Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

健太の指摘

2015-07-22 01:00:00 | 雪3年3部(張子の虎~繋がり)


コピー室にて。

雪は白目のまま、出来上がっていくプリントをただぼんやりと眺めていた。



先程の出来事は、まだすんなりと理解出来ていない。

「オレ、お前んちの麺屋辞めっから」




何だろ‥さっき何かが過ぎ去って行ったような‥嵐のように‥



亮が、店を辞める。

どこかへ行ってしまうかもしれない。

雪の脳裏に、夏の終わりに同じようなシチュエーションに陥った時のことが思い浮かんだ。

辞めちゃうんですか?

どうしたよ?人間は出会いと別れを繰り返す生き物なわけよ!



あの時はどこか自分と亮との感情がシンクロしたような、そんなシンパシーを感じた気がした。

けれど先刻の亮は違った。何を考えているのか全く分からなかった。

「今まであんがとな」




‥本当に同じ人‥?



胸の中がモヤモヤする。

雪は出来上がって行くプリントを揃えながら、そんな心情を持て余した。

するとそんな雪の後ろから、巨体がそっと近付く。

「あっかやま!ヤッホー

「ひいっ!」



突然の背後からの不意打ち攻撃。雪は思わず息を飲む。

しかし健太は一向に気にせず、雪の持っているプリントを覗き込んだ。

「何してんだ?コピー?」



「授業の資料か?」



親しげなムードで近付く健太。どっこい、その攻撃をかわす雪。

両者はお互いの思惑を見抜いて牽制し合った。

「チッ」 「フン!」



しかし健太は引かない。六つも年下の後輩に、今度は泣き落とし攻撃である。

「なんなんですか?!」「俺さっきこれ見たんだ‥Q社の就活準備‥。入社に成功した事例だよな?」

「これ、うちの学会の資料なんですけど!」



‥嫌な予感がする。

こんな時は逃げるが勝ち、と雪は健太に背を向けようとするが、そうは問屋が卸さない。

「そんじゃこれで‥」「あー!待った待った!なぁ、それのコピーもらっちゃダメ?」

「はぁぁ?!健太先輩は財務学会入ってないじゃないですか!」「そこをなんとかさぁ~!」

  

ゴネる健太。そして泣き落としが通用しないと分かると、彼はいつものように怒り出した。

「おい!どうせその手の情報なんてネット上に溢れてんだろぉ?!」

「それでもこれは学会のメンバーだけが貰える資料なんですから!てかネット上にあるなら自分で探せっ

「財務学会の先輩だけが先輩か?!俺だって先輩だろうが!」



すると健太の怒りにつられ、雪もだんだんイライラして来た。

頭の片隅に押しやった不満までもが、ひょっこりと顔を出す。

「それに‥」



「あ?」

「私の弟の足踏むの止めてもらえませんか。

最近よく弟を困らせてるでしょ。またやったら‥」




その雪からの抗議に、健太は大袈裟なアクションで反応した。

「うっわ赤山!どーして俺がお前の弟にそんなことを?!一体どうしてだぁ?!」

「だ‥だから恵が‥」「うわ、マジかよ」



そして健太は雪の顔を真っ直ぐに見ながら、こう指摘したのだった。

「赤山、お前ものすごい変わったぞ。分かってっか?」



「!」



思わずぐっと言葉に詰まった。

黙り込んだ雪に向かって、健太はくどくどと小言を炸裂させる。

「逆にな?俺がミスってお前の弟の足を踏んだことがあったとしても、

んな小せえことずっとグチグチグチグチ言うのってどうよ?

ちょっと足を踏んだだけで怒るとか‥。前にも容赦なく除名したよな。

俺そのせいで成績落ちて、更に就職出来なくなったんだぜ。マジでずっとこんな仕打ち続けるのか?」




声も図体もでかい健太が女の後輩に異議を申立てている光景は、人々の関心を誘った。

好奇な視線を感じ、雪は一人アワアワと慌て出す。

「ひどすぎんぞマジで!」

こ‥この無鉄砲野郎‥!



この状況をどう切り抜けるべきか?

