「僕はアイリさんと、どうなりたいんだ・・・」
僕は、自分の黒いプリメーラで、夜の北鎌倉を走っていた。
「パパがこれからどうするか、決めるんだ。それが男の役割だ」
そう言ったイズミの声が未だに、頭の中に響いている。
僕は、ひとりで考え事をするために、いつものように、黒いプリメーラで、湘南を走ることにした。
デビー・ギブソンの「Electric Youth」というCDを一枚持って、それをかけながら夜の湘南を走った。
僕のプリメーラは特に音響にこだわったスペシャルな作りになっている。
夜の湘南の風景を見ながら、聞く音楽は、それは気持ちよかった。
しかし、今夜は・・・そんな音楽など、頭に入って来る余裕はなかった。
頭の中は、
「アイリさんと、これから、どうするか」
ということしか、考えていなかったから。
「俺・・・そもそも、アイリさんをどう考えているんだろう・・・」
と、僕はアイリさんの映像を自分の頭の中に映しだしてみた・・・。
笑うアイリさん・・・ハーフかと思わせるきめの細かい色白の肌・・・長い黒髪に、スラリとした長身の、そしてやさしげな、そのほほ笑み・・・。
「俺、アイリさんのこと・・・」
頭の中が混乱する。
それはそうだろう。つい先日まで、自分を応援してくれる母親や姉の存在として、アイリさんを見ていたのだから・・・。
「そのアイリさんを、彼女として、俺、見れることが出来るか?」
と、僕は自分に聞いてみる。
「俺・・・アイリさんを彼女と呼べるほど・・・成熟しているか?」
と、僕は自分に聞いてみる・・・。
「大人の女性を彼女に出来るほど、僕自身が大人になっているか?」
・・・否だ。
「でも、そういう俺でも、いいって、彼女は思っているんじゃないか?」
でも、結局、女性は男性にリードされるのを喜ぶ・・・それが男性の役割だ。
「そんな役割を今の俺が果たせるか?」
果たせるわけがない・・・僕はまだ、子供だ。
「でも、アイリさんはそういう俺を受けいれてくれている・・・だから、あんな、しみとおるような、笑顔をくれたんじゃないのか?」
多分、うれしかったんだろうな。彼女・・・。
「だったら、俺は何も考えずに・・・彼女を受け入れてやればいいんじゃないのか?」
おんなはそれでいい・・・しかし、男には役割がある。それが出来る男でなければ、大人の男でなければ、許されないことはあるんだ。
「俺はまだ、子供・・・だから、アイリさんを受け入れるには、無理がある・・・そういうことか・・・」
そんな俺でも、いいってアイリさんが言ってくれたら・・・。
「大事なことは、俺の気持ちだ・・・俺は俺の気持ちを大事にしなければ・・・相手の気持ちばかり考えていては、悔いを残すことなる」
僕は建長寺の坂を登りながら、そういうことを、考えている。漆黒の闇が北鎌倉を包んでいる。
前を走る車のブレーキランプだけが光っている。
建長寺の坂を登りきれば、あとは下り坂が鶴ヶ岡八幡宮へ一気に導いてくれる。
「アイリさんが俺を好きだってのは、確からしいな・・・」
僕はそう思う。アイリさんはいつも笑顔でいてくれた。僕の冗談に思い切り笑ってくれた。
一緒にいる時は、まるで、母親か、血を分けた姉と一緒にいるような気持ちだった。エイコの次に、リラックス出来る女性・・・。
「エイコちゃんって背が高いけど・・・鈴木くんは背の高い女性が好みなの?」
と、アイリさんに、どこかで聞かれたことを思い出す。
「うーん。そうですね。スラリとした健康そうな女性が好きなんです。あと、色白で目の大きい、顎のラインの綺麗な女性が・・・大好きなんですね」
と、僕が言うと、
「だったら、わたしもその部類の女性に入ってるわね!」
と、茶目っ気たっぷりに笑顔で言った・・・アイリさんは・・・本心から喜んでいたんだ・・・今、それがわかる。
「鈴木くんは女性のファッションにうるさいの?」
と、聞かれたことも思い出す。
「そうですね・・・やっぱり、夏は、女性は白いワンピースでしょう。白いワンピース姿で、海になんか一緒にいけたら、いいんじゃないですかね」
