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カラスの親指 道尾秀介
作者の本の特徴である後半のどんでん返しは本書でも健在だったが、あまり驚きはなかった。作者のそうした手法に慣れてしまったせいか、明示的に予想できていたわけではないにもかかわらず、あまり大きな驚きではなかった。もう1つのあまり驚かなかった理由は、どんでん返しの性格である。どんでん返しには2通りあって、1つは読者をその書きぶり・言葉遣いで間違った理解に誘導しておいて、最後に種明かしするという類のトリックである。例えば、「彼」という指示代名詞を使って記述し、読者には「彼=登場人物A」と思わせておいて、実は「彼=登場人物Bでした」と種明かしするようなトリックである。この場合、騙されているのは読者のみで、語り手は同じ事象を別の内容のものと理解していることになる。もう1つのどんでん返しは、謎が語り手にとっても未知のものであるようなトリックである。両方とも、あまりやりすぎると「アンフェア」とのそしりを受けるが、読者にとっての「騙された」という思いは、前者の方がかなり大きい。前者の方が、書く方としても難しく、読者もあまりそうしたトリックに慣れていないので、驚きも大きいのだと思われる。私としては、本書の作者は「乾くるみ」と並んで前者のトリックの第一人者というイメージがあったので、本書のような後者のトリックでは物足りないと感じてしまったのではないかと思う。内容的には、完全なハッピーエンドなのだが、こうした話が読んでいて不自然に感じられない社会には恐ろしさを感じざるを得ない。(「カラスの親指」道尾秀介、講談社)
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