雪はプリントの一番最初のページに書いてある諸注意に、速攻で目を通す。

今回の資料は共有禁止ではない

初回資料の為、情報もあまり入ってない




それを読んだ瞬間、肩の力が抜けた。

もうあげてしまおう、そう決めた雪は健太に向き直る。

「とにかく‥弟には絶対謝って下さい」



「今日はこのコピーしたものを渡しますから」

「さっすが赤山!」



プリントを受け取った健太はハートを飛ばしながら、バンザイをして喜んだ。

「なんて広い心の持ち主なんだぁ~!分かった分かった、絶対謝るから!コーヒーおごろっか?」

「いえ結構です」



健太は先程までとはまるで別人のように、親切な先輩となって後輩に接する。

「我らが赤山よ~何か困ったことあったら言えよ?」

「いや特に‥その代わりもう次はないですからね!」「分かってるって~」



そして健太は上機嫌で雪に背を向けた。どこか気になる台詞を言い残して。

「お前はもう変わっちゃったもんだと結構マジで思ってたんだけどなー?

やっぱりお前は優しいやつだった!んじゃなー」




成績が良いわけでもない、尊敬出来る点も少ない、そんな先輩だが、

野生の勘というか第六感が発達しているのが柳瀬健太という人間だ。

そんな人間から、「赤山は変わった」と指摘された‥。



雪はどこか妙な気分になりながら、コピー室を後にした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<健太の指摘>でした。

横山の時と同じように、健太が出てくると憂鬱な気分に‥

雪ちゃん、おつかれさまです‥。


次回は<変わった彼女>です。

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笑顔の裏に

2015-07-20 01:00:00 | 雪3年3部(張子の虎~繋がり)
胸に不安の影が過る。

とんでもない災難の余波が、じわじわと近づいて来ているような‥。

不吉‥どうも不吉だわ‥



柳瀬健太と柳楓、そして佐藤広隆のトラブルがこんなにも近くで起こっている。

今までの経験上、巻き込まれずに済んだ試しが無い‥。

何かが水面下でジワジワ進行してるような‥そんな感じ‥

 

そこまで考えたところで、見覚えのある人影が目に入った。

彼は一人でベンチに腰掛けている。



思わぬ人物との邂逅に、目を丸くする雪。

「河村氏?」







野外に座る亮の周りには、北風の音や車の走行音が響いている。

けれどそのどの音も耳に入っていないかのように、彼は深い沈黙の中に居た。



虚ろな、それでいて恐ろしいほどの激情を宿しているような、危ない眼差し。

瞬きもせぬまま、亮は何かを見据えている。



まるで手負いの獣のような、張り詰めた空気を纏う彼。思わず雪は立ち止まった。

声を掛けることも出来ずに。






やがて立ち尽くす雪の存在に、亮は気づいた。

雪は多少気まずい気持ちになりながら、苦笑いを浮かべる。

「あ‥」



頭を掻きながら、亮の方へと踏み出す雪。

「河村氏‥ここで何してるんですか?」



すると亮は雪の方へ向き直り、笑みを湛えた。

「ダメージ!」



先ほどの雰囲気とガラリと違ったその姿に、雪は妙な違和感を覚えた。

今の彼は彼らしくあるようで、彼らしくない‥。




「‥‥‥」



胸の中に感じるそんなしこり。

けれど雪は感じた違和感をそのままぶつけるではなく、茶化すような口調で亮に話し掛けた。

「なにを悲愴ぶってんですか?」「あ?そう見えたか?」「何かあっ‥」「お前身体大丈夫なの?」

 

亮は雪が質問を繰り出す前に、逆に質問を返した。二人のいつもの言い合いが始まる。

「入院していくらも経たねぇうちから学校かよ!」「大丈夫ですよ。ただのストレスで‥」

「お前ってば頭はイイみてーだけどストレスには耐性ねーのな。ちっとは運動しろ!」

「元々胃炎持ちなんです



雪は諦めずもう一度質問しようとするも、

「それより河村氏は‥」

「あ、そーだ!オレさっきよぉ、志村教授に会いに行ったんだけどー‥」

 

また話出す前に逸らされてしまった。

亮は先刻志村教授から聞いた話を雪に教える。

「約一月後に、規模は小さいがピアノコンクールが開かれるんだ。出てみないか?

そんなに権威あるコンクールではないが、こういうのも経験してみたらどうだ?

