僕は、6月のとある金曜日、横浜は山手にある、スペイン料理店「feliz feliz」に来ていた。
ここは、もちろん、僕が選んだのではなく、アイリさんのチョイスだ。
「えーと、地図で行くと・・・ああ、ここを入って、あそこね・・・」
僕は横浜を覚えるべく、地図を買いこみ、毎回こうして、店を探し当てた。
カランコローン!
と、ドアを開けると、アイリさんがすでに席に座っているのが、見えた。
「鈴木くーん、こっちこっち!」
アイリさんは明るく手を振ってくれる。
アイリさんは、今日は上品な白いジャケットに白いスカートだ。
首には上品な真珠のネックレス・・・耳には、この間、僕のあげた、シルバーのイヤリングが揺れている。
「つけてくれたんですね。僕のイヤリング・・・」
と、僕が言うと、おもいっきり笑顔のアイリさん・・・。
まあ、僕はと言えば、会社帰りを思い切り思わせる、紺のスーツ姿。
「会社、忙しそうね・・・」
と、アイリさんは言ってくれる。
「そうですね・・・2年目って一番大変ですよ。後輩の手本にならなくちゃならないし・・・それでいて、仕事も思い切り出来るわけじゃないし・・・」
と、僕が言うと、
「でも、鈴木くん、なんとなく、余裕があるような表情をしているけど?」
と、笑顔のアイリさん。
「そうですかね?アイリさんに会えるから、喜びが顔に出てるんですよ」
と、僕は素直に言う。
「そうお・・・うれしいこと言ってくれるのね、鈴木くんは」
と、素直に笑顔のアイリさん。
「スペイン・ワインを、まず頼もっか・・・わたし選んでいい?」
と、アイリさんが言う。
「ええ・・・僕、スペイン料理って正直、初めてなんで・・・」
と、僕が言うと、
「うん。きっとそうだと思った・・・わたしも、あまり機会はなかったけど・・・ええと、ルエダの白をお願いします」
と、アイリさんはテキパキと注文してくれる。
「鈴木くんって、わたしのこと、どう思っている?」
と、僕がガスパチョを飲んでいると、いきなりアイリさんは攻撃を開始した・・・。
「え、どう思っているって・・・全幅の信頼をおける東京の姉・・・だと・・・」
と、僕は逃げを打った。
「それ、だけ、かな?」
と、アイリさんは、やさしい笑顔で攻撃に出る。
「いや、その・・・僕だって、男ですからね・・・そりゃあ、美しいアイリさんが、例えば、僕の彼女になってくれたら、どれだけうれしいかって、ほんとに、思いますよ・・・」
と、一瞬の攻撃でたちまち崩れ落ちる僕・・・。
「ふーん、それじゃあ、わたしが、鈴木くんのことを彼氏にしたいって、言ったら・・・納得してくれる?」
と、アイリさんは笑顔で、さらに攻勢に出る。
「え・・・それは・・・まあ、アイリさんがそれを望むなら・・・僕が納得しないわけには・・・いかないでしょう・・・」
と、一方的に白旗を揚げる僕・・・。
「そ・・・じゃあ、わたしは、今から、鈴木くんの、彼女兼東京の姉・・・どう、これで納得してくれる?」
と、思いっきり笑顔のアイリさん・・・。
「はあ・・・納得します・・・でも、俺・・・まだ、子供ですよ・・・」
と、僕がアイリさんに言うと、
「わかっているわ・・・鈴木くんはまだまだ、これから、社会というところを知らなきゃいけない・・・そのために、わたし、鈴木くんのサポートをしたいの」
と、ルエダをぐっと飲み干すアイリさん。
「わたしに、その役をやらせて、欲しいの・・・鈴木くんの手助けをしたいの」
と、アイリさんは少し目を潤ませて話す。
「僕なんかでよければ・・・光栄です。アイリさん・・・」
と、僕はなぜか、アイリさんの両手をとって、両手で握りしめていた・・・。
「鈴木くん、十分、大人だったわ・・・」
次の日の朝、アイリさんはベットの中で、僕の顔を撫でながら、そう話す。
僕はアイリさんの美しい身体に魅了された。
しなやかな肢体は、躍動し、頂点を極め、お互い、しあわせな光の中にいた。
アイリさんのやさしい暖かさにくるまれ、僕はリラックスして、男であることを証明出来た。
アイリさんはやさしい笑顔で、僕を導いた。
僕は開放された。
「この日が来ることを、わたしは待ちわびていたわ・・・あなたに出会った、あの時から・・・」
アイリさんはベッドの中で、満ち足りた表情で話す。
「わたしは、あなたが好きだった・・・でも、人生はそう簡単ではないわ・・・わたしは、それを知っていた・・・」
アイリさんは美しく微笑みながら、僕を見て話す。
「でも、あなたの愛するひとが、あのエイコちゃんだったから・・・わたしは、いつまでも待つことができた・・・」
