ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

政治、利害、人権

2017-08-14 10:48:24 | 日記
政治とは、相反する利害関心の調整である。このことを分かりやすい形で
示すのは、喫煙をめぐる問題状況である。

タバコが好きでも嫌いでもない人。タバコが片時も手放せないヘビース
モーカー。タバコの煙が嫌で嫌でたまらない人。喘息持ちで、タバコの煙
を体質的に受けつけない人。ガンになるリスクを恐れて、受動喫煙はご免
だと考える人。喫煙防止条例ができて、店内が全面禁煙になったら、客足
が遠のいて商売はあがったりだと憂慮する居酒屋の経営者、等々。タバコ
をめぐっては、多種多様な人が存在する。

先の都議選で大勝した「都民ファーストの会」は、選挙公約のとおり、9
月にも受動喫煙対策条例案を提出する予定だという。「都民が第一」と
いっても、その「都民」は決して一様ではない。多種多様な「都民」の間
の多種多様な利害関心を、このアマチュア政治集団はどのように調整し、
どのような条例案を提出するのか。喫煙問題が「都民ファースト」の真価
をためす良い試金石になるだろう。

昨夜、NHKで「731部隊の真実〜エリート医学者と人体実験」という番組
を放映していた。人の利害関心の多様さを考えさせる番組だった。人命を
尊重すべき医学者が、研究のために人命を消尽する残酷な人体実験へと突
き進んでいく。研究のため、多額の予算獲得を目的に動いた者、学会のボ
スの命令にそむけず、いやいや731部隊に赴任した者、ーー動機は様々だ
が、「医学界での評価」という独自の価値評価のシステムが自律的なシス
テムとして機能し、がん細胞のように自己増殖した結果が、そこにはあっ
たと言えるだろう。

オウム真理教の事件で、サリンを製造した化学者たちに通底するものを、
そこに見てとることができた。「教団内での評価」に駆り立てられた彼ら
は、自分がいかに恐るべきことをしているのかが見えなくなってしまった
のだ。

様々な利害関心が衝突する場合に、調整に原理としてはたらくのが「人権
;人間の権利」という概念である。人体実験へと駆り立てられる医学者た
ちの利害関心。その対極には、「生きたい」と願う中国人や満州人たちの
利害関心がある。この願いは、人間が人間として求めて然るべきこと、つ
まり「人間の権利」であり、これを蹂躙することは人間には許されない。
満州の荒野で、逃げ惑う日本人婦女子の命を多数奪ってきたソ連兵だが、
彼らでも731部隊を裁く場合には、なお振りかざしたくなる魅力と強靭さ
を、「人権」の概念は持っている。

時代は変わって平成29年の今、喫煙問題を考える場面でも、「人権」の
概念は調停の原理として充分に機能する。この概念を持ち出すと、喫煙問
題にどんな解が出るかは、容易に見てとれる。「都民ファースト」の真価
をはかる試金石とするには、この問題はあまりに簡単すぎて、適当ではな
いかな。
コメント
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