と、僕は話した・・・。
そういえば、この間、海に行った時、エイコも、白いワンピース姿だった・・・。
「いや、エイコのことは、忘れよう・・・今はアイリさんの話だ・・・」
僕は目をしばたかせながら、気分を変える。
鶴ヶ岡八幡宮の正門から南に一直線・・・そこに由比ヶ浜がある。
夜の由比ヶ浜は、静かだ・・・波の音しか、聞こえない・・・。
由比ヶ浜を右に曲がって、134号線を西に向かって走る。
稲村ヶ崎の坂を登ると江ノ島の灯台の灯りが見える。
「僕はアイリさんが好きだ・・・でも、それは姉として・・・でも、この恋が僕を大人へと成長させてくれるかもしれない・・・だったら・・・」
車は闇の中を切り裂いていく。
「だったら、踏み出してみよう・・・そして、二人で・・・アイリさんと僕の二人で、この問題に答えを出せばいいんだ・・・」
波の音が聞こえている。
「僕ひとりでなく、二人で、答えを出せば・・・いいんだ。僕は、決めた・・・」
僕の車はそのまま光となって、漆黒の闇に消えていく・・・。
「あ、もしもし、アイリさんですか。僕です。鈴木タケルです・・・まだ、起きてましたか・・・それはよかった・・・」
僕は寮の近くの公衆電話でアイリさんに電話をかけていた。
「この間は、楽しかったです。ええ、お酒も美味しかったし、横浜の夜を堪能しました・・・ええ・・・」
僕は話を続ける。
「また、会いたいなって思って・・・ええ・・・来週の金曜日・・・いいですよ。空いてます・・・というか、うまく仕事の方調節します。アイリさんに会えるんですからね」
と、僕は話す。
「ええ、最近、仕事が忙しくて・・・後輩も入ってきたし、しっかりやらないと、怒られちゃいますからね・・・ええ・・・」
と、僕は話す。
「でも、今回、少し電話するの躊躇しちゃいました・・・なにか、アイリさんが気を悪くされているんじゃないかと思って・・・」
と、僕はそこに触れてみる・・・。
「ううん、わたしの方こそ・・・少し酔っ払ってしまったみたいで・・・でも・・・ううん」
と、話すアイリさん。
「わたしは、鈴木くんの東京の姉ですから、何も心配しなくていいの!いつでも電話してきていいのよ」
と、アイリさんは言う。
「わたしは、あなたのためだったら、なんだって出来てしまう、強い姉なんだから」
と、アイリさんはいつもの調子だ。
「さ、鈴木くんも、もう今日はこんな時間だから・・・風邪引かないようにして、明日に備えて」
と、いつものように、話を打ち切るアイリさん。
「うん・・・そうだね。今日は疲れた・・・いろいろなことがあったから・・・」
と、僕が言うと、
「そうだったの・・・もし、何か心配事があったら、何でも言ってくれていいのよ・・・」
と、アイリさんは言う。
「うん。いいんだ。ある程度、問題は解決したから・・・また、何か話したくなったら、電話します。来週の金曜日の約束、楽しみにしていますから・・・」
と、僕は言う。
「うん。わたしも楽しみにしてるわ・・・ねえ、鈴木くん・・・この間の白いワンピース、どうだったかしら?」
と、アイリさんは聞いてくる。
「ええ、とっても素敵でした。僕は、ああいうワンピース姿、大好きだし・・・」
と、僕が言うと、
「本当?それはよかったわ・・・来週、着ていくモノ考えなくっちゃ・・・じゃあ、楽しみにしているから・・・鈴木くんに、会えるのを楽しみに・・・」
と、アイリさんは言ってくれる。
「僕も楽しみにしています。じゃ、おやすみなさい」
と、僕が言うと、
「おやすみ・・・」
と、アイリさんは言って電話は切れた・・・。
「まあ、そういう反応だったよ・・・アイリさん・・・」
と、僕が部屋でまだ起きていたイズミに言うと、
「なるほどね・・・その彼女は関係性は壊したくないんだろうな・・・パパと東京の姉という関係性は・・・でも、彼女にもなりたがっている・・・」
と、イズミは推理する。
「白いワンピースを着ていったことが、効果的だったか、確認してたろ・・・それは彼女の思いの裏返しさ・・・パパの彼女になりたいっていう願望そのものだ」