アイリさんは、やさしく僕を見つめながら話す。
「彼女は私の思いに気がついていた・・・お互い、それはわかっていた・・・何も言わなくても、私たち同じおんな同志だもの・・・」
アイリさんは、僕の顔を触りながら話す。
「だから、エイコちゃんが、身を引いたって聞いた時・・・わたしは、わたしの番だって思ったの・・・これからは、わたしが鈴木くんを守る番だって・・・」
アイリさんは、僕の顔に自分の顔をくっつけて話す。
「心配しないで・・・わたしが鈴木くんを守ってあげる・・・強い男になるまで、わたしが導いてあげるから・・・」
アイリさんは、とてもいい笑顔をしていた。
「ふうん・・・それで、金曜日の夕方から、日曜日の夕方まで、二人で過ごしていたって訳か・・・」
と、日曜日の夜、華厳寮の203号室で、サーフィン帰りのガオに、僕はそれまでの経緯を話していた。
「イズミには、事細かく話していたんだけど・・・女性心理を尋ねるためにね・・・それに最近、ガオは忙しそうだったし・・・」
と、僕が言うと、
「俺にも、俺の事情があってな・・・パパに恋人が出来たのは喜ばしいことだが・・・実は俺にも恋人が出来そうなんだ」
と、ガオはうれしそうに言う。
「へえー・・・やっぱりサーフィン関係?」
と、僕が聞くと、
「そうだ。東京から来ているサーフィン好きな女の子でな・・・藍ちゃんって言うんだ」
と、ガオはうれしそうに話す。
「へー。で、その藍ちゃんは、何歳なわけ?」
と、僕が聞くと、
「25歳、普段はお固い銀行員なんだそうだ。週末になると、自然の中で、身体を動かしたくなるんだそうだ・・・で、湘南でサーフィン!ということさ」
と、ガオはうれしそうに話す。
「でも・・・湘南の波ってあんまりよくないんでしょ?千葉とか、茨城の方がいいって、ガオ言ってたじゃん」
と、僕が言うと、
「まあ、そうなんだけど、湘南には湘南の雰囲気ってものがあるからな・・・彼女はこの湘南の雰囲気がお気に入りなんだそうだ」
と、どうも藍ちゃんにメロメロな様子のガオ。
「へーメロメロだな。ガオ」
と、僕が言うと、
「へへー・・・まあ、この気持ちは、お前もわかるだろ、パパ・・・」
と、ガオも負けてない。
「まあね・・・俺の場合は、年上女房みたいなもんだから・・・なにしろ、「わたしが護ってあげる!」って言われちゃったからねー」
と、僕もメロメロだったりする。
「へ。パパもメロメロだ」
と、お互い笑い合うガオと僕。
と、そんなところへ帰ってくるイズミ。
「あれ、イズミ、いつもは週末帰ってこないのに、どうした?」
と、ガオがイズミに聞く。
「ん?たまには、こういう日もあるさ・・・日曜日の夜くらい、仲間と過ごしてもいいだろ?」
と、イズミは訳あり顔。
「まあ、それはいいんだが・・・それより、イズミ、パパ、うまくいったらしいぜ!」
と、ガオは喜びながら報告。
「そうか!うまくいったか!そりゃ、おめでとう・・・俺も相談に乗ったかいがあったよ・・・で、どんな風に・・・?」
と、イズミが振るので、
「いや、それが、金曜日に、彼女誘って、横浜のスペイン料理屋に行ったんだけど・・・そこでさ・・・」
と、詳しい経緯を話す僕。
「・・・しかし、「大丈夫。わたしがあなたを護るから・・・」なんて、言われてみてーなー、一度くらい!」
と、経緯をすべて聞いたガオは、はしゃぐように、話す。
「うん。姉さん女房ってのは、いいらしいからな。よかったな、パパ!」
と、僕の肩を叩く、イズミも感慨深げ。
「まあね・・・あんなに、心配して損したよ・・・案ずるより産むが易しって、このことだな」
と、僕はリラックスしながら話す。
「まあ、でも、パパは、あそこで、あれだけ悩んだから・・・今は笑い話として、話せるのさ」
と、イズミが言う。
「うん。でも、よかったよかった・・・この部屋もまた、ゴールデンルームに復帰だ。りっちゃんに言ってやるか?はははははは」
と、ガオが笑う。
「そうだな。また、楽しい時間がやってきそうだな」
と、イズミがしれっと言う。
「今度こそ、楽しい時間にしなくっちゃな」
と、僕はこの先の未来をしっかりと見据えているのだった。
鎌倉の夜は、静かに更けていった。
(つづく)
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ここは、もちろん、僕が選んだのではなく、アイリさんのチョイスだ。
「えーと、地図で行くと・・・ああ、ここを入って、あそこね・・・」
僕は横浜を覚えるべく、地図を買いこみ、毎回こうして、店を探し当てた。
カランコローン!