色々悩みはあるかもしれんが、一旦切り替えてこっちに集中してみたらいい」




その教授の話を聞いた時、亮の心の襞が、微かに震えた。

告げに来た別れの言葉を、その振動は喉元で押し留める。



そして亮は頷いた。

その結論だけを、今雪に伝えている。

「えっ!コンクールに出るんですか?!」「ま、そんなとこ?」



その吉報に、雪は拍子抜けしながらこう思った。

なんだ‥かなり良いニュースじゃん



けれど先ほど確かに感じた、あの妙な感覚は捨て切れない。

じゃあさっきの違和感は何だったんだろう‥私の勘違い‥?



明らかに尋常でない様子だった。けれどそのことについて、亮は何も言わない‥。

未だ完全に胸の中の霧が晴れたわけではないが、とにかく吉報は吉報だ。

雪はニッコリと微笑んだ。

「良かったじゃん!」



まるで自分のことのように喜ぶ彼女。その笑顔を前にして、亮は感情を奥に隠した。

浮かべる笑顔のその裏に。



亮は雪と視線を合わせずに、こんなことを語り出した。

「ここ何日かすげーグチャグチャ考えてたんだ。オレらしくもなくな」



色素の薄い前髪が目にかかって、雪はその眼を見ることが出来ない。

亮が語るその言葉の意味も、見えないままだ。

「それでずっと、らしくねぇことばっか味わったんだろうな。だからこれからは、もう何も考えねぇ」

「??」

 

一向に話が見えない雪の前で、亮は溜息を吐くと、いつもの憎まれ口を叩いた。

「ま、今まで死にそうなお前見てたら、ウジウジ悩んでばっかだと身体壊すってこと学んだからな、オレ様は。

お前ってばもう、悩める国のプリンセスだな。言うならば悩み姫?」


「はぁ~?!違いますって!」



「とにかく、」と亮は口にし、雪に横顔を向けたままこう言った。

「考えんの終わりにしたら、確証が持てたんだよ」



秘められた感情の一片が、亮の口から漏れる。

雪はその匂いを嗅ぎ取り、質問する。

「‥何のですか?」



亮の眼は遠くを見つめていた。

まるで過去を辿るような、もう戻れない場所を眺めるような。

「オレがどうしてここに来たのか」



違和感は続いている。

亮の口からその断片が語られる程、違和感は強くなって行く。

「‥‥‥‥」



亮は雪の方へ向き直ると、さらりとビッグニュースを口にした。

「あ、それとオレ、お前んちの麺屋辞めっから」



「えっ?!」



あんぐりと口を開ける雪に、亮は涼しい顔で言葉を続ける。

「あー他のアルバイト探すまでは働くから、そこは心配すんな。社長にはオレから言っとくから」

「突然どうしちゃったんですか?!河村氏?!何か問題でもー‥」



アタフタと動揺する雪。その意図を聞こうとするも、やはり亮ははぐらかした。

「今はピアノに集中しなくちゃなんねーんだ。予選まで残り少ないからな」

「??」 「とにかく!」 



そう話を締めくくると、亮は最後にこう言った。

「今まで色々あんがとな」



色々なものを笑顔の裏に隠し、彼は雪に背を向ける。

「じゃーな!」

 

突然やって来た嵐のように、彼は雪の心を掻き乱して去って行った。

まだ何も合点のいっていない雪は、目を丸くして首を捻る。

「‥はぁ‥?」



まるで青天の霹靂。

突然の出来事に気を取られ、雪は亮が笑顔の裏に隠したものを見過ごしてしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<笑顔の裏に>でした。

亮さん‥いなくなってしまうんでしょうか‥ 切なすぎる‥(T T)