と、イズミは推理する。
「でも、パパは・・・そのアイリさんっていう女性の彼氏にはまだなれない・・・そんなに大人の男じゃないって・・・そう思っているだろ」
と、イズミは鋭く僕を見抜く。
「うん。俺、まだ幼いよ・・・アイリさんに比べると・・・」
と、僕は素直に言う。
「彼女だって、そういうパパの本質は見抜いていると思う・・・だから、弟的にかわいがっているんだよ。姉さん女房ってのも、いいらしいけどな」
と、イズミは言う。
「うん。それも、そうだとは、思うけど・・・」
と、僕は困惑しながら言う。
「要はパパが彼女を抱けるかどうかだよ・・・姉さんとしてでなく・・・彼氏としてね」
と、イズミは言う。
「そうだな。そこがこの問題の本質だな」
と、僕も納得する。
「で、どう?抱けそう?」
と、イズミが聞く。
「そうだな・・・」
僕は頭の中に、アイリさんの裸を思い浮かべてみる。
笑顔で、手を広げているアイリさん・・・。
「その時になってみないと、わからないな・・・抱けそうな気もするし、萎縮するかもしれないし・・・」
と、僕が言うと、
「パパはそういうところが、煮え切らないんだよな・・・」
と、イズミは厳しく指摘する。
「「据え膳食わぬは男の恥」って言うんだぜ」
と、イズミは言う。
「んなこと言ったって・・・イズミにも姉貴がいたろ・・・お前、姉貴抱けるのかよ・・・」
と、僕が言うと、
「そりゃあ、無理だよ。血が繋がっているモノ・・・」
と、イズミは即座に言う。
「それに近いぜ・・・俺の気持ちは・・・」
と、僕が言うと、
「でも、血が繋がってないじゃないか・・・おんななんて、抱いてやりゃあ、喜ぶものさ・・・やさしくしてやりゃあ、いいのさ・・・」
と、イズミはしれっと言う。
「俺の中では、そんな簡単な話じゃないの・・・」
と、僕はいつまでも、困惑していた。
鎌倉の夜は、静かに更けていった。
(つづく)
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僕は、自分の黒いプリメーラで、夜の北鎌倉を走っていた。
「パパがこれからどうするか、決めるんだ。それが男の役割だ」
そう言ったイズミの声が未だに、頭の中に響いている。
僕は、ひとりで考え事をするために、いつものように、黒いプリメーラで、湘南を走ることにした。
デビー・ギブソンの「Electric Youth」というCDを一枚持って、それをかけながら夜の湘南を走った。
僕のプリメーラは特に音響にこだわったスペシャルな作りになっている。
夜の湘南の風景を見ながら、聞く音楽は、それは気持ちよかった。
しかし、今夜は・・・そんな音楽など、頭に入って来る余裕はなかった。
頭の中は、
「アイリさんと、これから、どうするか」
ということしか、考えていなかったから。
「俺・・・そもそも、アイリさんをどう考えているんだろう・・・」
と、僕はアイリさんの映像を自分の頭の中に映しだしてみた・・・。
笑うアイリさん・・・ハーフかと思わせるきめの細かい色白の肌・・・長い黒髪に、スラリとした長身の、そしてやさしげな、そのほほ笑み・・・。
「俺、アイリさんのこと・・・」
頭の中が混乱する。
それはそうだろう。つい先日まで、自分を応援してくれる母親や姉の存在として、アイリさんを見ていたのだから・・・。
「そのアイリさんを、彼女として、俺、見れることが出来るか?」
と、僕は自分に聞いてみる。
「俺・・・アイリさんを彼女と呼べるほど・・・成熟しているか?」
と、僕は自分に聞いてみる・・・。
「大人の女性を彼女に出来るほど、僕自身が大人になっているか?」
・・・否だ。
「でも、そういう俺でも、いいって、彼女は思っているんじゃないか?」
でも、結局、女性は男性にリードされるのを喜ぶ・・・それが男性の役割だ。
「そんな役割を今の俺が果たせるか?」
果たせるわけがない・・・僕はまだ、子供だ。
「でも、アイリさんはそういう俺を受けいれてくれている・・・だから、あんな、しみとおるような、笑顔をくれたんじゃないのか?」