と、ドアを開けると、アイリさんがすでに席に座っているのが、見えた。
「鈴木くーん、こっちこっち!」
アイリさんは明るく手を振ってくれる。
アイリさんは、今日は上品な白いジャケットに白いスカートだ。
首には上品な真珠のネックレス・・・耳には、この間、僕のあげた、シルバーのイヤリングが揺れている。
「つけてくれたんですね。僕のイヤリング・・・」
と、僕が言うと、おもいっきり笑顔のアイリさん・・・。
まあ、僕はと言えば、会社帰りを思い切り思わせる、紺のスーツ姿。
「会社、忙しそうね・・・」
と、アイリさんは言ってくれる。
「そうですね・・・2年目って一番大変ですよ。後輩の手本にならなくちゃならないし・・・それでいて、仕事も思い切り出来るわけじゃないし・・・」
と、僕が言うと、
「でも、鈴木くん、なんとなく、余裕があるような表情をしているけど?」
と、笑顔のアイリさん。
「そうですかね?アイリさんに会えるから、喜びが顔に出てるんですよ」
と、僕は素直に言う。
「そうお・・・うれしいこと言ってくれるのね、鈴木くんは」
と、素直に笑顔のアイリさん。
「スペイン・ワインを、まず頼もっか・・・わたし選んでいい?」
と、アイリさんが言う。
「ええ・・・僕、スペイン料理って正直、初めてなんで・・・」
と、僕が言うと、
「うん。きっとそうだと思った・・・わたしも、あまり機会はなかったけど・・・ええと、ルエダの白をお願いします」
と、アイリさんはテキパキと注文してくれる。
「鈴木くんって、わたしのこと、どう思っている?」
と、僕がガスパチョを飲んでいると、いきなりアイリさんは攻撃を開始した・・・。
「え、どう思っているって・・・全幅の信頼をおける東京の姉・・・だと・・・」
と、僕は逃げを打った。
「それ、だけ、かな?」
と、アイリさんは、やさしい笑顔で攻撃に出る。
「いや、その・・・僕だって、男ですからね・・・そりゃあ、美しいアイリさんが、例えば、僕の彼女になってくれたら、どれだけうれしいかって、ほんとに、思いますよ・・・」
と、一瞬の攻撃でたちまち崩れ落ちる僕・・・。
「ふーん、それじゃあ、わたしが、鈴木くんのことを彼氏にしたいって、言ったら・・・納得してくれる?」
と、アイリさんは笑顔で、さらに攻勢に出る。
「え・・・それは・・・まあ、アイリさんがそれを望むなら・・・僕が納得しないわけには・・・いかないでしょう・・・」
と、一方的に白旗を揚げる僕・・・。
「そ・・・じゃあ、わたしは、今から、鈴木くんの、彼女兼東京の姉・・・どう、これで納得してくれる?」
と、思いっきり笑顔のアイリさん・・・。
「はあ・・・納得します・・・でも、俺・・・まだ、子供ですよ・・・」
と、僕がアイリさんに言うと、
「わかっているわ・・・鈴木くんはまだまだ、これから、社会というところを知らなきゃいけない・・・そのために、わたし、鈴木くんのサポートをしたいの」
と、ルエダをぐっと飲み干すアイリさん。
「わたしに、その役をやらせて、欲しいの・・・鈴木くんの手助けをしたいの」
と、アイリさんは少し目を潤ませて話す。
「僕なんかでよければ・・・光栄です。アイリさん・・・」
と、僕はなぜか、アイリさんの両手をとって、両手で握りしめていた・・・。
「鈴木くん、十分、大人だったわ・・・」
次の日の朝、アイリさんはベットの中で、僕の顔を撫でながら、そう話す。
僕はアイリさんの美しい身体に魅了された。
しなやかな肢体は、躍動し、頂点を極め、お互い、しあわせな光の中にいた。
アイリさんのやさしい暖かさにくるまれ、僕はリラックスして、男であることを証明出来た。
アイリさんはやさしい笑顔で、僕を導いた。
僕は開放された。
「この日が来ることを、わたしは待ちわびていたわ・・・あなたに出会った、あの時から・・・」
アイリさんはベッドの中で、満ち足りた表情で話す。
「わたしは、あなたが好きだった・・・でも、人生はそう簡単ではないわ・・・わたしは、それを知っていた・・・」
アイリさんは美しく微笑みながら、僕を見て話す。
「でも、あなたの愛するひとが、あのエイコちゃんだったから・・・わたしは、いつまでも待つことができた・・・」
アイリさんは、やさしく僕を見つめながら話す。
