ささやんの週刊X曜日

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

水郷潮来 用水路の水ぜんぶ抜く大作戦

2019-09-30 11:17:09 | 日記
茨城県潮来市では、市の活性化策について検討しているところだった。街を流れる用水路をきれいに整備する。手こぎの櫓(ろ)を使う「ろ舟」をそこに走らせて、水郷ならではの情緒あふれる風景をよみがえらせる。そうすれば観光客が増え、街もにぎわいを取り戻すに違いない。

「テレビ東京」からの申し出は、そんな潮来市には渡りに船の、願ってもない話だった。市の用水路を、バラエティー番組「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」の撮影に使いたいという。番組の企画通り、用水路の水をぜんぶ抜き、粗大ゴミを撤去するとともに、ブラックバスなどの外来魚を駆除すれば、昔懐かしい水郷の原風景がよみがえるはずだ。しめしめ、と市の担当者はほくそ笑んだ。

ところがである。予想もしないことが起こった。バス釣りの愛好家たちからの抗議のメールや、電話があまた殺到したのである。「もう潮来には行かないぞ!」、「そんなことをしたら(釣り客が減って)飲食店に金が落ちなくなる。潮来は経済的な打撃を受けることになるんだぜ」、「外来種も生物に変わりはない。町の発展のためなら、イノチを奪っても良いというのか。無慈悲な殺生に反対!」、等々。

さて、あなたはこの話を聞いて、どんな感想をお持ちだろうか。うむ、たしかに無益な殺生は問題だ。用水路の水抜きはしないほうが良い、ーーそうあなたが思うとしたら、あなたはたぶんバス釣りの愛好家であるに違いない。そこまで行かないとしても、魚釣り(フィッシング)というヒマ人の道楽に対して、何らかの親近感を持っている人に違いない。

もしあなたが逆にバス釣りに反感を持っているとしたら、用水路の水抜きに対して、「これで街がきれいになる。良い機会だ」と思っただろう。「外来種も生物だ」という意見だって、バス釣りを楽しめる、そういう環境を護ろうとする釣りキチの、独りよがりの屁理屈に過ぎない。だいたい、魚という幼気(いたいけ)な生物を、ハンティングゲームのターゲットにして、悦に入るというその行為自体が、残酷極まりないではないか。

街の活性化のためにバスのイノチを奪うのは是か非か、という問題は、突きつめれば、我々人間の生存の営為をどう考えるか、という問題につながる。我々は生存のために鶏を殺し、豚を殺し、牛を殺し、それらの肉を食する。不快だ、と思うだけで、ハエやゴキブリを殺したりもする。それが悪い、というのではない。それは善悪以前の「是非も無い」所為だと言えるだろう。とすれば、テレビ番組の企画に便乗して、用水路の水を抜くという潮来市の対応も、非難に値するとは言えないのではないだろうか。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 国境とノーサイドの精神 | トップ | トロッコ問題をめぐって »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日記」カテゴリの最新記事