ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

アンチ享楽主義者・老子

2016-01-19 14:30:17 | 日記
あり余る財は気苦労を増やし、幸福への歩みをかえって重くする。

こう考える点で、老子もカントも共通していると述べたが、

老子は12章で、さらにこんなことを書いている。

「難得之貨、令人行妨。〔得難きの貨は、人の行を妨げしむ。〕」

( 得がたい財貨は,夜の安眠を妨げる(夜もおちおち眠れない)。

別訳;手に入り難い貴重な品々は、人の行動を誤らせる。 )


二つの訳文は、後半部分で大きく違っているが、

どちらの訳文も、

老子が清貧と呼ばれる慎ましい暮らしを好んでいたことを

示している。

だが、老子の見解はこれに尽きない。

12章で、老子はこうも書いている。

「五色令人目盲。五音令人耳聾。五味令人口爽。馳騁田獵、令人心發狂。」

〔五色は人の目を盲ならしむ。〕(色とりどりの色彩は人の目をくらませる。)

〔五音は人の耳を聾せしむ。〕(幾重にも音を重ねた音楽は人の耳を聞こえなくさせる。)

〔五味は人の口を爽(たが)わしむ。〕(味わい豊かな食事は人の味覚を鈍くする。)

〔馳騁(ちてい)田猟(でんりょう)は、人の心をして狂(きょう)を発せしむ。〕(乗馬や狩猟といった娯楽は、人の心を狂わせる。)

絵画や音楽の鑑賞を退け、

美食も、スポーツに興じることもディスる老子は、

徹底したアンチ享楽主義者だったと言えるだろう。

そんな老子の言説を知ったら、

謹厳な禁欲主義者だったカントも、さぞかし目を丸くしたに違いない。

「いえいえ、違います。

色とりどりの色彩は、人の目を楽しませるのです。

幾重にも音を重ねた音楽は、人の耳を豊かにするのです。

味わい豊かな食事は、むしろ人の味覚を鋭くしますよ。

それに、乗馬や狩猟といった娯楽は、人の心をストレスから解き放つのです。

そうではありませんか」

J・S・ミルではないが、謹厳な禁欲主義者だって、

そう言って精神的な快楽を擁護することはできるはずである。

そんなふうに言い返したら、

老子はさらにいきり立ち、

もっともっと過激な屁理屈を並べたてただろう。

その屁理屈が聞きたかったが、

いい加減な享楽主義者である私には、

想像すら及ばない。
コメント (2)
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