「彼女は私の思いに気がついていた・・・お互い、それはわかっていた・・・何も言わなくても、私たち同じおんな同志だもの・・・」
アイリさんは、僕の顔を触りながら話す。
「だから、エイコちゃんが、身を引いたって聞いた時・・・わたしは、わたしの番だって思ったの・・・これからは、わたしが鈴木くんを守る番だって・・・」
アイリさんは、僕の顔に自分の顔をくっつけて話す。
「心配しないで・・・わたしが鈴木くんを守ってあげる・・・強い男になるまで、わたしが導いてあげるから・・・」
アイリさんは、とてもいい笑顔をしていた。
「ふうん・・・それで、金曜日の夕方から、日曜日の夕方まで、二人で過ごしていたって訳か・・・」
と、日曜日の夜、華厳寮の203号室で、サーフィン帰りのガオに、僕はそれまでの経緯を話していた。
「イズミには、事細かく話していたんだけど・・・女性心理を尋ねるためにね・・・それに最近、ガオは忙しそうだったし・・・」
と、僕が言うと、
「俺にも、俺の事情があってな・・・パパに恋人が出来たのは喜ばしいことだが・・・実は俺にも恋人が出来そうなんだ」
と、ガオはうれしそうに言う。
「へえー・・・やっぱりサーフィン関係?」
と、僕が聞くと、
「そうだ。東京から来ているサーフィン好きな女の子でな・・・藍ちゃんって言うんだ」
と、ガオはうれしそうに話す。
「へー。で、その藍ちゃんは、何歳なわけ?」
と、僕が聞くと、
「25歳、普段はお固い銀行員なんだそうだ。週末になると、自然の中で、身体を動かしたくなるんだそうだ・・・で、湘南でサーフィン!ということさ」
と、ガオはうれしそうに話す。
「でも・・・湘南の波ってあんまりよくないんでしょ?千葉とか、茨城の方がいいって、ガオ言ってたじゃん」
と、僕が言うと、
「まあ、そうなんだけど、湘南には湘南の雰囲気ってものがあるからな・・・彼女はこの湘南の雰囲気がお気に入りなんだそうだ」
と、どうも藍ちゃんにメロメロな様子のガオ。
「へーメロメロだな。ガオ」
と、僕が言うと、
「へへー・・・まあ、この気持ちは、お前もわかるだろ、パパ・・・」
と、ガオも負けてない。
「まあね・・・俺の場合は、年上女房みたいなもんだから・・・なにしろ、「わたしが護ってあげる!」って言われちゃったからねー」
と、僕もメロメロだったりする。
「へ。パパもメロメロだ」
と、お互い笑い合うガオと僕。
と、そんなところへ帰ってくるイズミ。
「あれ、イズミ、いつもは週末帰ってこないのに、どうした?」
と、ガオがイズミに聞く。
「ん?たまには、こういう日もあるさ・・・日曜日の夜くらい、仲間と過ごしてもいいだろ?」
と、イズミは訳あり顔。
「まあ、それはいいんだが・・・それより、イズミ、パパ、うまくいったらしいぜ!」
と、ガオは喜びながら報告。
「そうか!うまくいったか!そりゃ、おめでとう・・・俺も相談に乗ったかいがあったよ・・・で、どんな風に・・・?」
と、イズミが振るので、
「いや、それが、金曜日に、彼女誘って、横浜のスペイン料理屋に行ったんだけど・・・そこでさ・・・」
と、詳しい経緯を話す僕。
「・・・しかし、「大丈夫。わたしがあなたを護るから・・・」なんて、言われてみてーなー、一度くらい!」
と、経緯をすべて聞いたガオは、はしゃぐように、話す。
「うん。姉さん女房ってのは、いいらしいからな。よかったな、パパ!」
と、僕の肩を叩く、イズミも感慨深げ。
「まあね・・・あんなに、心配して損したよ・・・案ずるより産むが易しって、このことだな」
と、僕はリラックスしながら話す。
「まあ、でも、パパは、あそこで、あれだけ悩んだから・・・今は笑い話として、話せるのさ」
と、イズミが言う。
「うん。でも、よかったよかった・・・この部屋もまた、ゴールデンルームに復帰だ。りっちゃんに言ってやるか?はははははは」
と、ガオが笑う。
「そうだな。また、楽しい時間がやってきそうだな」
と、イズミがしれっと言う。
「今度こそ、楽しい時間にしなくっちゃな」
と、僕はこの先の未来をしっかりと見据えているのだった。
鎌倉の夜は、静かに更けていった。
(つづく)
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