ひまわりの種

毎日の診療や暮しの中で感じたことを、思いつくまま書いていきます。
不定期更新、ご容赦下さい。

「他人事」という優しさ

2011年11月08日 | 日々のつぶやき
ちょっと妙なタイトルなんだけど・・・・。

9月下旬に、用事で名古屋まで出かけた時のこと。
用事を済ませると夜も遅くなったので、宿泊先までの移動にタクシーを使った。
運転手さんは、大阪から働きに来たというおっちゃんだった。

 ーお客さん、どちらから?

わたしは、ちょっと迷ったが、思い切って答えた。

 あのう・・・、福島からです。
 あ、でもね、「放射能」は付いてませんから。σ(^◇^;)

こう、冗談めかして答えたら、

 ーあぁ、そうですかぁ。福島からおいでんなったですか。ワシ、全然そんなこと気になりまヘんデ。

 そうですか、ありがとうございます。

わたしは素直に礼を述べた。

運転しながら、おっちゃんはさかんに景気のこととか世間話をした。

 ー名古屋はトヨタがあるもんで、景気がいいと言われとるけど、震災を受けて自粛自粛で、
  まぁ、ワシらの商売も上がったりですワ。

 ーホントなら、こういう、関係ないとこの住民は、いつもとおりにお金遣ってもらわな、
  日本の経済が上向きになりませんワね。

 ーこんなこと言うたら気ぃワルくするかも知れんけど・・・・、気にせんで聞いてナ。
  お客さんには、ワルイけどな、本音言うたら、わたしらからしたら、震災も原発事故も、人ごとですねん。
  阪神大震災の時、ワシは大阪におったけど、あんなに近くても、大阪人からみたら、神戸は人ごとやった。
  ニンゲンなんて、そんなモンですワ。

 まぁ、そうでしょうねぇ・・・。

と、わたしはうなづくしかない。

おっちゃんは続けた。

 ーだいたいナ、当事者でもないのに、わかりますかいナ。
  本音は人ごとのくせに、ああせい、こうせい、言うほうが、ウソくさいですワ。

 ー人ごとやから、なんもできんけど、義援金は募金しましたデ。少ないですけどナ。
  福島のモモも買いましたデ。安くて農家は気の毒やワ。

 (おっちゃん、いいひとやんか!!)
わたしの心の声も名古屋弁になって、それはありがとうございます、と答えた。

 ーせやから、お客さんが福島から来ようがどこから来ようが、ワシには関係ありませんねん。
 ーワシらは普通にしとっったらええんですワ。

結構な長距離になったせいか、おっちゃんは目的地の1キロぐらい手前で、料金メーターを倒した。
そして降りる時に、

 ーお客さん、負けずに頑張ってや。

こう言って、さらに料金を少しまけてくれた。

狭い車内での、小一時間にも満たない、初対面の、おそらくは1回こっきりの出会い。
「(あの)福島」から来たというわたしに、
「(震災や原発事故は)他人事だ」ときっぱり言い切ったおっちゃんは、
大阪の人だから(関西人だから)というより、もしかしたら、ちょっと変わり者かもしれない。
会社のタクシーではなくて個人タクシーだったから、これはわたしの想像だけど、
そのおっちゃんにも、よそさまには「他人事」でしかない、いろんな人生があったのかもしれない。

「人ごとですねん」という言葉に、不思議なんだけれど、なぜか安心して聞いていられる自分がいた。

人ごとだから、普通に接してくれる。
こういうのも、優しさなんだと思う。