ピアノコンクールが何か大きな意味を持ちそうな、そんな予感がします。


次回は<健太の指摘>です。まだ出るか‥健太‥orz


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不吉な予感

2015-07-18 01:00:00 | 雪3年3部(張子の虎~繋がり)
翌日早朝。



雪は財務学会に参加するため、大学院の一室に来ていた。

代表は皆にプリントを配り、その内容をざっと口にする。

「これは大企業に入社した学会の先輩の資料だ。

就活の内情、スペック、面接の質問リスト。毎週一枚ずつ渡すから」




そこには事細かく、どのようにして大企業に入社するに至ったかが記載されており、

学生達は皆それに目を通しながら「おお」と声を上げる。

「今回は化粧品で有名なQ企業に入社した先輩で、経済学科出身」



皆と同じく佐藤と雪も、熱心にそのプリントを読んだ。

そして財務学会が終わってからも、Q社についての議論を交わす。

「Qは有名だけど、これほど大きくなったとは」「ですよね」

「国内じゃ母親世代が使う中年ブランド?みたいに思ってたけど」

「やっぱり中国市場が大きいことは大きいですよね」

「うちの国でもQはちょっと高級ブランドのイメージがあるだろ?」「はい。高価ですよ」

 

「ふむ‥それが中国では低価格ブランドに様変わり‥すごいな」



佐藤はプリントを読み込みながら、ふむふむと深い考察をしている。

その顔は真剣そのもので、雪は彼の横顔をじっと見つめた。



微笑みながら、雪は佐藤について一人思う。

知れば知るほど、マジメで良い先輩だな。

無愛想だけど、打ち解ければ良くしてくれるタイプみたい




今まで同じ学科の先輩の一人として佐藤に接して来た雪も、ここ最近彼と共に過ごすことが多くなった今、

あらためて佐藤の勤勉さや努力家な面を尊敬するようになった。

そして佐藤といえば、先日見掛けた柳瀬健太と柳楓との一件が印象的だが‥。



ノートPCのことで‥機嫌悪かったぽいけど‥。よかった‥もう大丈夫みたい‥。

ま、敢えてその話題を出さない方が良いだろうな‥




雄弁は銀、沈黙は金。

雪はとりあえず口をつぐむ。



すると視線の先に、渦中の人物二人が同時に飛び込んで来た。

柳瀬健太と、柳楓だ。

 

雪から右手に健太、左手に柳。

ここは一本道で、どうしたって今雪と佐藤の居る辺りで彼らは出くわすことになる。



思わず雪は白目を剥いた。佐藤はプリントに目を落としているので気がついていない。

「ぎょえ‥」



健太も携帯を見ているので彼らの姿には気づいていない。

画面には、母親からの小言メールが表示されている。

<一体いつ就職するんだい?アンタは年齢が年齢なんだ。

ウチには金を稼いでくる人間が一人もいやしないじゃないか 母>


「あーまじ余裕ねー!死にそー!人適正の準備はいつすりゃいいんだよ!

英語だけでも大変すぎて死にそうだっつーの」




グチグチとこぼす健太。彼の口から出るのは不満ばかりだ。

「ノートPCどっかで借りれねぇかなぁ。必要なモン多すぎるくせに、

ゲットすんのが超大変っていう‥」




健太がそこまで口にした時、前から歩いてくる柳楓の存在に気づいた。

柳もまた、健太の姿を認識する。



すると柳はパッと笑顔を浮かべ、イヤホンを外して口を開いた。

「あ、チワッス先輩!」



返事をする健太。

「おお‥」



しかし柳は健太に目もくれず、違う先輩の元へと歩み寄った。

「一服しません?」



健太の顔がみるみる歪んでいく。

「あのヤロ‥」 「コーヒー飲みに行きません?!」「どうした?」



その場面を目にした雪は、咄嗟に佐藤の背を押して来た道を引き返そうとした。

しかし時既に遅し。あっという間に捕まってしまう。

「ハァ~イ!」



思わずビクッと固まる佐藤と雪。

健太は馴れ馴れしく、佐藤に擦り寄りこう言った。

「柳の野郎からPC弁償してもらったか?

