ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

核の後出しじゃんけんは?

2016-08-21 16:07:38 | 日記
アメリカのオバマ大統領が、核先制不使用策の導入を検討し始め
たようだ。これに対してわが日本の安倍首相が、反対の意思を表
明したという。ワシントン・ポスト紙によれば、アメリカが核先
制不使用策を導入すると、北朝鮮に対する抑止力が弱まり、紛争
の危険が高まるというのが、安倍首相の反対の理由だという。今
回はその是非について考えてみたいのだが、あらかじめお断わり
しておけば、私はこの問題に対して、朝日新聞のような立場をと
るつもりはない。朝日は、被爆国・日本の独自性を強調して、社
説で次のように述べている。

「「核の傘」に頼らぬ安全保障をめざし、(中略)米国と協議を
進めることこそ日本外交にはふさわしい。それが結果として日本
の道義的な立場を高め、地域の安定と平和にも資するはずだ。
 (8月19日付、《核先制不使用 首相はオバマ氏に力を》)

言いたいことは分からないでもないが、日本の安全保障を考える
とき、考慮に入れなければならないのは、北朝鮮や中国の軍部首
脳が、こうした「日本の道義的な立場」をどこまで理解してくれ
るかである。彼らが「日本の道義的立場」に理解を示して、同じ
く「道義的」立場から、核による攻撃を控える可能性は、あるの
だろうか。残念ながら、皆無であると言わねばならない。

だから私は、この朝日のような理想論的・観念的立場はとらず
に、純粋に現実的な戦略論・戦術論の観点から、この問題を考え
てみたいのである。核先制不使用策をとると、北朝鮮に対して、
「核の傘」の抑止効果は本当に失われるのだろうか?

たしかに、核先制不使用策をとれば、北朝鮮が核ミサイルの発射
準備に入った段階で、「これ以上やると、核攻撃をするぞ!」と
北朝鮮を威嚇することはできなくなるだろう。北朝鮮が、「発射
準備をやめよ!」というアメリカの再三の警告を無視して、核ミ
サイルの発射スイッチに手を伸ばす可能性は高くなる。

だがアメリカは、その時に備えて、THAADミサイル(終末高高度
防衛ミサイル)を韓国に配備しようとしているのではないか。
これを使い、北朝鮮が発射した核ミサイルを迎撃することができ
れば、アメリカの反撃能力が北朝鮮の核攻撃で壊滅的な打撃を受
けることはなくなる。アメリカが、核攻撃の被害を受けていない
米軍基地から、北朝鮮に対して、核爆弾の「十倍返し」を行うこ
とも充分に可能なのだ。核ミサイルの発射に付随するこのような
損害が不可避であることを知っていたら、北朝鮮の軍首脳だって
―ー功名心で前のめりになった北朝鮮の軍首脳だって、おいそれ
と核ミサイルの発射ボタンを押せないだろう。

押さえておきたいこと、それは、核先制不使用政策をとった場
合、アメリカの防衛システムにとっては、また、「核の傘」に
頼る同盟国の防衛システムにとっては、迎撃ミサイルTHAADが
不可欠の軍備になる、ということである。逆の見方をすれば、核
先制不使用策の導入は、迎撃ミサイルTHAADの配備が、米国およ
び同盟国の防衛にとって不可欠であることを主張するための絶好
の口実なのだ。

アメリカがTHAADを韓国へ配備する計画を打ち出したことに対して、
中国は強硬な反対の姿勢を示しているが、アメリカは中国のこの反
対姿勢を考慮して、国際社会向けに説得力のある主張を行う必要が
あったのである。

アメリカに対して「ノーと言えない日本」の首相が、安全保障とい
う大問題に関して、珍しく「ノー」と言えたのは、アメリカ軍首脳
との連係プレーの一環として、この種の発言が望まれたからである
と見なければならない。安倍首相はきのう、「ノーと言った」こと
を否定したが、このことも、アメリカが日本側の「ノー」発言を望
んでいることの証左となりそうである。アメリカは、「核の傘」の
抑止力が弱体化することに対する同盟国の懸念の声を背景にして、
「THAADがあれば、「核の傘」の抑止力は維持できる。紛争を避け
るには、THAADの配備がぜひとも必要だ」と主張しようとしている
のではないか。そんな気がする。
コメント
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