持っている文庫本を再読してる。
鷺沢さんは30代の頃一時期読んでた。当時は美人若手作家ということで注目を浴びてた。
でも、描かれてる題材が凄く重く暗い。
都会で派手で遊んでてもどこかで醒めてる、苛立ちを抱えてる若者。
順調な人生を歩む筈だったのに家庭の事情で夢を諦めて投げやりに生きてる若者。
何処かで熱さや希望を捨てきれない、でも、そんな自分を醒めた目で見てる。
頭がイイ故に諦めてる、でも捨てきれない若者たち。
鷺沢さんの文章は決して重苦しくなくクールなんだけど、だからこそ読んでてキツい。
主人公達にもイマイチ共感できなかった。
当時のボクは鷺沢さんの作品の魅力が分からず離れてしまった。
8年前に鷺沢さんが亡くなり(自死)とある雑誌の追悼特集に触れ興味を持った。
作品を集め再読した。旧作は殆ど廃刊、古本屋を廻って集めた。新刊は必ず入手した。
30代のとき分からなかった魅力がスンナリ入ってきた。
重さ、暗さはマジメさと誠実さの裏返し、醒めた、は殊更自分の傷みを語らない慎み、と気付いた。
そして何より鷺沢さんの文章には「優しさ」があった。弱者に対する優しさが。
改めて読むとホントに温かく優しいコトバに溢れてる。他人に優しく自分に厳しい。
「他人のために何ができるか」「自分の傷みなんか大したことがない。」
その姿勢は一貫してる。最近読んで刺さったコトバを連ねてみる
「弱者には同情ではなく愛情を注ぐこと」
「いるんだったら役に立て」
「(他人に親切にすることは)わたしの場合、オナニーです。キモチいいから」
「考えられ得る最悪の状況を常に頭の中で想定していれば、少なくともショックだけは軽減できる」
「血膿のしたたるような思いをどこかに包み隠しながら、それでも平穏に生きようと
つとめている人を私は好きだ」
「゛あきらめる゛ことは実は゛あきらめない゛ことよりずっと辛いことではないか、」
「私は自分という人間が存在する以上、自分以外の他者、誰かの役に立つことをしたい」
書いてるだけで何か泣きたくなる。胸がギューーーーッと締まる。
鷺沢さんはキレイ事を言ってるだけじゃない。実家は倒産、父が早死に、そして
韓国人の血が4/1混ざっている。自分の出生、育った環境、亡くなった父への愛憎、
いろんなものを抱えながら、でもそんな自分に対して醒めた目で「オマエの悩みなんて
ヘナチョコだ。思い上がるな」と突っ込みながら他人のために何かをしようとしてる。
そして「他人のために何かする」を鷺沢さんは実践してる。キレイ事を言って自分に酔ってない。
文盲(スミマセン)の在日韓国人のお年寄りのために字を教えたり、言われない差別を
受ける韓国人の友人のために怒ったり、世話になった友人の母親の送り迎えを軽く引き受ける。
誉められると「オナニーですから」と笑って流す。謙遜で無くホンキでそう思ってる。
自分以外の他者のために生きる、何かをする。オレには無い視点だな。
オレが何かやるのは全部自分のため。自分の満足のため、他人を喜ばすためじゃない。
ゴミ拾いだってボランティアだってテメェのためだ。
「何もできない、何もしない」のはイヤだから、ムカつくから行動する。これはケンカだ。
ケンカだから他者への思いやりなんてない。全部自分しかない。だから時々空しい。
一方で「オレは他人(ひと)のために頑張ります!」なんて人間にはなりたくない。
それはオレにとってウソだから。リアルじゃないから。
だから自分のためでも偽善でも結果が人のためになるならイイじゃんと割り切る。
鷺沢さんの文章に触れてるとホントの偽善じゃない優しさを感じて、痛くなる。
こんな風に生きれたらイイな、こんな人ってイイな、ホントそう思う。
だからこそ、鷺沢さんが自ら死を選んだ、ことに納得ができない。
自殺が絶対ダメだ、なんて云わない。人それぞれ事情や抱えてることがあるから。
でも、これほどしエネルギッシュで優しく他人のために頑張ってた人が「なぜ」死を選んだのか。
何度考えてもワカンナイ。とても残念だ。とても悔しくて、とても哀しい。
もっと生きてほしかった。そして、もっと優しさにあふれた作品を紡いでほしかった。
昨今この国は、過剰な自己主張、罵り合い、イジメに溢れてる。
大津のイジメ事件を見ると確かに学校、教育委員会の対応は問題がある。
でも無関係な第三者がネットで晒し者にして嘲笑していいわけがない。それこそイジメではないか。
或いは脱原発・原発推進者同士の互いの発言に対する非難の応酬。
誰が何を言ってもイイだろう?それをイチイチとりあげて批判して何が進むのか?
それぞれ自分が思う道を進めばいいのでは?自分が信じる行動をすればいいだけでは?
エラそうに言ってるが、オレも他人を責めることはしょっちゅう。同じ穴のムジナ。
勿論、間違ったことは批判し質さないとイケナイ。
だけど、非難・攻撃・正義をふりかざす、は手段として間違ってる、と思う。
それは鷺沢さんが取っていた行動、目指していた世界とは真逆のように感じる。
鷺沢さんの作品は優しさに溢れてる。ぜひ若い人に読んでもらいたい。
でも、今ではほとんどの本が入手不可能。
これほど素晴らしい作家さんの作品が多くの人に届かない。それがホントに残念だ。
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