アイツが壊したんだから当然弁償してもらったよなぁ?」




しかし佐藤は健太のことを完全無視し、プリントに目を落としたまま違う方向へと歩いて行く。

「どいつもこいつも‥」



去って行く佐藤を睨む健太であったが、偶然背中越しに佐藤が見ているプリントの文字が読めた。

財務学会()期 卒業生



「ンン?」



ピクリと反応する健太。

そしてその後ろで雪が、逃げるが勝ちと言わんばかりに全速力でその場を後にした‥。





教室へ入り着席した雪の元に、柳楓がやって来た。

「赤山ちゃん!ハァ~イ?」



柳は雪の右隣に座る。

「席無いわ~。一緒に座ろ?」「はいどうぞ」



普段なら四年の先輩同士で絡む柳だが、もうそれもなかなか出来ないのだろう。

雪はしんみりとした気持ちで柳を見る。

最近は四年生も少なくなったから、柳先輩も寂しいんだろうな‥。



「ノート一緒にとろ!」と陽気な柳だが、心の中では寂しさを感じているのだろう。

二人は二言三言会話を重ねた。

「体調はどう?淳、病院に見舞い来たん?」「はい、寝てる間にー‥」

「何を一日中ラインしてんの?」「別に大したことじゃありまセン」



そしてそんな雪の左隣では、聡美と太一が会話していた。

といっても、携帯を見てばかりの太一に一方的に聡美が話し掛けているわけだが。

「バイトすることにした件ですヨ」



つれない太一。おまけにどこか気に入らないバイトまで始めた。

聡美は太一をジトッとした視線で睨む。

「雪オハヨー」「あ、うん!オハヨ」「身体大丈夫ー?」



同期から話し掛けられ、笑顔で応える雪。皆はワイワイとお喋りに興じる。

「淳の上司ってマジヤバイらしいな?」「聡美、ちょっと質問~」「これ飲む?」

「そこ静かに!」



すると学科代表の直美から注意が飛んだ。

「もう先生来るよ?」 「あいよー」



雪が後方の席を振り返ると、柳瀬健太の姿を見つけた。

だるそうにアクビを噛み殺している。



雪は据わった目つきで彼を凝視しながら、どこか不吉な予感がした。

その災難がいつか自分の身に降り掛かってくるような、嫌な予感が‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<不吉な予感>でした。

健太‥この期に及んでまだ佐藤先輩からPC奪おうとしてるとか‥

早く青田先輩の休学ノートに名前を書かれてしまって頂きたい‥!


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同士

2015-07-16 01:00:00 | 雪3年3部(張子の虎~繋がり)


ランチの後、一度別れた雪と萌菜であったが、夜になってもう一度顔を合わせた。

二人はコーヒー片手に、屋外のベンチでお喋りに興じる。

「それじゃあ週末も彼氏に会いに外出てたってこと?」「うん」



雪が自身の近況について話をすると、それを聞いた萌菜はあからさまに眉を寄せた。

彼女は溜息を吐きながら、ヤレヤレと言った具合に首を捻る。

「あんたって子は‥授業も週五日あるのにどうしてそこまでするんだか‥。

休日が全然無いじゃない。だから倒れんのよ」


「けどそうでもしなきゃ会えないんだもん。それが倒れた理由ってわけじゃないよ」



相変わらずの雪の不器用さを目の当たりにして、萌菜はこう提案した。

「平日の夕方とかに会えば良いじゃない?」

「先輩の仕事終わりに会ってもあんまり一緒に居られないし‥。先輩も疲れるだろうしね」

「ったくアンタってば、The恋愛初心者じゃんかー」

 