多分、うれしかったんだろうな。彼女・・・。
「だったら、俺は何も考えずに・・・彼女を受け入れてやればいいんじゃないのか?」
おんなはそれでいい・・・しかし、男には役割がある。それが出来る男でなければ、大人の男でなければ、許されないことはあるんだ。
「俺はまだ、子供・・・だから、アイリさんを受け入れるには、無理がある・・・そういうことか・・・」
そんな俺でも、いいってアイリさんが言ってくれたら・・・。
「大事なことは、俺の気持ちだ・・・俺は俺の気持ちを大事にしなければ・・・相手の気持ちばかり考えていては、悔いを残すことなる」
僕は建長寺の坂を登りながら、そういうことを、考えている。漆黒の闇が北鎌倉を包んでいる。
前を走る車のブレーキランプだけが光っている。
建長寺の坂を登りきれば、あとは下り坂が鶴ヶ岡八幡宮へ一気に導いてくれる。
「アイリさんが俺を好きだってのは、確からしいな・・・」
僕はそう思う。アイリさんはいつも笑顔でいてくれた。僕の冗談に思い切り笑ってくれた。
一緒にいる時は、まるで、母親か、血を分けた姉と一緒にいるような気持ちだった。エイコの次に、リラックス出来る女性・・・。
「エイコちゃんって背が高いけど・・・鈴木くんは背の高い女性が好みなの?」
と、アイリさんに、どこかで聞かれたことを思い出す。
「うーん。そうですね。スラリとした健康そうな女性が好きなんです。あと、色白で目の大きい、顎のラインの綺麗な女性が・・・大好きなんですね」
と、僕が言うと、
「だったら、わたしもその部類の女性に入ってるわね!」
と、茶目っ気たっぷりに笑顔で言った・・・アイリさんは・・・本心から喜んでいたんだ・・・今、それがわかる。
「鈴木くんは女性のファッションにうるさいの?」
と、聞かれたことも思い出す。
「そうですね・・・やっぱり、夏は、女性は白いワンピースでしょう。白いワンピース姿で、海になんか一緒にいけたら、いいんじゃないですかね」
と、僕は話した・・・。
そういえば、この間、海に行った時、エイコも、白いワンピース姿だった・・・。
「いや、エイコのことは、忘れよう・・・今はアイリさんの話だ・・・」
僕は目をしばたかせながら、気分を変える。
鶴ヶ岡八幡宮の正門から南に一直線・・・そこに由比ヶ浜がある。
夜の由比ヶ浜は、静かだ・・・波の音しか、聞こえない・・・。
由比ヶ浜を右に曲がって、134号線を西に向かって走る。
稲村ヶ崎の坂を登ると江ノ島の灯台の灯りが見える。
「僕はアイリさんが好きだ・・・でも、それは姉として・・・でも、この恋が僕を大人へと成長させてくれるかもしれない・・・だったら・・・」
車は闇の中を切り裂いていく。
「だったら、踏み出してみよう・・・そして、二人で・・・アイリさんと僕の二人で、この問題に答えを出せばいいんだ・・・」
波の音が聞こえている。
「僕ひとりでなく、二人で、答えを出せば・・・いいんだ。僕は、決めた・・・」
僕の車はそのまま光となって、漆黒の闇に消えていく・・・。
「あ、もしもし、アイリさんですか。僕です。鈴木タケルです・・・まだ、起きてましたか・・・それはよかった・・・」
僕は寮の近くの公衆電話でアイリさんに電話をかけていた。
「この間は、楽しかったです。ええ、お酒も美味しかったし、横浜の夜を堪能しました・・・ええ・・・」
僕は話を続ける。
「また、会いたいなって思って・・・ええ・・・来週の金曜日・・・いいですよ。空いてます・・・というか、うまく仕事の方調節します。アイリさんに会えるんですからね」
と、僕は話す。
「ええ、最近、仕事が忙しくて・・・後輩も入ってきたし、しっかりやらないと、怒られちゃいますからね・・・ええ・・・」
と、僕は話す。
「でも、今回、少し電話するの躊躇しちゃいました・・・なにか、アイリさんが気を悪くされているんじゃないかと思って・・・」
と、僕はそこに触れてみる・・・。
「ううん、わたしの方こそ・・・少し酔っ払ってしまったみたいで・・・でも・・・ううん」
と、話すアイリさん。
