治行動の原点と
なっている祖父・岸信介のアメリカとの関係性が大きく影響している」。

ここでいう「悪いアメリカ」とは、岸信介をA級戦犯として訴追した
アメリカ――GHQ内部の、民政局(GS)に代表される、ニューディー
ラーを中心としたリベラル勢力――である。「良いアメリカ」とは、
反共工作の見返りに岸信介と取り引きをして、岸を訴追から救い、戦
後、内閣総理大臣へと押し上げた勢力、参謀本部第2部(G2)を中心
とした勢力――である。

安倍首相は、「おじいちゃん」であり、「昭和の妖怪」と言われる岸信
介の呪縛から逃れられず、真珠湾でのスピーチにはそのことが如実に表
れている、というのである。

なるほどねえ。そういえば安倍首相は、「悪いアメリカ」から歴史修
正主義者として警戒される反面、「良いアメリカ」からは、対中戦略
の心強いパートナーとして受け入れられているとか。この点まで「おじ
いちゃん」そっくりで、さしずめ「平成の妖怪」とでもいったところ
だろうか。
コメント
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