「付き合ってるっていうのに、そこまで気ぃ遣って顔色伺うかね。

会いたきゃ会いに行けばいいじゃん」


「いや私も平日はキツイのよ。こっちがシニソウ‥



ヨレヨレになってそう答える雪。疲労の色は濃く、見ているこちらまで心配になってしまう程だ。

萌菜は息を吐くと、親友に一つアドバイスをした。

「ま、アンタもちゃんと分かってんだろうけど‥。

とにかく私も恋愛して別れてのゴタゴタを経験して分かったけど、

どんな時でも自分を労ることが最優先だよ」




萌菜は過去をなぞるような視線で前を向いている。雪はそんな彼女の横顔を見つめている。

「恋愛するにも自分に余裕がないと。だから最近私フリーなのかも」



萌菜はそう言って目を閉じた。彼女はストイックにこう続ける。

「忙しいし、当分仕事に集中しなきゃだし」



その横顔を見ながら雪は、太一に興味があるのか聞こうとしたけど‥

と太一の顔を思い浮かべていたが、やはり今は止めておこうと決めて口を噤んだ。



秋の夜風が頬を撫でて行く。

雪はウウンと身体を伸ばし、いつになくリラックスしている自分を楽しんだ。

「あ、あと同窓会するから出なよ?」

「え?またあるの?」



雪からの質問に萌菜は頷き、ニヤリと笑ってこう付け加えた。

「ま、彼氏も時間あったら呼べばいいんじゃん?」



萌菜の瞳が妖しく光る。

「ゆりっぺって覚えてる?最近あの子の彼氏自慢がすごくてね、ちょっと鼻っ柱折ってやりたくてさ。

あの子、アンタが彼氏出来たって嘘ついてるとか言いふらしてるじゃん?」
「ひぇぇ‥」



「デートも兼ねてさ」 「んー‥」



雪は、昔の友人達の中に自分と先輩が居るイメージを想像してみた。

どこか不安な気持ちがする‥。

うーむ‥先輩を‥。都合つくかな‥



恋愛、友情、勉強、仕事‥。

人生の中でステージが変わる度、人は色々な世界に取り囲まれる。

常にその流れに翻弄される雪にとって、萌菜は安心出来る存在だ。



雪は萌菜を見つめながら、その敬意を言葉にする。

「とにかく‥萌菜はカッコイーよ」



「言ってたこと、一つ一つ成し遂げて行ってるじゃん。

私なんてまだ学生なのに、萌菜は本当に社会人って感じだし‥」


「なーによおだてちゃって」



フッと笑いながら、萌菜は首を横に振る。

「私だって先輩達とお金出し合ってなんとかやってるのよ。

仕事だって完全に安定してるとは言い難いし。アンタも卒業まで頑張ればいいじゃん?」


「だね」



ステージは違っても、自分達は同士だ。

何か目指すものがあり、それに向かって努力する。そして心の中には、いつも互いの姿が在る。

「もう少しがんばろ。私も、あんたも」



萌菜のその言葉に、雪は微笑んで頷いた。

その存在を感じる度に頑張ろうと思える、それはとても稀有なことだと思える。



そして二人は夜が更けるまでずっと、色々な話をした。

この夜が終わればまた、互いのステージで奮闘する日々が待っている。

今日はそこへ向かうための、力を溜めるほんのひと時‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<同士>でした。

雪と萌菜、いいですね

雪と聡美は「友達」という感じですが、雪と萌菜は「同士」という印象です。

そしてドライに見える萌菜さん、結構付き合って別れてを経験なさってるんですね‥(なぜか敬語)

これから彼女がどう物語に絡んで来るのか、楽しみにしたいと思います。


次回は<不吉な予感>です。


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張子の虎

2015-07-14 01:00:00 | 雪3年3部(張子の虎~繋がり)


昼間、青田邸を尋ねた亮が自宅のアパートに帰り着いたのは、すっかり日も暮れた頃だった。

外灯が薄ぼんやりと細い路地を照らす中、亮は玄関の鍵を開ける。






しんとした室内。

亮はむっつりと黙り込みながら、ただ静かに廊下を進む。

未だ、胸の中が熱い。澱のように溜まった怒りが、中で淀んでいるかのようだった。






自室へ向かう途中で目についた。静香の部屋のドアが、僅かに開いている。

そしてその隙間から、低い呻きのような声が漏れ出ている。



亮はゆっくりと部屋へと近付いた。

そして目に入って来たのだ。その惨憺たる部屋の中身が。

 

床にばらまかれた化粧品。液晶の割れた携帯電話。

そして放置された鋏の傍らに、切り刻まれた服の生地らしきものが見える。



亮は静かにドアを開けた。

そして薄暗い部屋の中で彼は見たのだ。うずくまり、震えている姉の姿を。



静香はゆっくりと亮の方へ振り向いた。

「何見てんだよ」



彼女は瞳孔の絞られた、まるで獰猛な獣のような瞳をしていた。

しかし亮は怯まない。胸の中に溜まった怒りのせいで、彼もまた獣のような眼差しをしている。

「‥今度は何事だ」



静香は迸る怒りに耐えるあまり、呼吸が荒い。

先ほどの忌々しい出来事が、再び脳裏に蘇って来る‥。






「青田の紹介で来られたお友達ですよね?」「こんばんは」



淳から紹介されたパーティーへと潜入した静香は、早速目ぼしい男性陣に声を掛け始めた。

華やかなパーティー。自分に集まる男達の眼差し。始めは全て静香の思い描いていた通りだった。

しかし‥。

「なぁ‥あれマジで青田の友達?」「電話したらそうだって言ってたけど‥」

「着てる服は高い物みたいだけど‥」「喋れば喋るほど違う気がするよな」

 