「わたしは、鈴木くんの東京の姉ですから、何も心配しなくていいの!いつでも電話してきていいのよ」
と、アイリさんは言う。
「わたしは、あなたのためだったら、なんだって出来てしまう、強い姉なんだから」
と、アイリさんはいつもの調子だ。
「さ、鈴木くんも、もう今日はこんな時間だから・・・風邪引かないようにして、明日に備えて」
と、いつものように、話を打ち切るアイリさん。
「うん・・・そうだね。今日は疲れた・・・いろいろなことがあったから・・・」
と、僕が言うと、
「そうだったの・・・もし、何か心配事があったら、何でも言ってくれていいのよ・・・」
と、アイリさんは言う。
「うん。いいんだ。ある程度、問題は解決したから・・・また、何か話したくなったら、電話します。来週の金曜日の約束、楽しみにしていますから・・・」
と、僕は言う。
「うん。わたしも楽しみにしてるわ・・・ねえ、鈴木くん・・・この間の白いワンピース、どうだったかしら?」
と、アイリさんは聞いてくる。
「ええ、とっても素敵でした。僕は、ああいうワンピース姿、大好きだし・・・」
と、僕が言うと、
「本当?それはよかったわ・・・来週、着ていくモノ考えなくっちゃ・・・じゃあ、楽しみにしているから・・・鈴木くんに、会えるのを楽しみに・・・」
と、アイリさんは言ってくれる。
「僕も楽しみにしています。じゃ、おやすみなさい」
と、僕が言うと、
「おやすみ・・・」
と、アイリさんは言って電話は切れた・・・。
「まあ、そういう反応だったよ・・・アイリさん・・・」
と、僕が部屋でまだ起きていたイズミに言うと、
「なるほどね・・・その彼女は関係性は壊したくないんだろうな・・・パパと東京の姉という関係性は・・・でも、彼女にもなりたがっている・・・」
と、イズミは推理する。
「白いワンピースを着ていったことが、効果的だったか、確認してたろ・・・それは彼女の思いの裏返しさ・・・パパの彼女になりたいっていう願望そのものだ」
と、イズミは推理する。
「でも、パパは・・・そのアイリさんっていう女性の彼氏にはまだなれない・・・そんなに大人の男じゃないって・・・そう思っているだろ」
と、イズミは鋭く僕を見抜く。
「うん。俺、まだ幼いよ・・・アイリさんに比べると・・・」
と、僕は素直に言う。
「彼女だって、そういうパパの本質は見抜いていると思う・・・だから、弟的にかわいがっているんだよ。姉さん女房ってのも、いいらしいけどな」
と、イズミは言う。
「うん。それも、そうだとは、思うけど・・・」
と、僕は困惑しながら言う。
「要はパパが彼女を抱けるかどうかだよ・・・姉さんとしてでなく・・・彼氏としてね」
と、イズミは言う。
「そうだな。そこがこの問題の本質だな」
と、僕も納得する。
「で、どう?抱けそう?」
と、イズミが聞く。
「そうだな・・・」
僕は頭の中に、アイリさんの裸を思い浮かべてみる。
笑顔で、手を広げているアイリさん・・・。
「その時になってみないと、わからないな・・・抱けそうな気もするし、萎縮するかもしれないし・・・」
と、僕が言うと、
「パパはそういうところが、煮え切らないんだよな・・・」
と、イズミは厳しく指摘する。
「「据え膳食わぬは男の恥」って言うんだぜ」
と、イズミは言う。
「んなこと言ったって・・・イズミにも姉貴がいたろ・・・お前、姉貴抱けるのかよ・・・」
と、僕が言うと、
「そりゃあ、無理だよ。血が繋がっているモノ・・・」
と、イズミは即座に言う。
「それに近いぜ・・・俺の気持ちは・・・」
と、僕が言うと、
「でも、血が繋がってないじゃないか・・・おんななんて、抱いてやりゃあ、喜ぶものさ・・・やさしくしてやりゃあ、いいのさ・・・」
と、イズミはしれっと言う。
「俺の中では、そんな簡単な話じゃないの・・・」
と、僕はいつまでも、困惑していた。
鎌倉の夜は、静かに更けていった。
(つづく)
→前回へ
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