次第に彼らは、懐疑的な眼差しを静香に向け始めた。

そしてだんだんと内情に踏み込んだ質問が、静香に向かって矢継ぎ早に繰り出される。

「おいくつですか?どこの大学?留学は?お仕事は何を?」



そして答えれば答える程、潮が引くように人がいなくなった。

皆静香を遠巻きに眺めながら、嘲笑に似た表情を浮かべている。女の子達がヒソヒソとこちらを見て囁いている。

「いくら美人でも頭空っぽじゃね‥。俺らももういい年だし」

「本当に青田君の友達なの?」「まさかあの高校の時の‥」



中には同じB高に通った同級生も居た。

そして皆一様に静香から背を向けて行く。



ブランド物の服も、綺麗にセットした髪も、何も役に立たなかった。

花を挿したカクテルが、小刻みに揺れ始める。あたしは、誰の目にも留まらないー‥。



バシャッ!



怒りが沸点に達した時、気がついたらそれを投げつけていた。

思い出せば思い出すほど、憤怒の炎で胸が燃える。

「うあああああああああああああっ!!!」



虎は牙を向きながら、傍に居た弟に掴みかかった。

「淳のヤツ‥!前もって皆に話しておいたのよ!間違いないわ!

予めこう言えって皆に言ったのよ!」




瞳の中に、同意を求める光が揺れる。

静香は己に言い聞かせるように言葉を続けた。

「男共があたしに対してあんな態度取るわけないじゃない!

あたしの顔を見てあんな態度取れる男がどこにいるっていうのよ?!」




静香は亮を仰ぎ見ると、必死の形相で肯定を迫る。

「そうでしょ?そうよね? あんただって淳がそうしたって思ー‥」



しかし姉は気づかなかった。

弟の瞳が、自分よりも遥かに鋭く、怒りの炎を灯しているということに。

「いい加減にしろ」



弟の虎は姉虎の首を掴むと、恐ろしい程静かな口調でこう言った。

「オレもマジでウンザリなんだわ」



首に掛けられた力は強く、静香が身を捩ってもそれはびくともしなかった。

「‥ッ!」



パッ



亮は首に掛けた手を外すと、そのまま姉に背を向け部屋を出た。

静香は激しく咳き込みながら、思わず両膝を地面に着く。



バンッ、とドアの閉まる音を聞きながら、静香は怒りに震えた。

「‥アイツ今‥あたしに‥」






すると、床の上に落ちていた携帯電話が震えるのを静香は聞いた。

バッ!



手に取り、画面を点けると、忌々しい男からメールが届いている。

<狐野郎>

これで横山翔の件の借りは返したから。

せっかく招待してやったのに、まさか俺の友達の前であんなことしでかすなんてな。

俺が話付けたお陰で問題にならずに済んだんだぞ。




淳からの説教メール。

バカバカしくてやってられない。

「ハッ!」



静香は発信ボタンを押し、淳へ電話を掛けた。

しかし耳に入ってくるのは、電子音ばかり。

電話に出ることが出来ません‥



「クソッ!!」



静香はありったけの携帯電話を床にばら撒いた。

そしてその全てで淳への通話を試みるが、尽くブロックされている。

電話に出ることが出来ません‥お掛けになった番号は‥



虎はうずくまりながら、狐に対して怒りに震えた。

「あの野郎!どの携帯も着拒しやがって‥!」



こんなに電話があるのに、一つも繋がらない。

あれだけ人が居たのに、一人も自分の方を振り向かない。

「あたしに恥かかせやがって‥」



「このあたしに‥!」



鼓膜の裏に反響する電子音に混じって、嘲笑が聞こえる。

それは耳障りなノイズとなって、そのプライドをズタズタに切り裂いていく‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<張子の虎>でした。

静香さん‥現実から逃げるのも程々にしないと‥

女性が美しさを売りに出来るのは若い頃だけなのね‥と切なくもなりますが。

そしていつもならすぐ怒鳴る亮さんの、内に秘めた怒りが怖かった。

この姉弟、どうなるんでしょ‥。


次回は<同士>です。

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